59、襖の先を見つめる。
私達は四国までを歩きと、船で行った。
四国への道のりは長く着くのに一年近くかかった。前の世界だったら一週間でいけるだろう距離を何倍もの時間をかけ。
ここまでの道のりは本当に長かった。四国に着いたときは感動して思わず泣きそうになったぐらいだ。


四国へ向かう途中にもひと時も忘れなかった小十郎。
小十郎はこの一年間何をしていたのだろう。時々文を渡しているが元気でやっている事を伝えられているだろうか??
四国へ着た。後は、四国で勢力を伸ばしている長曾我部家へ行くだけだ。
道中喜多にどこへ向かうのか聞いたらそう答えた。
もしかしたら元親に会えるかもしれない。そう思うと心が躍った。


私は四国へ着き、服装を女物から男物へと変えた。
今までこの道中ずっと女の振る舞いをしてきた。すぐに男の振る舞いを出来るかと聞かれたら考えてしまうが
長年男として振舞ってきた、すぐに感覚が戻るだろう。
久しぶりの男物の着物を着て私は懐かしい気持ちになった。
城を出てからすぐに女物に着替えたから、男物を着ると城を思い出してしまう。
懐かしい思いに浸りながら私は喜多に顔を上げた。


私はこの一年で成長したと思う。背が伸びた。
一気に背が高くなり、喜多との距離が縮まったような気がする。
一年という歳月は子供の私にとっては長く、めきめきと成長する私を喜多は驚きながらも微笑ましく見ていた。
そして、この一年で喜多はお姉さんのように思えるようになってきた。
優しく、時に厳しく。まさに理想のお姉さんだ。
なのでここずっと喜多の事を「喜多姉さん」と言っている。
喜多は最初こそは「お止めください」と言っていたが、今では私を妹のように慕っている。
女の格好のときに流石に「政宗様」と言うのはあれだったので名前を変え
「お藤」と名乗った。これは、伊達藤次郎政宗の藤次郎からとったもので実際に名付けたのは私だ。


私達は姉妹としてここまでやって来た、だがもう、あの上下関係に戻ってしまう。
私が「政宗様」で喜多が「喜多」だ。一年近く呼んでいた「姉さん」が名残惜しい。
まぁ、だが奥州へ戻るときにまた女の格好をするだろう。
その時にまた呼べばいい。


四国を歩き私達は長曾我部の城の近くまで着た所で宿を借りて一宿し一晩経ってから城へ向かう事にした。
長曾我部には前から送っていた文が届いているだろうから大丈夫だろう。
勿論、次期伊達家当主の私が四国に興味を持ち、父上も四国とはいい関係を持ちたいと伝えるためである。
ここでは、忍び達が家臣と名乗って言うつもりだ。


この時代女男の上下関係が激しい。着いてきたのが喜多と忍び。
喜多は女性だ。どうしても相手に嘗められてしまう。喜多は男に負けないくらい強く、男らしく、情にあつい。喜多が男だったらきっと一国の主になれるだろう程に。
私は喜多が女である事に心から悔しがった。実際この道中に絡んでくる輩を喜多は素手でねじ伏せたのだ。
そのと時の喜多の姿の格好いいのなんのって。思わず見とれてしまうほどの勇ましさ。
喜多が男だったらきっと惚れてしまっていただろう。
いや、きっと喜多が男になったらきっと小十郎になっていたに違いない。その逆で小十郎が女だったら喜多のようになっていただろう。
だから小十郎に惚れている時点で私の言っている事に間違いは無いだろう。


今日はその長曾我部家の城へ向かう途中なのだ。と言っても城はすぐ目の前。
門の前に立っている門番へ「伊達家のものだ」と書状を見せると門番達は私達を中に入れた。


城の中はシンプルで、煌びやかでも地味でもない。廊下を歩き私達は長曾我部当主、長宗我部国親の元へと向かった。
暫くして目の前には周りよりも煌びやかに装飾された襖の前に立った。
女中がその襖を開けると中には国親と思われる人物が座っていた。


私達は、その方の目の前に座り家臣と名乗った忍びにより自己紹介を済ませた。
国親は明るい雰囲気でとても気さくな方だった。私達の体調を心配している事が態度でよく分かった。
とりあえず言い人そうで私は安心した。それは喜多も一緒だったのだろう。表情が少し緩んでいた。

国親との会話も言いようで互いに嫌な思いはしないですんだ。
仲良くしたいという話も国親は悪いとは思っていないらいしく、いい話ではないかと言っていた。

ところで、私は気になった事があった。それはも勿論元親の事である。
このまま行くと元親には会えない様な気がする。実際国親も元親についてはあまり話したくないという風だ。
だが、私は元親に会いたい。折角奥州から遥々四国まで来たのだ。
すぐそこにいると分かっている元親に会わずにどうしろというのだ。
私は思い切って国親に「そう言えば国親様。長曾我部家の次期当主と成られる御方に一目お会いしたいのですが・・・」と言った。

案の定国親は笑みを崩した。それでも私は国親を見据えた。
国親は「それが・・次期当主、元親は人と会いたがらないのだ」と言って苦笑した。

「一目だけでも駄目なのですか?」

「・・・・・。」

「私は一目見てみたいのです。同じく次期当主という御方を。」

そう話すと国親は「・・・実はだな」と言って元親のことを話し始めた。
性格、容姿、髪の色の事、そして左目の事。その事で母親から嫌われているという事までも話した。
そのような事を一通りの事を話すと国親は「それでも会いたいですか?」と聞いてきた。

私は元親がそういう事なのはとっくの昔から知っていた。今こうして話を聞いたから変わるような心は持ち合わせていない。
「私の心は変わりません」と言うと国親は驚き「伊達家はなんと心の真っ直ぐな跡継ぎが生まれたものだ」と目を細めて言った。

私は喜多には元親が居ると言われている部屋の近くで待ってもらって、私は国親に連れられて元親の部屋の前まで来た。

「弥三郎、お前にお客さんだよ」

弥三郎、元親の幼名である。

そう国親が話しかけると中から弱々しい細い声で「・・・・誰?」と聞こえてきた。
声だけ聞くと本当に女みたいだ。

「奥州の伊達家から次期当主伊達藤次郎政宗様がお前に会いたいと言ってきた。」

「・・・・伊達、政宗?」

「お前に一目お目にかかりたいとの事だ」

「・・・・・・・。」

「入るぞ」

そう言って国親だけがまず先に入った。中から国親と元親の声が聞こえる。
暫くしてから国親の声しか聞こえなくなった。
がらり、襖が開き、国親が「政宗様どうぞ」と言って手招きした。
私が部屋に入り、国親は部屋の外。国親と私、すれ違いざまに入る形になる。

後ろで襖が閉められた。
その音を聞きながら私は目の前に居る人物を見つめた。




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