60、鬼の目にも涙。
銀色の髪、女物の紫の着物を着こなし、おどおどと不安と恐怖に揺れる瞳。肌が白く、手足がすらっと長い。

ああ、本当に女みたいだ。

私の元親(現:弥三郎)の第一印象はそれだった。

「あ、あなたが伊達政宗?」

恐る恐る、まだ声変わりをしていない細い声でそう弥三郎は言った。
白い手を口元に当て、視線を私と部屋を行ったり来たりしている。

「ああ、そうだ」

弥三郎は現在13と言うのだが男らしさは無く女らしいと言った方があっているといった感じだ。
彼を知らない人ならばきっと誰もが女と間違えるだろう。それほどまでに彼は弱々しく、女々しかった。

私は弥三郎と向き合うように目の前に座った。
そしてその姿を頭から足のつま先までくまなく見る。そんな私を弥三郎もじっと見ていた。

「あなたは、何で私に会いに来たの?」

そう問う弥三郎の瞳が少し潤んだ?そして私が何か言う前に「どうせあなたも私を馬鹿にしに来たんでしょ!」と声を張り上げ言った。
いきなりの弥三郎の声の大きさと、私が何も言っていないのにそう言い出す弥三郎に私は驚いた。
きょとんと目を丸くして弥三郎を見ると弥三郎は、きっ!と私を睨んだ。

何故私はいきなりこんな風に言われなければならないのだ。
だが、弥三郎の気持ちは分からないでもない・・・。
私もあの時は周りが全て敵に見えた。近づく者全てに警戒し、恐れた。
そうする事で一人自分で自分を守っているのだ。弥三郎の気持ちは痛いほど分かる。

「違う。俺はお前に会って話がしたかったんだ」

「話す事なんて何も無いわ!!髪の色の事がが聞きたいの??
そんなの私にも分からないわよ!!」

耳に手を当て首を横に振る弥三郎。
「私も分からないわよ。」そう繰り返しながら。

「違う」

そう私が言えば弥三郎は「じゃあ私が何でこんな格好をしているかって??」と返してきた。
それにも「違う」と答えると
弥三郎は自嘲気味に笑い「じゃあこの左目の事をを聞きに来たの??」と言った。

違う。またそう言おうと思ったが弥三郎の「そうなんでしょう!!」と言う声に遮られた。
そして弥三郎は涙を流し床に顔を伏せ泣き始めた。

人の話を全く聞こうとしない。そんな弥三郎に私はまた自分の昔の姿を思い出し胸を痛めた。
私には小十郎が居た。父上が居た。
小十郎は弥三郎以上に酷い私にしっかりと正面向かい合い私の事を考え、思い、私を正した。
父上は陰ながら私を支えてくれた。小十郎同様聞き分けの無い、八つ当たりする私を今の今まで信じ続けてくれた。

だが、弥三郎にはそういう人が居ないのだ。
自分を守ってくれる人は自分しか居ず、必死になって一人で戦っているのだ。

私は泣きじゃくる弥三郎に近づき、そっとその体を抱きしめた。
かつて小十郎が自分にそうした様に。
弥三郎は驚き顔を上げた。涙と鼻水でぐじゃぐじゃになった顔を私に見せて。

おそらく初めてと思えるこの行為に驚いているのだと思う。
私の顔を見て、手を見て、全身を見て。

「・・・・これは?」

弥三郎が嗚咽の漏れる声でそう聞いてきた。

「こうすると落ち着かないか?」

大人しくなった弥三郎に私はそう聞き返した。弥三郎は黙ったまま私の着物を握り締めた。

「私に触れると、鬼になるよ?」

弱々しくそう言って弥三郎は私を突き飛ばそうとした。
だが、本心ではないその行動は力が入っておらず少し弥三郎から離れただけで私を突き飛ばす事は出来なかった。
離れた体をぐいっと引き寄せ私は先ほどよりも力強く弥三郎を抱きしめた。

「誰がそんな事言った」

私が問うと弥三郎は、また泣き出したのか「お母様や、お父様や、城の皆が・・・・。」と声を震わせて言った。

「鬼になどなるものか。お前も俺と同じ、皆と同じ人間じゃないか。」

言う時に思わず手に力が入り弥三郎をきつく抱きしめてしまった。

「けど、私は違うって!人間じゃないって。この髪も、眼も、人間じゃないって・・・。」

そう言って弥三郎は自分の左目の包帯を外して双方の瞳で私を見た。
弥三郎の左目は綺麗な紫色をしていた。
なんて綺麗な瞳なのだろうか。私は初めて見た紫色の瞳に感動し思わず見つめていた。

私の気持ちを知らず、弥三郎は「ね?」と言って苦しそうに笑った。
そんな弥三郎に私は「綺麗だ」と目を細めて言うと弥三郎は目を丸くして私を見た。

「もう一回言って?」

弥三郎にそう言われて私はもう一度「綺麗だ」と言って微笑むと
弥三郎は「そんな事言われたの初めて」と言って泣きそうな顔で笑顔を見せた。

弥三郎の笑顔に感動を覚え私は胸が熱くなった。
弥三郎は「それ本当?嘘ついてない??」と何度も聞いてきた。
その度に私は「本当だ」「髪も絹のようで綺麗」「嘘じゃない」等という答えを数回返すと弥三郎は白い頬をを赤く染め今日一番綺麗な笑顔を見せた。

「夢見たい。私の容姿を褒めてくれる人が居るなんて・・・。」

弥三郎はそう言って微笑みながら涙を流す。

「夢なら覚めないで欲しい・・・。」

何処か遠くを眺めながら弥三郎は言って私の手を握り締めた。
私も弥三郎に「夢じゃない。」そう言って手を握り返した。



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