10、瓶の中の私。
(濃姫視点)


父上と母上からお前は織田家の信長に嫁ぐことに決まった。と告げられた。
織田信長と言えば女たらしで、大うつけ、奇抜な格好をしては人々の注目を浴びていると言われているあの人ではないですか。

私は嫌だった。だけど父上と母上に言えなかった。
女は嫁いで男の人に尽くすのがお役目だ。それを嫌だと言ったらきっと父上と母上に怒られてしまう。

けれど、あんな話を聞かされている人のところになんて行きたくない!
一人部屋で泣き、乳母達に慰めてもらおうとした。だけども、

「姫様ならきっと織田家一番の妻になれますよ。ですから、そんな心配なさらないで下さい」

「違うの!私は織田信長と言う人のところへ嫁ぎたくないの!!」

「姫様、そんな事仰ってはいけませんよ。」

「けれど!!」

乳母さえも私の味方をしてくれない。
嫌なのに、頭の中ではそんな事言ってはならないというのは分かっているのに!
けど、本当に嫌なのです。私は織田信長と言う御方が怖いのです。

私の気持ちも知らないで時間ばかりが残酷に過ぎていきます。
そしてとうとう織田家に嫁ぐ日になってしまいました。
もう、逃げ出したくて逃げ出したくて仕方がありません。しかし、ここで私が逃げ出してしまえば斉藤家の面目が潰れてしまいます。
それに今回の婚約は政略結婚だということも知っています。
私一人にかかっているのです。

織田家に向かう途中の景色を眺めながら私は私のこの生まれた年を恨みました。
泣きたくもなりましたが泣いたら化粧が落ちてしまいますので私は必死に堪えました。
織田家にはあっという間に着いた様な気がします。私はゆっくりとした足取りで城へ向かいました。

女中さんに信長様や義父上・母上の元へと案内されました。
心臓がまるで自分の心臓ではないくらい、それほど緊張したのは初めてでした。
三人がいらっしゃる部屋へと足を運ばせると目の端にきっちりと着込んだ信長様が見えました。

目の前に座り挨拶をして顔を上げると信長様の顔がよく分かりました。
息を呑むほど、女の私が嫉妬するほど美しく、綺麗でどこか妖しげな雰囲気を纏っていました。
ばちり、私と信長様の目が合った。私は慌てて信長様から目を逸らしました。
何故だか信長様を見ているとざわざわと心が騒ぐのです。一体なんだと言うのでしょう。

無表情ともとれる信長様の口から「ほぉ」と声が漏れました。
その声がまた色っぽく私はさらに心臓が激しくなりました。

式はとても盛大に行われました。
私はほとんど意識の無いまま、無意識に式の中を過ごしていました。
緊張、緊張。それしかありませんでした。

式も終わり私と信長様は二人部屋でお過ごしになるよう義父上、母上に言われ私は、半ば強制的に二人っきりにさせられてしまいました。

お綺麗な信長様の隣に居るとなんだか私は醜く、場違いなのではないか
信長様に相応しくないのではないかと思ってきてしまい、悲しくなった。

せっかく信長様が私に話しかけてくださっているというのに私は緊張で短い返事しか返せませんでした。
こんな女つまらないと、お思いになったに違いありません。
信長様の顔も見ずに返事なんて、最低ですね。

きっと、信長様は私なんて興味ないのでしょう。それなのに無理やりこんな私なんかと婚約されて・・・・。
謝りたい気持ちで一杯です。

そんな時、いきなり信長様に腕を引かれ信長様の胸へと飛び込んでしまいました。
私は何が合ったのか、何でこんなことになっているのか。
未だ追いつかない頭を頑張って考え、あ、信長様に腕を引かれて・・・
と考えているうちに信長様は私の顎を掴み唇を私に唇に重ねてきました。

初めての事に私はただ、ただ動けず目の前の整った顔立ちの信長様の顔を見ていました。
そのうちに信長様も目を開け、近い距離で私と信長様の瞳が合いました。
信長様の瞳は不思議でまるで妖のような、そう妖。
信長様は妖のような、人間とは思えない雰囲気を纏っていらっしゃるのです。

新たな恐怖が私を襲いました。
息が苦しくて、恐ろしくて私は信長様の胸を叩いていました。
唇が離れるとき信長様がべろりと私の唇を舐めていきました。
その離れる瞬間の信長様の顔はにやりと笑っていらっしゃって、
私はもしかしたらこのままこの方に食べられてしまうのではないのかと言う恐怖に震え、泣き出してしまいました。


信長様を見ると、睨むように私を見ていました。
怖くて、蛇に睨まれた蛙のような心境。


きっと、この気持ちは信長様へと恐怖。信長様への怒りなのでしょうか?
心臓が潰されるように痛いのはきっとそうなのでしょう?
信長様はそのまま部屋を出て行かれた。一人部屋に残された私は悲しさと、寂しさと、恐怖と、たくさんの感情に押しつぶされそうになりながら、押しつぶされないように泣きました。





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bkm


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