不安の種
村長に説教されている間に日はとっぷり落ち、空には星が幾つか見えた。今日は雲が多かったからか、「数え切れないくらい」の星ではないが、それでも美しいことには変わらないだろう。
アドリアとリッカは村長宅から出た後リッカの家まで歩いていたが、その間終始無言である。勝手に外に出たことを怒っているのだろうか、とアドリアは前を行くリッカの背中を見つめるも、自身より小さい背中からは何も見えてこなかった。
橋を渡った頃、リッカはふいにアドリアの名前を呼ぶ。
「アドリアって私が思ってたより、ずっと強かったんだ。ニードと一緒に峠まで行って帰ってきちゃうなんて」
「旅芸人名乗ってるだけあるしね」
(いや、実際は旅芸人じゃないんだけど)
心の中でしっかり訂正を入れるアドリアだったが、振り返ったリッカの月の光に照らされた顔は浮かなかった。
「ルイーダっていうひとのこと、気になる?」
アドリアの言葉を聞いてリッカは微かに首を縦にふる。
「でも私は、武器も扱えなければ魔法だって満足にできないのよ。探しに行こうったって……」
俯いたリッカにどう声をかけたらいいのかもわからないまま家の扉の前に辿りつくと、リッカは先程の落ち込みを消し飛ばしたような笑みを満面に浮かべてアドリアを見る。
「でもアドリアには関係のないことだし、気にしなくていいからね!」
そう残すと「早くおじいちゃんの晩ご飯作らなきゃ」と、未だ複雑な表情のアドリアを引っ張って家の中へ入っていった。
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