63、再び、鬼の目にも涙。
一週間。
とうとう一週間が経ってしまった。
私は身支度をして悲しい気持ちを持ちつつも弥三郎と向き合った。

「政宗、本当に行っちゃうの?」

今にも泣きそうな顔をしながら弥三郎は私の手を握り締めながら言った。
私は胸をずきんと痛めながら「ごめんな」と言って弥三郎の頭を撫でる。

私と弥三郎の周りには私たちを見守るように喜多や忍び、国親、弥三郎の家臣女中達がいた。
国親かからは手紙を受け取り父、輝宗に渡すように言われた。
その手紙を私では無くしそうなので喜多に預け、私は国親にも別れの挨拶を言った。
弥三郎に対する行動は嫌いだけど、やっぱり少し離れるのは寂しかった。国親もどこか寂しげな顔を見せていた。
その国親とは比べ物にならないくらい顔を歪めている弥三郎。

「私、政宗と離れたくない!!」

瞳から一筋の涙が零れた。私は微笑んで弥三郎の涙を拭った。

「大丈夫だ弥三郎、俺達はまた会える。」

「本当?本当だよね??」

涙を流し、苦しそうな表情を見せる弥三郎に私は「ああ、本当だ」と宥める様に言うと
弥三郎は初めてそこで笑顔を見せた。

「私、絶対強くなって政宗に会いに行くから!」

「じゃあ俺は待ってるよ」

突進するように私に抱きついてきた弥三郎に驚くも
私はしっかりと両腕で弥三郎を抱きしめ、その絹のような髪に頬擦りした。ふわふわと柔らかな髪。

暫く経ってから私達は離れた。
弥三郎の瞳にはもう涙は無く笑顔だけだった。
喜多が私に近づき荷物を渡してくれた。それを合図にか私と弥三郎は一歩、また一歩と離れた。

「それじゃあ俺は行くな」

「うん、じゃあね」

「またな」

「またね」

そう言って私達は長曾我部を足早に去った。出来るだけ早く離れたかった。
涙は出なかったけど悲しかったから。年の近い友が出来て、話して。
そんなのは初めての事だったから。とても、嬉しかった。楽しかった。
だけど、自分で言ったように一生のさよならじゃない。絶対私と弥三郎は会う。そう確信している。

またね、弥三郎。

私はもう一度弥三郎にお別れを言った。「さよなら」は言わない。なんてべた過ぎるけど。

そして、私は心を切り替えた。
あとは奥州に帰るだけ・・・・。もうすぐ、もうすぐで小十郎に会える・・・・。
そう考えるだけで心臓がバクバクと激しく動き、呼吸が出来なくなった。
帰りは長曾我部国親が用意してくれた船を使って移動もあるという事なので、行きよりも早く奥州に着けるだろうと喜多は言った。

船に乗り、海の匂いのする風を全身に浴びながら私は遥か遠くの奥州を見つめた。
もう一年経ってしまったが小十郎は今何をしているのだろうか・・・。元気でやっているのだろうか?
帰ったら何をしよう。そうだ、小十郎に抱きつこう。一日くらいだったら許してくれるだろう。
小十郎に抱きついて、小十郎の笑顔が見たい、声が聞きたい。
小十郎の体温を感じたい。奥州に近づけば近づくほどそんな感情が大きくなり私は心臓がたまらなく痛くなった。

「政宗様」

名前を呼ばれ後ろを振り向くとそこには喜多が立っていた。

「なんだ?」

そう言うと喜多は私の隣に立ちにこり、と微笑んだ。
喜多の考えている事が分からなくて私は眉間に皺を寄せる。

「政宗様、もうすぐ奥州ですね」

喜多の口からそう発せられると私は目をぐっと大きくして、「ああ、そうだな」と言って思わず口元を緩めた。
そんな私の様子を見てまた喜多が「ふふっ」と微笑む。

「小十郎の事考えましたでしょう?」

悪戯っぽく喜多が言い、私もにやりと喜多のように笑い「そうだが、何か?」と言って見せた。

「ほんに、政宗様は小十郎の事になると顔に表れやすいですわね」

「ほぅ」と口元に手を当て、やれやれ、とでも言うようにして言う喜多に私は「別にいいだろ」と素っ気無く返してやる。反対する事は出来ないし。
喜多は風を浴びて目を細めた。喜多のすらっとした長い指が私の手に触れた。私は喜多が何をするのかと黙って見ていた。
喜多はぎゅっと私の手を握り締めた。ただ、それだけ。
喜多を見ても、喜多は遠くのほうを見つめていた。

私も大して喜多に反応することなく喜多に手を握られながら喜多と同じ変わらない風景の海を見つめた。


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bkm

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