75、一直線の思いと想い。
季節は冬だ。13歳になった私は、本日愛姫を妻として伊達家に迎えた。
愛姫は不安げな表情を見せていたが、しっかりと構え、可愛らしくもありたくましかった。幼いのに、これだったらいい妻になるだろうと私も思った。
父上も私の愛姫の結婚を喜んでくれた。少し悲しげな表情を見せていたが。


私は愛姫との結婚は今ではいいと思う。伊達家のため役に立てることがあるならそれで良い。これが私の生まれ持った運命だ。
愛姫は嫌いではない、むしろ好きの部類だ。これで性格が最悪だったらどうしようかな、なんて客観的に考えて笑った。


そういえば小十郎だが私が愛姫との結婚が決まった辺りからか、女の関係が酷くなった。
と言うのも、今まで女の話なんて一つも無かった小十郎が毎日城下町の遊女と遊んでいるらしいという噂がたった。
小十郎に聞いたところ本人もそれを否定しなかった。勿論気が狂うほど悲しかった。幾度となく涙を流した。だが、気付いてしまった。やはり自分と小十郎は一緒になれないと。
小十郎も一人の人。私も一人の人。その人が何をしようともその人の勝手、自分の命。たとえ小十郎が私の右目でも私に女遊びを止めろなんて言えなかった。
私は小十郎の主以外一体何なのだろうか。そう考えるようになってきた。だから、私は前向きに考えることにした。
小十郎は小十郎。私は私。自ら命を絶つ、私の目の前から居なくなる以外は何も口を出さないと。
……ただ、からかう位はいいよね。


心の中で自分にそう問いて、私は愛姫が待つ部屋へと向かった。

がらり、と襖を開けると着替えた愛姫が私を待っていたのか部屋の中心部より少し後ろのほうで正座をして待機していた。その愛姫の後ろには乳母と女中も居る。
そして私を見るなり深々と頭を下げた。


「そんな固くならなくてもいい。楽にしていろ」
と、私が言うと愛姫は「はい」と声を少し震わせながら返事をした。
そんな声を聞いてやはり緊張しているのだと思った。
私はクスリと笑って懐へを手を入れ、仕舞っていた菓子を取り出しそっと愛姫の膝の上へと置いた。


きょとんとした愛姫の表情にまた笑みを洩らし、「菓子だ、くれてやる」と言って整えられた愛姫の頭をぽんぽんと子供をあやすように叩いた。
愛姫はどうしたらいいのか分からないようで後ろの乳母達の方を見る。
そんな愛姫に乳母達は優しく微笑み「愛姫様、政宗様からの贈り物ですよ。受け取っておきなさい」と囁いた。
愛姫はすぐにはっとなって、「ありがとうございます政宗様」と言って頭を下げた。なんとも可愛らしい様子に私はまた微笑んだ。


乳母達も優しそうで人でよかった。と思うと同時に私は乳母と女中二人に、私の恩人の二人の女中の影を重ねていた。
きっとあの二人が生きていたら此度の結婚も喜んでくれただろうか。
涙は出なかったが、暫く微動だにしなかった私を不振に思った愛姫が心配し始めたので私の考えはそこで自然と止められた。


「すまない、考え事をしていた。今日は疲れただろう部屋でゆっくりと休んでいろ」
そう言って私は愛姫達がいる部屋をあとにした。


部屋を出るとすぐそこに小十郎が立っていた。
小十郎は心なしかこの一年でぐんと大人になったような気がした。私の気のせいなのかもしれないが。


「愛姫様は可愛らしい方でしたね」
「……そうだな、cuteだ」
小十郎のその一言に胸を痛めているようでは私もまだ駄目だな。だから「小十郎、お前は今幸せか?」なんて下らない質問をする。


「小十郎にとって政宗様の幸せが小十郎の幸せなのです。政宗様は幸せでございますか?」
答えなんて大体予想ついていた。だから私は言う。決められた答えを


「ああ、幸せだよ」


小十郎の幸せのために。
自分のために。


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bkm

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