13、花弁を握りつぶした。
今日は何をしようか。
なんて考えて俺は庭に出た。朝日を体に浴びながら両腕を天に伸ばし体を解し、さらに肩を片方ずつぐるぐると回した。

昨日は女と長くやりすぎて寝たりねぇが、朝日が昇ってんのに寝ているのはあまり好きじゃねぇ。
眩しくて二度寝も出来やしなかった。最悪だ。そんな怒りと逆切れで眩しい朝日に俺は中指を立てた。

そんな時「信長様!」と言ってまだ幼い小姓が走ってやって来た。
振り返り「あぁ?」と言って俺は欠伸を一つ。

「それが、いい馬が手に入ったとの事で、信長様に見せたいと」

「馬か、分かったすぐ行く」

そう言って微笑み俺は小姓の頬に唇を落とした。
小姓は頬を赤らめわたわたとし始めた。
女みてぇな反応しやがって。
俺はクククッと咽で笑うと小姓はさらに頬を赤らめ「の、信長様参りましょう!!」と言って俺を急かした。

「しょうがねぇな」と言って俺は歩き始めた。後ろから小姓が着いてくるのが分かる。
馬小屋に着くとそこには俺の今もっているお気に入りの馬と似たような黒毛の馬がそこにいた。
ただ違うのは大きさだ。少し来た奴の馬のほうが大きさが大きかった。

「いい馬じゃねぇか」

そう言って俺は馬を見つめた。

「ええ、こいつは早くて力もあるんですが、少々気性が荒く・・。」

と馬の横にいる初老の男が話した。
いいじゃねぇか。気性が荒いのがどうした?力でねじ伏せてやればいい。
俺の考えが分かるのか、馬は「ぶるるっ」と唸って俺を見た。

「気に入った」

俺はにやりと笑うと「早速こいつで狩に行くか」と言い家臣に言った。

「し、しかし信長様!もう少し馴らしてから・・・」

とおずおずと言う男。そいつを一睨みすれば男は「いいえ、信長様だったら大丈夫ですよね」と言って苦笑いをした。

俺は準備を終え家臣達数人を引き連れ狩に行くことにした。
馬はさっきから落ち着きがなく馬を牽いている男はびくびくしながら馬を牽いていた。
とりあえず今のままでこいつがどこまで暴れん坊なのかを知るためにここで乗ってみることにした。

家臣たちは俺を心配そうに見ていたが俺は馬ごときにやられるとは思っていないため余裕たっぷりだ。
俺は暴れる馬に手を伸ばした。瞬間馬のさらに暴れ俺を蹴ろうと足を伸ばしてきた。
小さな悲鳴を上げる家臣。
俺はそんな家臣の声は無視して馬の足を素手で取ると馬を投げ飛ばした。

ものすごい音と共に上がる砂埃。目を点にして口をあほみたいに開けている家臣。
その体にどれだけの力があるのだろうと家臣達は口にならずとも誰もが思った。
ごくりと、誰かの唾を飲み込む音が生々しい。

馬は起き上がると、未だに暴れようとしていた。
元気がいいじゃねぇか。
俺は腕を組んで向かってくる馬を待った。

その時「信長様!」と言う声が聞こえた。
声の先を見るとそこには小走りで走ってくる濃姫の姿が見えた。
馬も濃姫を見る。その瞬間う馬は俺ではなく濃姫に向かい走った。

突進してこようとする馬に気が付き体を強張らせる濃姫。
恐怖で体は竦み上がり動けない状態だ。

『馬鹿が!何で来たんだ!!』
そう罵る前に俺は素早く走り濃姫を抱えた。
右腕に走る激痛。その激痛に俺は顔を歪めた。

腕の中の濃姫が青白い顔で、眉間に皺を寄せまたもや泣きそうな顔をしていた。
それでも俺は濃姫に傷が付いていない事を確認すると立ち上がり
無事な左手で再度突進しようとする馬を止めた。
そしてその馬の左側の足をぼきりと折った。
馬は悲鳴のような声を出して倒れた。

家臣達は濃姫と同じように恐怖で顔が真っ青になりながら俺達のほうに走って来た。

「の、信長様!!」
「大変だ、右腕を負傷しておる」

そう言って家臣の一人が医者を呼ぶ為に反対側へ走った。

「おい」

俺は家臣達に言った。
地を這うようなその声で皆びくりと固まりその場に動けなくなった。

「その馬を処分しろ」

倒れこみ立ち上がろうとしている馬を冷めた眼で見ながら言った。

「は、はい」

家臣たちは返事をすると馬を別の所へ運ぶために馬に近づき
城の者を少し呼んでこいと言う一人の家臣の声に一人動いて城の中へと入っていった。

動こうとした瞬間に右腕の激痛により俺は顔を俯かせた。
こんな情けない顔を見せるわけにはいかない。
その時俺の腕に抱えられている濃姫が俺の胸元の着物を握り締め泣き出した。

またか。

三回目の濃姫の涙にはもう慣れてしまった。
まぁ、今回は自分の命がかかってたんだ。泣くのは普通だろう。

左腕だけで抱えている濃姫をあやす様に左手でぽんぽんと叩いた。
そのまま左腕だけで濃姫を抱えながら立ち上がった。
家臣達には部屋に戻る、医者が着た俺の部屋に通せ。とだけ伝えた。

部屋に戻ると濃姫をゆっくり下ろし再度怪我が無いか確認した。
濃姫はさっきから泣きながら「ごめんなさい」と言う言葉を繰り返している。
そんな言葉に俺は「かまわねぇさ」と短く答えた。

流石に痛い。もしかしたら右腕が折れてるかもしれねぇ・・・。
ああ、ったくなんでこいつは俺のところに来たんだ!!こなけりゃあこんな思いしなくとも良かった。

「濃、何故俺の所に来た」

一呼吸置いて俺は濃姫に聞いた。
すると濃姫は嗚咽の漏れる声で「信長様に謝りたかった」と言った。
謝りたかったというのはこの間のことだろう。別に謝られても俺にはどうにも出来ない。どうでもいいことのために俺のところに来たのか・・・。

はぁ、と俺は深い溜息をついた。
濃姫が唇を噛んでさらに深く頭を下げた。その濃姫が「それに・・」と言葉を繋げた。

「信長様に会いたかったんです。」

深く下げていた頭を上げ、涙でぐしゃぐしゃになった顔で濃姫は言った。
俺に会いたかった??はっ!!おもしれぇ事言うじゃねぇか!!

「どうしてだ?」

胡坐をかいている足に左腕をかけ、その左手で自分の顎を押さえる。
そして、泣き続ける濃姫の顔に近づき見つめた。

「分かりません。けれど、何故か会わないといけない気がしたんです!」

俺は何とも気の抜けた様な返事を返した。
何故か?会わないといけない気がした??それは一体どういう風な意味合いだ??
濃姫は俺のこと嫌いじゃなかったのか??

もやもやする気持ちのまま俺は左手で濃姫の顎を持ち上げた。
驚く濃姫の顔、瞳を見つめていると濃姫は顔を赤らめた。
その瞬間俺はわかった。濃姫の憎しみが、愛に変わる瞬間。
濃姫は俺に惚れた。多分本人は無意識に。
もしかすると濃姫は好きという感情を知らないんじゃないのか??

「濃。」
「はい」
「俺の事どう思う?」
「分かりません・・・。」
「俺を見るとどうなる??」
「・・・心臓が痛くなります」
「俺が濃を見つめているとどうなる?」
「体が熱くなります・・。」
「俺が濃に接吻をするとどうなる?」
「・・・心臓が壊れそうになります。」

一つ一つの質問に真剣に答える濃姫。
ああ、やっぱりそうだ。
俺は濃姫を引き寄せ、耳元で囁いた。

「お前、俺に惚れてるんだよ」





prev next

bkm


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -