68、梅の香りの後ろ。
冷たい風が温かい春の風に変わり、庭の梅の花は満開で甘い香りを漂わせている。
桜の花はまだ蕾が固いがあと一週間もしないうちにきれいな桜色の花弁を枝に纏わせ美しい姿を見せるだろう。
京はきっともう桜は咲いているだろうな。そんな事を考えながら庭を見つめている政宗は微笑んだ。

空を見上げれば澄んだ青空が視界いっぱいに広がる。鳥の囀りと花の香り、暖かい陽気、それが嬉しくて政宗はまた一つゆっくりと微笑んだ。
つい最近まであんなに寒かったのにな、ぽつり小さく呟くと風がより一層強まった、温かい風が花を巻き上げる。
そんな光景を見て政宗は、ああやっぱり春だ、と嬉しげに呟いた。

「政宗様」

不意に背後から聞こえた声に振り返るとそこには自分と同じように微笑む小十郎がいた。
政宗の隣に来ると小十郎は政宗と同じところを見つめ「春ですね」と呟いた
呟きながらこちらに向けた顔が明るく優しいもので政宗も思わず微笑んで「そうだな」と返した。

「桜ももう少しで咲きそうですね」

「ああ、」

「花が咲いたら皆で花見でもしましょうか」

「楽しそうだな」

なんとも簡単な会話をしてから小十郎はおや?とでも言う様な表情をして私の顔を見つめてきた。

「な、なんだ小十郎」

小十郎に見つめられる恥ずかしさで私は頬を赤く染めながらそっぽを向いた。
何か顔についていたのだろうか??そんな事を考えて急に恥ずかしくなり慌てて自分の顔を触る。
そんな私の行動を見てか小十郎は「すみません政宗様」と謝り、お顔には何もついていませんのでご安心をと付け足した。
意地悪そうにそう言う小十郎にムッときて小十郎の脛に蹴りをかましてやると小十郎は涙目になってしゃがみ込んだ。
当然の報いだ!とでも言うような瞳をして私は小十郎を睨んだ

急に人の顔を見てくるなんて、顔に何かついてるんじゃないかって普通思うだろう!と恥ずかしさを自分の考えで何とか誤魔化し少し落ち着くと
もう、痛むそぶりは見せない小十郎の足元にしゃがみ込み蹴った脛を擦った。

「ま、政宗様!!そのような行為お止め下さい!!」

慌てたように私に言う小十郎に私は「はぁ」とため息をついた。小十郎は私と同じ目線になり

「主である政宗様が私なんかの足にしゃがみ込んで、いいですか、貴方様は上に立つべきお方なのですその様な事下の者に……」と身分の事について語る小十郎。
そうなのだ、小十郎は私に身分の違いなどを話す。私がそんなもの興味ないと言ってから余計に。
私は身分だなんてどうでもいい、皆平等でいい、そう考えるのだがそうはいかない。正直もううんざりなんだ、聞くたびに悲しくなってくる。
こんな世の中しょうがないしょうがないと思っていてもやはり嫌なものは嫌だ。

私が小十郎の話を無視して庭を見つめていると小十郎が「聞いていますか?」と少し怒気を含んだ声で言われて「聞いてるよ……」と返した。

折角春を楽しんでいたのに台無しではないか、小十郎の話が終わると私は「はいはい」と軽い返事をしてふら〜っと誘われるように庭に出た。
後ろから小十郎もついてくるのが分かる。

気の向くままに進んだ足がぴたりと止まった場所は一本の満開の梅の木の下だった。
辺り一面甘い香りが鼻をつく。鼻をひくひくと動かしさらに梅の木に近づくと目の前近くにあった梅の花をたくさん付けている枝を折れないように自身の方へと近づけさせさらに梅の香りを楽しむ。

甘い甘い香りで頭がくらくらする様な気がした。
ふと後ろに居るはずの小十郎に視線を移すと小十郎はまたもや私の顔を見つめているのだった。
私の後ろの梅でも、周りの庭でもない、私を見つめている。見ている時の小十郎の表情はよく読み取れなかった。
普段なら、嬉しい悲しいが分かるのだが今回の小十郎の顔は無表情に近い。
私が小十郎を見てからそんなに時間が経っていないのだけれども酷く長い時間に感じられた。

今度こそ不思議に思った私は、手に持っていた梅の枝を離し小十郎に近づいた。
私が梅の枝を話した時点ではっとなった小十郎に私は「どうしたんだ?小十郎」と顔を覗き込みながら言った。

すると小十郎は「いえ、何でもありませんよ」と言って私に微笑んだ。
一体何があるのだという、私は少々不満があったが大して追求することなくその場でそのまま終わらせた。

「おかしな小十郎」そう言って私は部屋へと足を進めた。
後ろで小十郎が不安げな顔をしているとも知らずに。






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こっそり更新ww
桜が咲く季節になりましたね、早く満開の桜が見たいです^^



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