66、熱く温かいものを伝えるとすれば。
暫く止まらなかった涙を止め、私達は城の中で父上の部屋に来ていた。
父上の部屋に行く間、歩く時に小十郎の横に並ぶと、やっぱり背が大きくなったのが分かった。近くなった小十郎の顔を見上げながら私は今この小十郎が側に居る、という打ち震えるほどの幸福に酔いしれた。
私が小十郎の顔を見れば小十郎も私の視線を感じて私を見る。そして目が合ったら二人で笑い合うのだ。

小十郎の瞳が私を見て、小十郎の口が私の名前を呼び、小十郎の手が私に触れる。
そっと私の頭に触れた小十郎の手の大きさと温かさに目を細めながら私は大人しく小十郎に頭を撫でられていた。

「政宗様は本当に綺麗になりましたね」

小十郎も私と同じく目を細めて言った言葉に私はまた嬉しくなって小十郎に微笑んだ。

「小十郎も格好良くなったな」

そう私も小十郎に言うと、小十郎も私に優しく微笑んだ。

心臓がドキドキして、寿命が縮まりそうだな、なんて考えた。

父上の部屋に着くと父上は「政宗!」と言って私に抱きついてきた。
いきなりの事で驚いたけど、父上のその行動がどれほど私を心配していたかが分って凄く嬉しい気持ちになり
私も、「父上」と言って両腕を父上の背中に回した。一段と強くなる父上の抱擁に私は子供の頃を思い出していた。
そう言えばよくこうやって父上と抱き合っていたな。と。
あの時は私は父上にすっぽり埋まってしまうほど小さくて…、それが今では私は成長してこんなにも大きくなった。だけど、父上は何も変わらない、勿論、気持ち的な面でだ。それが嬉しくて堪らない。
少しの間、昔の事を思い出したらなんだか急に涙が出てきそうになって慌てて目を閉じた。

部屋には喜多がすでに来ていて、私と父上を微笑みながら見ていた。
父上はゆっくりと私から離れると「政宗、よく元気な姿で戻ってきてくれたな」と言って、私の大好きな笑顔を見せてくれた。

「父上もお元気そうで何よりです」

私も父上に今出来る最高の笑顔を見せた。

その時、ふと見慣れない姿が目に入った。
喜多から少し離れたところ、父上の影になって見えなかったのだが二人。私と同い年くらいの男の子と、見るからに年上の男の人が座っていた。
私の不振な目に気が付いたのか父上は、その二人の下へと行く。

「政宗、こいつらを覚えているか?」

父上がそう私に問いたが、私は残念ながらこの二人の事は知らない。

「いいえ、覚えていません」

首を傾げながら言うと、同い年くらいの男の子が「えぇ!!そりゃないぜ!」と頭を抱えた
いきなり大声を出され、私はびくりと肩が揺れた。そんな私の様子を見て、隣に座っている男の人がバシンッとその男の子の頭を叩いた。
「何するんだよ!」と怒る男の子に男の人は知らん振りして私を見て、「申し訳ございません政宗様」と頭を下げた。

私には何がなんだか分からなくて、父上と、喜多と、喜多の隣に座っている小十郎に助けを求めた。
すると父上が「まぁ、政宗が覚えてないのも無理ねぇな」と言って二人の説明をし始めた。

「こいつ等は伊達成実(だて しげざね)と鬼庭綱元(おににわ つなもと)だ。
成実は政宗、お前の一つ年下、綱元はお前の十二年上だ。会ったのは政宗が七つの頃だな。」

と言う父上の言葉を聞いても、やっぱり私は二人の事を思い出すことが出来なかった。
「思い出せなくて仕方が無い、あの時は色々会ったからな。」そう言う父上は、あの時を思い出したのか表情が少し固くなった。
そして、二人から改めて自己紹介をされ、私もぎこちないながら挨拶を二人にした。

「実はな、お前と小十郎の再会を二人も見ててな、二人ともお前と話がしたくなったみてぇなんだ」

先ほどの小十郎と私の再会を見ていた、と聞いて、私はなんだか恥ずかしくなった。
あのたくさんの人の中にこの二人も居たのか。
私は苦笑いをすると、成実という男の子が私をさっきからじっと見ている視線が痛いので
成実の方をくるりと向いた。

「なんだ?」

そう聞くと、成実は「梵は変わったな!!」っと言ってにぃっと笑顔を見せた。
“梵”その言葉が気になって「梵?」と聞くと成実は「政宗の事だ!」と悪戯っぽそうに笑った。
隣の綱元や喜多や小十郎の視線が成実に痛いほど集まっていたけど、私は意外と「梵」と呼ばれるのが嫌ではなかったので
「そうか」と言って私も同じく成実に悪戯っぽそうな笑顔を見せた。その私の言葉で三人の視線は落ち着くのが分かった。

「梵に最初に会ったときは俺は六つだったんだけどさ、すげぇ怖かった。」

「成実!」

咎める様に声を出したのは喜多だった。しゅんと肩が小さくなる成実。
私はそんな喜多に顔を向けて「大丈夫だ」と言うと成実に続きを話すように言った。
再び、口を開いて話し始める成実を私は見た。

「だけどさ、今日梵を見てすっげぇ綺麗になって吃驚した!なんか憑物が取れたみたいにすっきりした顔見せてさ!!
本当に驚いてさ、だって最初に梵に会った時、俺、凄い形相で殴られたんだぜ?」

はははっと笑い、興奮しているのか、成実は頬を上気させて言った。
きらきらと光る瞳を私に向け、楽しそうに話す成実み私はまるで同級生の友達のような感覚を思い出した。
それにしても、成実を殴ったとは…、覚えていないにしろ申し訳ない。

「俺さ、今日の梵見たら胸が熱くなってきて、それでこの気持ちを梵に伝えたかったんだ!!」

そう言い切った成実、その成実の隣に座っている綱元も「私も、成実と同じく今日の政宗様に心打たれ、この気持ちを伝えたかった所存です。」と言って、頭を下げた。

胸が熱くなんて言われて、私はなんて二人に言えばいいのか分からなかった。
私のどこに胸が熱くなったんだろう??そう思ったが今この状況では聞ける状況ではなかったので聞かなかったが
それでも、私を見て少しでも心が動かされたのは嬉しかった。

「俺、梵の為にこの生涯を尽くしたい。」
まだ何処か子供っぽさが残る成実が真っ直ぐな瞳をして私に言った。

「私も同じ気持ちです。この命、政宗様に尽くすお覚悟」
と、つられる様に言った綱元の瞳も真っ直ぐで綺麗な瞳をしていた。

私は二人の瞳を見て、すっと目を細めた。
二人の気持ちが痛いほど嬉しかった。私なんて“伊達政宗”という肩書きしかない人間なのに、その私に心打たれ。
私には今日の私にどこで心打たれたのか本当に分からない。正直言うと私は小十郎に会いたい一身でここまで来た。
その姿に心打たれたのだろうか??分からない、分からないが二人は何かあるのだろう。

私はすっと立ち上がると二人の傍に寄り、二人の手をとった。
驚く二人の顔を見て私は二人の手を胸の辺りで握り締めた。
そして、
「ありがとう」そう囁くような小さな声で言った。

私のこの気持ちを伝える方法がまだ、これしかない。
ありがとう、に色んな気持ちを込めて。


「政宗様…」


綱元が小さく私の名前を呟いた声が聞こえた。




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