ドアをノックするといつもの明るい声が鍵が開いてると教えてくれた。俺は少し緊張しつつ中に入った。 「えと……失礼します…」 「おー喜入!よく来たなあ!」 「あ、こんにちは橘さん」 橘さんはいつものブレッシングの隊服ではなくシャツにズボンとラフな格好をしていた。 今日は橘さんに呼ばれてシュークリームを作りにきた。橘さんは俺のシュークリームを気に入ってくれたみたいで、作るとこがみたいらしい。作る過程なんてみても暇だと思うんだけど……。 「じゃあ台所お借りしますね」 材料を調理台に置き、一緒に持ってきたエプロンを着る。 (最人がシュークリーム作れないので中略) 「……んでクリームをいれて完成です」 「はーやっぱ喜入は凄いな」 「あ、ありがとうございます!えと…立って食べるのもなんですし座りませんか?」 「んーそだな」 橘さんは出来上がったシュークリームを持ってリビングの方に向かった。俺は紅茶を二人分注いで橘さんの後をついていった。 ソファに腰掛け、紅茶とシュークリームを皿に置いて橘さんに渡す。 「はい、どうぞ」 「おっさんきゅ」 橘さんはシュークリームを食べるといつもの笑顔でうまいと称賛してくれた。俺はまだまだですよ、と空になった皿にまたシュークリームを置いた。 「あーほんと喜入は料理がうまいな 嫁に来てほしいくらいだ」 「え!あっうえ、その…!!まだ俺結婚しませんし!!!俺は男ですから!」 嫁という言葉に敏感に反応してしまい、目をキョドキョドさせながら手をバタバタと振る。よくいわれてるはずなのに、橘さんに言われるとどうにもパニくってしまうようだ。 「ははっ冗談だって」 「…!あ、で、ですよね!」 いつものやりとり。冗談だという橘さんにいつも安堵する自分以外に少し落胆する俺がいる。 冗談なのは当たり前だとわかっていても期待してしまう俺がいる。これがどうしてか、その答えはもうでているけど、嘘であってほしいと願う俺がいて、その答えを心の底にしまっている。 「喜入ー?元気か?」 俺がずっとうつむいているのを心配してか橘さんが下から覗き込むようにしてきた。 「あっえとはい!!元気です!少し悩み事があっただけで……」「甘えろって」 へ? 橘さんはそういうと俺の肩を抱き、自分のほうに寄せてきた。俺は急な事で力に逆らえずそのまま抱き寄せられる形になった。そのままいつも広野にするみたいに大きな手で撫でられた。 「あ、えとあのたたたっ橘さっ!!?」 「いーからいーから」 全然よくないです!!! と心で拒否をするけどその手は暖かくて、とても心地よかった。 (ほんとに父さんみたいだ…) いつか甘える広野を困惑しつつも抱っこして撫でてやってるのをみて昔同じように広野のお父さんがしていたのを思い出した。 一度広野のお父さんに頭を撫でてもらった。広野のお母さんと作ったクッキーを食べて、お前は料理が上手だね、と言ってくれた。 (気持ちいいなあ) 橘さんは俺のお父さんではない。ただ、嫁に来てほしいと言われて、それが冗談でも期待してしまう。 (なんなんだろうなあ…でも) ……もう少しこうしていたいな… コンコン 「おーい丞慈くーんいるー?」 「!!!!?うわああああ!!!?すっすいませえええん!!!」 「そ、総督!?」 「ちょっと用があってねー」 「あ、い、今行きますんで!すまん喜入いってくる!!」 「おっおっお気になさらず!!!」 バタン ゆったりまったりとした空気は急にきた総督さんの登場でかき消された。いやある意味よかったかもしれない。うん、あのままだとなんと言いだしてたことか… (うーん何もいわずに帰るのも失礼だろうし……) ぼーっとまわりを見渡す。片付けると言っていたけれど、いつもバタバタしてるのかやっぱり少し汚い。する事もないしこういうのは広野の世話で慣れてるのでやってしまおう。 乱雑に山積みされたプリント類を種類別にわけていると、小さな写真たてがあった。邪魔にならないように除けようと思い、手にとった。 (ああ……) 一枚の写真。女の人と小さな男の子と…まだ今よりは若い頃であろう ……橘さん。 そりゃあ、あの人も失礼ながらお世辞にも若いとはいえないし、結婚して子供がいたっておかしくはない。前に奥さんがいたとも聞いた。 だけど…… 「あれ、……なん、で…」 なんで?あの人に奥さんがいておかしくないのに 奥さんがいることも知ってるのに ただ一枚の、写真に なんで、こうも現実を突き付けられたような 嫌な現実をみせられたような なんで、なんで…… なんでこんなに涙が溢れるのだろう (貴方が俺に優しくするのは 貴方の息子と俺が 同じくらいの年にみえるからですか? 息子と俺を重ねているのですか?) ―――――――― うさうさ宅の橘さんをお借りしました コミュのを少しかえてみたたいしてかわらんグダグダ感 [*前] | [次#] [戻る] |