14、鬼女、地獄にて待ち構える。
「俺に惚れてるんだよ」

そう濃姫に言ったとき濃姫は驚いたような表情を見せた。
だがどこか安心したような表情なのは何故だ?まぁ、そんな事はどうでもいい。
濃姫はまるで子供のように「信長様に惚れている」と振り替えし呟いていた。

俺はそんな濃姫の頭を撫で「ああ、そうだ」と言ってやると濃姫は初めてとも言える笑顔を俺に見せた。

「濃は、信長様の事が好きなのですね?」

「ああ」

「それでは」と言って濃姫はもじもじと体を動かしながら
「信長様は濃の事が好きですか?」と聞いてきた。

その濃姫の質問に頷いてやると濃姫は熱っぽい視線を俺に向けた。
ああ、やっぱり女はこうでなくちゃな!俺は濃姫に噛み付くように首に唇を落とした。
色っぽい声を出す濃姫。人間自覚するとここまで変わってしまうものか。
やっぱり女は飽きねぇ。

首から唇を離すと白い肌に赤い花が咲いたようにそこだけ赤くなった。

「どうした濃、俺が怖くねぇのか?」

意地悪にそう言ってやると濃は
「怖いです。美しすぎて。」と返事する余裕が出来るほど。
子供っぽさなどどこへ行ってしまったのかと驚くほど大人の女へと変わっていた。
女は恋をすると変わるっつうけどな。

そのまま事をしてしまおうかと思ったが、右腕が痛ぇし、足を挫いたのか左足首までもが痛くなってきたときた。
できねぇ事もねぇが、もうすぐ医者の奴も来るだろうし、俺は濃姫に「続きは夜のお楽しみだ」とだけ言って
耳元で囁いて耳をべろりと舐めると濃姫はぶるりと体を震わせ「・・はい」と熱っぽい声で答えた。

暫くしてから医者が来て右腕や体を見ると、右腕は折れているとの事。
左足は捻って捻挫でもしたんだろうと言われ足を冷やし、腕を固定させて医者は帰った。
窮屈になった右腕、左足を見て「チッ」と舌打ちをした。

こんなんじゃあ、普段の生活をするにも色々と面倒だし、運動もできねぇ・・・。
まぁ、自分がした事だし仕方ねぇかと今度は溜息をついた。

医者が出て行ってから暫く、女中と共に濃姫が姿を現した。
その顔は「心配」という文字が張り付いたような表情だった。
濃姫は俺のもとへ早足で来ると、俺の隣にぺたん、と座り「何か欲しい物がありますでしょうか?」と聞いてきた。
濡れている黒い瞳を見つめ、「濃が欲しい」と冗談を言うと濃姫は顔を真っ赤にさせ俯いた。
おいおい、さっきまでの色っぽい、誘うような瞳をしていた濃姫はどこに行ったんだ?

俯く濃姫の肩を叩き、自分の頬を指差せば、濃姫は意味が分かったのかさらに顔を赤くさせ少し躊躇ってから俺の頬に唇をよせた。
素直に自分の言う事を聞く濃姫に「いい子だ」と言って頭を撫でると濃姫は嬉しそうに微笑んだ。

女中達は俺達を見て驚き硬直している。
濃姫は今まで俺の事を散々嫌っていたのか、女中達は俺が何か薬でも盛ったのではないのかと勘違いしている。

ハッ!俺が薬なんて盛るかよ!俺は薬なんてそんなもんなんかに頼んなくとも自分の実力でやっていけんだよ。

俺は濃姫にお茶を頼むと濃姫は笑顔でお茶の準備をしに行った。
慌てて濃姫の後を追いかける女中達を見送り俺は煙管を取り出し。
火をつけ唇に寄せた。

そして咽でクックックッと笑う。
ありゃあ、妻じゃなくて犬だな。忠犬だ。

ふう、と息を吐いて足を組むと天井に視線を向けた。

「降りて来い」

そう言うと、天井からスタッと降りてきた忍び。俺の命を狙ってやがる馬鹿だ。
ずっとこいつの視線には気が付いていたが今日は俺が
怪我をしたという事で殺るチャンスを狙ってたんだろう。

「よぉ!」

俺は左手を挙げ軽い挨拶をした、が、無表情の忍び。その手には刀が握られていた。

「へぇ、俺を殺すのか?」俺は笑顔で聞いた。それでも忍びは答えない。
まぁ、忍びだしな。答えるほうがおかしいか。
それなりに優秀だと思うぜ?この忍びは。隙はないし、構えもしっかりしている。
だが、どうもちゃんとした情報は回ってなかったのか??
俺は近づく忍びの頭を目にも見えない速さで後ろから銃を取り出し、頭に弾を撃ち込んだ。

その刹那、大量の血を流して忍びは倒れた。痛みを感じる事も無かっただろう。
どくどくと動かない屍から絶え間なく流れ続ける血を見て心を少し躍らせていたが
すぐに、部屋が汚れてしまったという現実に引き戻され嫌な気持ちになった。

こいつは小姓達に片付けさせるか。もうすぐここに来るだろう。
それにしても、こんなにも弱いとは拍子抜けしてしまう。忍びがここまで弱くてどうする。
俺を殺すっつーんなら婆娑羅者でも寄越せよ。俺も舐められたものだな。
そう考え、がりがりと動く左手で頭を掻いた。



忍びは来た小姓に片付けさせた。
人の死に泣きそうな顔をする濃姫に、これが生きるために必要な事だというと
濃姫はすぐに泣くのを止めた。

「俺と一緒に居たけりゃあ強くなれ。」

そう言うと濃姫は真っ直ぐとした瞳で俺を見つめ首を縦に振った。
ああ、お前は本当にいい女だよ。

今日はいい日だ。濃を手に入れ、心が晴れ晴れとする。怪我もしたが、これは仕方がないと考えよう。
それに、いい事がもう一つあった。

俺の糞母上が子を腹に宿したそうだ。

俺の可愛い、可愛い、妹になるべき子を。




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bkm


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