76、じわり、と暖かさ。
愛姫が伊達家に嫁いで一週間経った。
愛姫も少し慣れてきたのか前よりも大分笑顔が増えてきた。毎日愛姫の部屋に通っていて良かった。と一人ほっとした。
愛姫の気持ちは分かる。いきなり顔も見たことも無い男、まぁ私は女だが向こうは男だと言われて来ているだろう、と結婚。しかも住み慣れた場所から離れ米沢城に。愛姫の心情を察すれば私は自分が出来る限りに愛姫が心置きなく過ごせる環境を作るだけだった。
だから、愛姫に笑顔が戻ってきて良かった。


と、愛姫の部屋にて思った。
部屋には私と喜多、愛姫と乳母と女中の4人の席だ。
愛姫の乳母達は中々面白い人で話を面白おかしく話し私達を楽しませてくれた。ぎすぎすした空気は無く和やかな空間。私の理想とすべき空間だった。
ただあるとすれば小十郎が席を外しているということぐらいか……。小十郎は私の勘だと愛姫の部屋に行くことを避けている。そう振舞わないようにしているが私の目から見る小十郎はそう見えた。
私と愛姫の邪魔にならないようにしてくれているのか分からないが、寂しい事だ。


私の隣でまるで周りに花が咲いたように笑う愛姫を見て微笑んでそんな事を考えた。
私はそのままふと思い立ったように立ち上がり愛姫に用事を思い出したので席を外すという嘘を言って喜多と共に部屋を出た。
するとすぐ出たところの廊下で喜多が女中に呼ばれて私から離れたのをいい事に真っ直ぐと小十郎の部屋へと向かった。


もう何度も行きなれた小十郎の部屋。障子越しに「小十郎入るぞ」と声を掛ければすぐに「はっ、政宗様」と声が掛かり私は障子を開け中へと入る。
すると目の前に書物を手に取っていた小十郎と目が合った。小十郎は座っていた為必然と見上げるような形になりそのままの格好で「いかが成されましたか政宗様」と問いてきた。
私は「用事が無くちゃ来ちゃいけないのか?」と言って小十郎の横に立ち小十郎の読んでいた物を横から見た。
そこには一目見ただけ軍の形、戦の仕方が書かれていた。やはり小十郎は一人の時間も知識を手にする為頑張っているようだ。


「勉強熱心だな」
そう言うと小十郎は「いえ、政宗様のお役に立てる為ですから」と返した。
その一言に少し嬉しくなったが「ふーん」と素っ気無い返事を返した。
小十郎の肩に肘を置き暫く小十郎と一緒にそれを見ていたが難しい事だらけで頭が痛くなってきたため私はそこから目を逸らした。


何もすることも無くぐるりと小十郎の部屋を見渡してから私は小十郎の前に座った。だらけるように座り近くの火鉢で身体を温めた。冷たくなった指先を暖めているといつも遠くもあり最近の事でもある過去の自分を思い出すのだ。
なぜかしらないが冬は考え事が捗る。手をかざしながら私の意識は遠くの彼方へと飛ばされてしまったようにも思えた。


幼い私はただ雪に覆われた白い純白の世界に残されているような、そんなものだった。感情も無いまま歩く。それだけのように思えた。
だが、今は白い世界を美しく感じることも出来る。雪を見て儚く切ないものだと感じられる。それはきっと私の心にもう壁が無いから。
前ほど私と小十郎は傍に居ないがそれは仕方の無いこと。別に寂しくないと言ったら嘘になるが小十郎には小十郎の道がある。本来これが元ある主従の姿だと私は信じていたい。
口には出さないが小十郎には日々感謝している。そんな日が毎日続けばいいと願う。
そして、心に押し込めた感情に無理やり鍵をして私はこの人生を生きていこうと。
それが最善の考えだと思って。


「政宗様?」
不意に小十郎に声をかけられた。俯いていた顔を正面に向け小十郎の方を見ると小十郎は「どう成されましたか政宗様」と心配そうな表情を浮かべ話してきた。
そんな小十郎に「いや、なんでもない」とふわりと微笑み再び火鉢へと視線を戻した。


火鉢の暖かさをしっかりと感じながら私は横に小十郎が居る喜びを噛み締めた。


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bkm

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