72、納得のいく答えを見つけよう。
私は喜多と共に父上の部屋を訪れた。父上は私たちが来るのを分かっていたかのように私達の方を向いて座っていた。
喜多と父上の雰囲気から何か重要なことをこれから話すのだなと私は悟った。

「やっぱりな、来ると思ってた…」

父上がゆっくりと確かにそう言った。
喜多が真剣な眼差しで父上を見て「小十郎はやはり子供だったようで…すみません」と言って頭を下げた。

「なぁに、こうなる事は少なくとも分かっていた。なんせ初めてのことだからな小十郎も動揺するのも分かる。」

父上が煙管を取り出しながら言う。口に煙管を近づけさせ吸うと部屋はあの独特の香りに包まれた。
「しかしな」と父上は話を続けた「小十郎も少し大人にならねぇとな…」と言ってすっと目を細めた。

その言葉に喜多はピクリと反応した。そして「そうですね、それでは私は小十郎と話をつけて来ます」とだけ言い父上と目で合図してから立ち上がり喜多は部屋を出て行ってしまった。

部屋に残された私と父上の二人の間にはなんとも言えない空気が漂う。
私はすぐにでもこんな空気から逃げ出したかった。しかし、父上は口を開こうとせず煙管ばかり吸う。

どのくらい時間が経ったのか分からないが不意に父上が口を開いた。

「なぁ政宗」

「はい」

父上の問いに私はすぐに答えた。

「お前は俺の大事な息子だ、だがそれと同時に伊達家を担う者でもある。伊達家“長男”として大事なことは分かっているか?」

嫌な予感がした。出来れば私の考えが外れていることを願った。
頭の中では分かっているのに私はしばらく考えるふりをした。そして重い口を開き言葉を発する。

「跡継ぎですか?」

「そうだ」

嫌な考えが当たってしまった。しかし、跡継ぎと言ったが一体どうすればいいのだ。私は女、勿論子供は産めるが生ませることは出来ない。
いや、問題はそこでもあるが跡継ぎということは、正室を迎えるという事なのだろうか。

悶々と考える私を見て父上は「政宗は頭が良いから俺の言いたい事は分かっているだろう。お前は正室を迎える。式も決まっているんだ」ととんでもない事を言う父上に私は目を丸くした。

式も決まっている?いや、私は女だから…。子も生ませることは出来ない。と考える脳は休まることを知らない。
もう駄目だと頭がパンクする前に私は父上にそのことを話した。すると父上は真剣な表情で頷いた。

「政宗、確かにお前は女だ。子は産ませることは出来ない。そこで影武者を用意した。しかし、勿論そいつには生ませるようなことはしない。伊達家の血が流れないことになるからな。子供は産ませなくてもいい、小次郎と正室との間の子供を養子として迎えれば良いだろう」

確かに養子を貰って子を育てるというのはある。だが、私はいいが正室の女の人が可哀想なのではないか?
子を産むことも出来ずに、他人の子供を育てるなど……と、考えたがこの考えはぐっと飲み込んだ。
今は戦国の世、こんなことはあるに決まっている。余計な口出しは無用だ。

「小十郎が最近おかしいのもこの話を聞いたからだろう。小十郎も戸惑っていたんだな」

ぽつり、父上は呟くように言った。
そうか、だから小十郎はおかしかったんだ、私が何かしたとかではなかったんだ。私は大きく息を吐いてその事には安心した。
しかし、今の小十郎との関係は変わるわけではない。私は小十郎に顔を見たくないと言ってしまったのだ。ああ、やはり後悔は止まらない。
安心したと同時にやって来る不安に私は押しつぶされそうになった。もう嫌だと現実逃避をしたくなった。

しかし、小十郎は何故私の今回の話を聞いて動揺したのだろうか。もしかしたら小十郎は私のことを……なんて甘い考えは止めた。
そんな事無いだろう、きっと弟が婿にいってしまう不安に似ているものだろうと私は考えた。

小十郎は今回の正室を迎える話には反対だったのだろうか?聞いてどう思ったのか?今ここに小十郎は居ない。
ああ、なんだか気になるせいか苛々する。苛々?むかむか?と言うのか?分からないが、なにか感情がまた爆発しそうになった。
こんな事は初めてだ。小十郎に当たった時も急に頭に血が上ってしまって…。

私は両の手で頭を抱えた。

小十郎に謝らなくては、しかしなんて言って?私から一方的に怒って、しかも殴って…小十郎にどんな顔をして会えばいい?その前に小十郎は私に会ってくれるのだろうか?
どうしよう、小十郎がまるで他人に対するみたいに私に接してきたら。私に笑顔を向けてくれなかったら

考えれば考えるほど不安は募るばかりで、また泣きそうになってしまった。父上の前だというのに。

「おい、政宗大丈夫か!」

父上が私を心配して私に駆け寄ってきた。
私は大丈夫だと言おうとしたのだが、何故か目の前は真っ暗になって何も見えなくなった。
ぐらり世界が揺らぐ気がした。

そして私はそのまま意識を手放した。


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bkm

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