白金の羽 | ナノ

赤、青、白



  王都セントシュタインは、代々男性が国王となりこの土地を護ってきた。領地は花の都と呼ばれるサンマロウとも引けを取らないほどに広大で、人口もそれに違わず多い。
  王城もさることながら城下は特に賑わっており、かつて宿王も身を置いていたという宿屋はその核たる存在である。

  その宿屋で楽しげな声に囲まれながら一際落ち込んだ色を浮かべるのは、先ほど天界に帰る予定だったアドリアだった。

  「もぉー、アンタ元気出しなさいヨ!  星のオーラたくさん集めて神サマに見つけてもらおうってきめたジャン」

  意気揚々とウォルロ村を出たふたりは一目散に天の方舟に乗り込んだものの、方舟は動かなかった。サンディには一時本当に天使なのかと怪しまれもしたが、こんな妖精を見ることができる人間の変人はそうそういないか、と不本意ながら納得された。

  とりあえず人がたくさんいそうなセントシュタインに向かって、星のオーラを山ほど集めて、雲の向こうにいる神に自分達の存在に気付いてもらおうという案でひとまず落ち着いた。

  「ちょっとアドリア聞いてんの?」

  「聞いてるよ」

  今頃天界に帰還できているはずだったのにとぼやくアドリアに蹴りを入れるサンディだったが、小さい体躯で行われるそれは大した衝撃もなかった。

  「うんまあ、リッカの様子を見ることができたのはいいのかなーって思うけど」

  アドリアはカウンター席から向こうで働くリッカを見る。忙しなく動き回る様子は見ていて気持ちがよく、すでにリッカは大体の客に好かれているようだった。

  少なくともうまくいっているということが確認できたことはよかった。

  「そーいえば、星のオーラ集めるったってどうするつもりヨ?  地道に馬の糞集めでもするワケ?」

  「それはまあ……それくらいしかないよね」

  カウンターでこそこそ計画を立てるふたりだったが、馬の糞集めだけで国じゅうから星のオーラは集められることは希望薄だった。






  「そこの旦那、気難しい顔してどうしたんだよ?」

  始終気難しい顔のアドリアの目の前に突如酒が並々注がれた器が置かれて、声をかけられた。アドリアとサンディは恐る恐る器を持つ人物の顔を見ると、そこには赤毛の青年がいる。

  燃えるような赤毛を耳にかかる程度で切り無造作に整えたその青年は、愉快そうな顔をしてアドリアの顔を覗きこんだ。きりりとつり上がった切れ長な目は鷲色で、その肌は日焼けしている。愉快そうな表情をしているのに緩んだ雰囲気は感じられず、冬の澄んだ空気のように静かな印象を受けた。格好からして職業は兵士だろうか。

  「ちょっと実家に帰るのが延期になって」

  とりあえず嘘はついていない。

  素っ気ない受け答えだったのにも関わらず、青年は楽しそうだった。

  「あー、あの大地震で船便もめっきりだしな。それか旦那、出身はベクセリア?」

  「違うよ」

  「ならまだよかったかもな。あそこ今のセントシュタインと同じくらいゴタゴタしてるし」

  同じくらい、ゴタゴタ。

  ということは、ゴタゴタしているらしいベクセリアと同じくセントシュタインもゴタゴタしているということか。
  サンディもアドリアを小突いてきた。

  「ゴタゴタしてるってどういうこと?  セントシュタインって今なにが……」

  アドリアが言いかけると、青年はからりと笑ってアドリアに酒入りの器を持たせてカウンター席から立たせると、4人がけのテーブル席へと引っ張ってきた。しかも、

  「よく来たね、青年よ」

  そこには青髪の中年男性が座っている。どうやらこの赤毛の青年は男性と知り合いらしい。
  青年とは真逆の青髪が目立つ頭は歳のわりにはふさふさしていて、狐目と八重歯は男性をより油断ならないような存在に見せる。中でもとりわけ目立つのが、左手薬指に嵌る蒼い石がついた指輪だった。

  そのまま青髪の男性の前、青年の隣に座らされると耳元でサンディが、何よこれなんかのアヤシイ商売じゃないの、と物騒なことを言い始める。

  「そんなに固くならないでいいから」

  「そうそう、このおじさんと俺も42分前に会ったばかりだしな」

  警戒しまくるアドリアを見て笑いながらそう言うふたりは、見た目は違えど似通って見える。しかし、どう足掻いても血縁には見えない。

  「――そうだ、セントシュタインの事件についてだったね」

  「はい、できるだけ詳しく」

  アドリアが身を乗り出すと、男性はアドリアの前に置かれた器を見る。

  これは呑めということだろうか。

  この酒はこのふたりのどちらかの奢りのため、一口呑んでしまえば貸しを作ることになってしまう。

  アドリアは人間界では齢18の設定だから、別に呑んでも違法ではない。17を過ぎれば酒煙草や賭け事は許されるのだ。
  アドリアが少し悩んでから酒を口に含むと、男性と青年がにっこり微笑んだ。親子でないはずなのに、なんでこうにも息ぴったりなのか。






  「それで、セントシュタインの話は俺からするよ」

  青年が口を開く。

  ――なんだか先ほど呑んだ酒が、喉を熱くさせた。


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