滑り落ちるもの-2




 外に出ると雨上がり特有のもわりとした空気が肌に触れた。大陸でも南に位置するサラボナは比較的湿度も気温も高いのだ。
 いつもは少し苦手な空気だったけれど、今はなにもかもきれいで美しく見える。



 朝方の花嫁選びの際に選ばれたのは私だった。私も彼を好いていたし、彼も私を選んでくれた。何も滞りない縁談だ。

 幸いこの町一番の富豪は彼を気に入っていたから、手はずも十二分に整えてくれるはず。

 それに、彼と私にはなにか特別な縁がある。
 どうして、と言われればわからないのだけれど、逢うべくして出逢ったような気がしてならないのだ。
 だからかもしれない。昔に少し接しただけ、今だって再会したばかりなのに、こんなにも惹かれるのは。
 ずっとずっと昔のことだったから彼は忘れているかも知れないと思っていただけに、もうひとりの彼女でなく私を選んでくれたのは飛と上がるほどうれしい。



 びゅう、と吹き付けたぬるい風でスカートはなびき、私の長い髪はふんわりとなぶられた。
 それを軽く手で押さえつつ、私はレンガ造りの道を軽やかな足取りで歩く。

 シンプルだが上品な色合いでまとめられた住宅街を抜けると、色鮮やかな布や煌びやかな装飾品で飾られた店が立ち並んでいるのが見えた。
 防具店のカウンターで盾らしきものを磨いていたスカーフにエプロン姿の中年女性が私を見てニッと笑う。

 「よっ、花嫁さんじゃないか」

 「あっ、こんにちは」

 私が選ばれたことは町中に広まっているようだった。たった数時間前の話なのに、皆耳が早い。

 でもそうなれば、選ばれなかった彼女はどうなるのだろう。

 中年女性の前を通り過ぎながら、私はそんなことをふと考えた。

 でも、それは私のエゴ。所詮どんな形であろうと、私が彼女に悪いと思うのは、私のくだらない同情や哀れみなのだ。
 彼女とて触れてほしくはないはず。彼女だって彼を愛していたのだから。


  
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