71、どうしてこうなったのだろう。
(小十郎視点)

俺は政宗様に殴られた。そしてこう聞かれたのだ。「何故見ないのか」と
続けざまにまたこう聞かれた「何故視線を外すのか」と

自分の中では普通に政宗様に接しているはずだった。しかし、そうではなかったらしい。
政宗様は酷く泣きそうな顔をしていらした。自分のせいだと思うと心の臓が壊れてしまうのではないかというほど痛んだ。
違うのです。決して政宗様が悪いわけではなく、上手く感情を押し殺せない私が悪いのです。
政宗様に縁談があるのは政宗様は知らない。まだ完全に決まっていて無い為だ。とは言ってももう決まっているようなものだが。
しかし、まだ政宗様には言うなと輝宗様に言われた。輝宗様の方から直々に政宗様に話をするのだと。

縁談の事は言えない。かと言って言えたとしても政宗様になんて説明すればいいのか分からなかった。
政宗様が結婚なさるのが嫌だと思ってしまった?そんな事言えるわけが無い。
政宗様が自分から離れて行きそうだから?馬鹿か自分は。

今のこの俺の感情を政宗様に伝えることは出来ない。出来ぬのだ。

不意に政宗様の口から「女」と言う言葉が飛び出してきた。
その言葉を聞いた時に俺はふと縁談を持ち出した相手方の愛姫を思い出した。

そしたら何故だろう。政宗様の表情が固まった。しかし俺には何故政宗様がそんな表情をするのか分からなかった。

だから俺は下手な言い訳を言った。勘の鋭い政宗様はきっと俺の嘘に気が付いただろう。政宗様は俺の着物を掴んでいた手を離すと


「小十郎、しばらくお前とは顔も見たくない」


そう言い放って部屋の中へと入っていった。
何故?俺は今何かしてしまったのだろうか?どうしてなんだ?
「政宗様」そう言って入ろうとした瞬間部屋の中からドォォンという破壊音が聞こえた。その音で俺の動きは停止した。

俺は今情けない顔をしている。いや、情けないとは少し違う気がした。
政宗様に仕えて4年になるがこんな風に政宗様に言われたのは初めてだった。ここまで突き放されたのは初めてだった。

先ほどの音を聞きつけて城の者たちが政宗様の部屋へと続々と集まってきた。俺はそんな者たちの視線を浴びてそっと政宗様の部屋から離れた。

空は曇ってきてもう少しで雨が降りそうだった。俺は女中に少し出かけてくると言って城から出て行った。
馬に跨り俺は山道を走っていくとやはりぽつりぽつりと一つ二つ雫が空から落ちてきてあっという間に酷い雨となった。

雨宿りに木の下に居ると先ほどの事を思い出した。


――小十郎、しばらくお前とは顔も見たくない――


俺は生まれ柄周りの大人から散々いろんな事を言われてきた。それでも心は折れないように頑張ってきた。
自分のことを馬鹿にした、酷く言った大人たちを見返すように日々頑張ってきた。子供時代はもう戻りたくは無い過去だ。
しかし、今回政宗様に言われた言葉は今までの中で一番胸に突き刺さった。心の臓が痛い、痛いのだ。

俺はぎゅうっと胸の着物を握り締めた。どうしてこんな事になってしまったのだろうか。いや悪いのは自分なのだ。自分が未熟なばかりに政宗様を傷つかせてしまった。
俺にとってあのお方は俺の全てなのだ。
そう考えるようになったのは一体何時頃だっただろうか?いや、一目見たときからあのお方は俺の大切なものへと変わった。
俺はあのお方に惹かれたのだ。俺には無何かを持っている、そんな気がしたのだ。政宗様を恨んだり、嫌いだなんて考えた時も無い。
それは今でもそうだ。政宗様は俺の全てなのだ。

あのお方を無くしたら俺はどうすればいい?俺は頭を抱え込んだ。
そしてすくっと立ち上がると天を仰いだ。
瞳から流れる雫はきっと雨だと自分に言い聞かせて。
着物が水分を含みずしりと重くなった


(政宗視点)

私はあんな事がしたかった訳ではないんだ。
それなのに何故あんな事になってしまったのだろうか。いくら考えて悔やんで後悔しても答えは出てこなかった。
私は小十郎に女が出来るのが嫌だったんだ。だけどそれを小十郎には言えない。そう、行き場の無い苛付きがそのままストレートに小十郎にいってしまったのだ。
と、自分で考えてももう遅い。今私は隣の部屋との壁が無くなった部屋に一人で居た。

私が壁を壊したことにより皆が集まってきたのだ。私がなんでもないと言っても勿論誰もそんな事を信じてはくれなかったが。
「一人にしてくれないか?」
そう頼み込むように言って皆は私の部屋から離れてくれた。
私の着物の袖は涙で色が変わっていた。自分で引き起こしたことだから泣くわけにはいかないと自分に言い聞かせていたのだが体が言うことを利かず涙ばかりが出てくるのだ。
擦り過ぎて痛くなった瞼。それでも止まることの無い涙。

「止まってよ」

そう涙に言い聞かせるが勿論涙が言うことを聞くわけでもない。やはりぽろぽろと涙は落ちるのだ。
その時「政宗様」といって障子に人型が映った。影と声から分かる、相手は喜多だ。

「なんだ喜多」

そう言った自分の声は鼻声でいかにも泣いてますよといった声だった。

「入りますね」

そう言って喜多は私の返事も聞かずに強引に私の部屋に入ってきた。
いきなり部屋に入ってきた喜多に驚きを隠せない私に喜多は普段のきりっとした表情を崩して心配そうな表情で私の顔を覗き込んだ。

「政宗様、何かあったのでしょう?どうか喜多に教えてくれませんか?」

そういう喜多は心から心配しているといった感じで私はこれは喜多の優しさからきてるんだなと分かった。
喜多に私の気持ちが分かるのだろうか?分からない。それでも喜多には話したくなった。自分ひとりでこんな気持ちを押さえつけているのは限界があったからだ。
誰かに話して少し気持ちを楽にしたい。そんな気持ちがあった。

私は喜多に向き合うと止まらない涙を抑えようと歪む顔のまま「小十郎が俺を避けてる気がするんだ」と言った。
そう言った瞬間喜多が「あの馬鹿」と小さな声で小十郎を叱咤した。

「小十郎がな、俺と視線を合わせてくれないんだ。俺を見ようとしないんだ。」

ボロボロと流れる涙が鬱陶しい。泣き続ける私に喜多は優しく私を抱きしめた。
そして、「政宗様、小十郎は少し考えがまとまらなくて困っているだけなのです。小十郎は不器用ですからね気持ちが浮いてしまう時があったのかも知れません。
しかし決して政宗様を避けようだなんて一つも思っていません。これは絶対です。」と力強く言ってくれた。

「だけど、小十郎はなんか俺を見るのを嫌そうだった」

ぎゅっ。と喜多の抱きしめる力が強くなった。

「小十郎は今心の中で戦っているのです。そういう事なのです。」
「どういう事だ?」
「小十郎もまだ子供だったということです。」
「……訳が分からない」
「そうでございましょう。」

そう言うと喜多はゆっくりと私を見た。

「本当はもっと時間を置いてから話したかったのですが、この様な事になってしまっては私方も心が苦しい。政宗様これから輝宗様の部屋へ行きましょう。」

何故ここで父上が出てくるのか分からない。
私は不安を隠しきれない表情で喜多を見た。喜多の顔は苦しそうで悲しそうだった。私には何故そんな表情をするのか分からなかった。

立ち上がり私たちは父上、輝宗の部屋へとその足で向かった。


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