白金の羽 | ナノ

突風のような



意気揚々とまではいかなくともそれなりに気合を入れて城に入った一行だが、城は大きく入り組んでいて、一体全体この階段のどれを登れば王に会えるか皆目検討がつかない。

「えっこれどっち? どこいけばいいのこれ?」

「アタシもお城なんてそうそう入るモンじゃないし知らナイわヨ!」

「ほらほら、こっちだよ。お城は大抵城門からまっすぐ入って真っ先に目に付く階段に登って、中央に向かえば玉座の間に行けるの」

逆をいえば戦慣れしてたりするところは玉座の間までまわり道したりわざと玉座の間を中央から外れた場所に置くんだよ、とミナモが説明して、なんだなんだと寄ってきた兵士をたしなめたのちアドリアとサンディを連れて入ってすぐ見えた階段に登っていった。

もちろん城というだけあって目前の階段を登ればすぐ玉座、というわけでもなく、いくつか階段を登らなくてはならなかった。城の中は豪華な装飾品で惜しげもなく飾られており、廊下に置かれた大きなツボの類はアドリアが旅芸人として何年働いても買えないような値段であることは間違いなかった。それでもサンディは「アタシならピンクのスパンコールとかもっとつけるわネ」と述べていたが。

そうして歩いていくうちに、目の前に大きな扉が見えてきた。

「しっ、静かに!ここ行ったら玉座の間だからね」

「そうだよサンディ静かにしなよ」

「……アドリアもだよ。なーんだ、全然緊張してないの。さっ、行こ」

アドリアは天使にしても人間にしても、肝は据わっているほうだ。
アドリアは扉に手をかけて、そっと押し開けた。しかし想像していた静けさとは違い、玉座の間からは荒々しい声が響いてくる。

「やっぱりお父さま、黒騎士退治に見ず知らずの方を雇おうなんておかしいです!今からでも遅くはありません。ここはフィオーネが自ら黒騎士のもとに……」

「何度言ったらわかるんだ、フィオーネ!あんな不気味な男に一人娘を差し出す親がどこにいる!」

「ですが、黒騎士の目的はこのフィオーネなのです!わたしが赴けば済む話です。これ以上民を不安に襲わせたくはありません。お父さまもおわかりでしょう?」

「近隣のエラフィタにも充分な人員を赴かせておるし、民の不安も時が解決しよう。なにもフィオーネがそこまで心痛める必要はないのだ!」

長く豊かな栗毛を頭頂部できりりと結んだ緑のドレスの女性は、今まで何の穢れにも触れたことのないような白い肌を紅潮させ、玉座に座る豊かな髭の中年男性に語りかけている。間違いなくセントシュタインのフィオーネ姫と王だろうが、お互いに必死な形相は一国の王と姫という以前に普通の父娘のようであった。

「ねえアドリア、これどういうコト?黒騎士とかっていうヤツの望みはフィオーネ姫サマなの?」

「うん……話を聞いている限りは、そう聞こえる。けど」

「こんなに話し込まれたら、わたしたちいつお話すればいいんだろ?」

しかし、ミナモの心配は杞憂なようだった。

「……ウェッホン。おぬしらは一体……はっ、ぬしらはもしかしなくとも城下の立て札を読んで……?」

たっぷりした髭を震わせてわざとらしく席をする王の前――といっても玉座は1段高い場所にあるため目線は王のほうが高いが――に並び、はい、とアドリアが返事した。その間フィオーネ姫はじっと玉座に敷かれた絨毯の模様を見つめて手を強く握っている。さすがに美姫と謳われるだけあって、美しい整った顔立ちをしている。

「こら」

ミナモに小突かれて、アドリアは再度王に向き直る。心なしか王の顔は晴れやかだったものの、王のとなりの椅子に座る王妃のすすり泣きの声で悲壮感の漂う雰囲気になってしまっていた。

「おお!そうかそうか……黒騎士退治を引き受けてくれるのか。うむ」

王は嬉しそうにしているものの、どこか歯切れが悪い。ミナモのほうをちらりと一瞥すると、ううむ、とまた呻いた。

「彼女がどうかなさいましたか?」

「いや、黒騎士退治を買って出てくれたのは非常に嬉しいのだが、さすがにそのような幼い少女まで連れていくのは……おぬし、そこの少女の兄か? 顔立ちは似ていないようだが」

「違います。わたしは19歳ですし、それに彼はわたしより年下ですから」

王に謁見するためターバンをとっていたミナモの顔は笑っていたものの目はとてつもなく冷ややかで、幼い少女扱いだったのが我慢ならないらしく年下という単語を強調した話し方をする。

「彼女……ミナモは本当に19歳です」

本当に19歳かはわからないが、たぶんそうだろうと思ってアドリアも嘴を挟む。そうすると王も黒騎士を退治してくれるのであれば、とその問題には触れないことにしたようだ。

「……ウェッホン。事件についてだが、単刀直入に言うとあやつはフィオーネを狙っておるのだ」

アドリアの耳元でサンディがやっぱアタシ勘良すぎ!と言っているが、本当にそうだったらしい。フィオーネ姫も黙って強く握った左手を右手でほぐしている。

「あやつはフィオーネをシュタイン湖に連れてこいなどと言っておる」

「場所がわかっているなら……」

「あー、あやつは居場所をわざと明確にして、シュタイン兵が攻め入って城の守りが手薄になったとき攻め込むつもりなのだ。そうに違いない!しかしかといって放置するわけにもいかぬ。だからぬしらのような自由に動ける人材が欲しかったのだ」

「はあ……そうですか」

黒騎士も相当嫌われたものだ。
アドリアがそう思っていると、ついに今までだんまりだったフィオーネ姫が口を開いた。

「見ず知らずの旅人の方を巻き込むなんてあんまりです……!お父様」

「おまえは黙っていなさい。おまえだけの問題ではないのだからな」

王は何かを追い払うような仕草をしてフィオーネ姫を見ると、今まで平静を保っていた姫が声を荒げた。

「私の気持ちなんて知ろうともしないで……!」

そう残すと、突風のように走って玉座の間から姿を消してしまった。
――自分を狙う黒騎士に、なぜそこまで肩入れするのだろうか。

それはアドリアの頭にさくりと突き刺さって、じわじわと広がっていった。その理由がわかるときは、果たしてくるのだろうか。

不意にどこかから入ってきた風が、アドリアの前髪を揺らした。

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