74、交差する最善の考え。
気が付いたら私は自室で寝具に寝かされていた。
私の隣に居た小十郎と喜多が心配そうに私の顔を覗き込んでいたが私が目を覚ますと二人は安心したのか自然と頬の筋肉が緩んだのが分かった。

私は開口一番に小十郎に「ごめんな」と呟いた。
小十郎が静かに首を横に振るのを確認してから私はまた口を開いた。

「小十郎、すまないが少し席を外してもらってもいいか?」
頼むように言うと小十郎は「畏まりました」と言い静かに部屋を出て行った。
私は小十郎の気配が消えてから喜多の顔を見た。喜多は私の言いたい事がわかるのか首をゆっくりと縦に振った。私はそんな喜多を見て溜め息を一つ吐いた。

「初潮おめでとうございます」

「ああ、」

あの独特の腹部の痛みとなんとも言えない気持ち悪さ辺りからそうだろうと思っていた。
面倒な事がひとつ増えてしまった。
どうやってこれを隠していこう。先ほどは気を失ってしまったが起き上がれないほど痛くはない。だから普段通りに振舞えるといったら振舞える。
しかし、厄介なのがそれは自分の考え通りに行かないということだ。最初の方は量も多い、それになんらかで汚してしまったら一発で女だと分かってしまう。
今までは皆気付いていないが段々と隠していくのも難しくなってきた。

その事を喜多に話すと喜多は自分がなんとか誤魔化すと言ってくれたがやはり心配なものは心配だ。

「政宗様今回は初めての事故お身体が付いて行かれません。今はゆっくり休んでいてください。」

ゆっくりと諭すような話し方に私は頷いて、今はこちらでは始めての整理に気だるさを感じながら再び眠りに付いた。


(喜多視点)


なんともおめでたい事だろうか。政宗様が一人前の女になった証。
今までのことを考えると目尻が熱くなって来る思い。しかしそうも言っていられない。これからどのようにして隠し通していくかという事。
今回はなんとか風邪だと言って隠し通せるだろうが、次からは、そしてその次はどう誤魔化そうか……。先のことを考え不安で心の臓が潰されそうになる。
それでも、私は政宗様が女だということを隠し、立派に育ててあげたいという気持ちがあった。
まぁ、そんなことを言ったら小十郎の気分を悪くさせるだけですから言いませんけれども。

政宗様も心配ですが問題がもう一つ。小十郎の事。
あの子は政宗に恋をしているかもしれない。自分でも気が付かないうちに。
恋は女のほうが敏感なもの。恋のした事のない小十郎だからこそ今までは自分の気持ちに気が付かなかったものの、このまま行くと確実に恋に気付いてしまう。
そうなる前に私は小十郎に別の女の元へ気持ちを走らせたかった。もう遊女でもいいと思うほどに。
女を一度知り、女に一時溺れればいいと思った。

勿論政宗様の気持ちも気付いていた。小十郎に恋心を抱いていることくらい。
しかし、それは自分を地獄の淵から救ってくれたのが小十郎だからそう思えるだけだ。
小十郎が他の女のもとへ行けば政宗様も諦めて自分の事に専念してくれると思った。そう思いたい。

いっその事皆に政宗様が女だと知らせようとも考えた。しかし、それに気付いてしまったら考えるのは伊達家にいい事など何も無い。
政宗様は小十郎との恋を実らせようとする。小十郎は政宗様とは身分が違いすぎて駈け落ちを考える。
嫌なことばかりが未来に見えた。
だからこそ私は、伊達の為に全てを隠そうとした。たとえそれが二人にとって最善の考えでなくても。私にはそれしか考えられなかった。

恨むなら喜多を恨んでくださいませ。
それまでの貴女様の痛みは全て喜多が引き受けましょう。この身が滅ぼうとも、私は伊達を守るという使命があるのです。




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