四国に・・・。しかも小十郎は居ない。
そんな事を父上に言われて私は父上を見たまま固まった。
喜多をみればどうやらこのことは知っていたらしく黙って私を見ていた。
「な・・ぜ?ですか?」
小十郎と一緒じゃないの??私が小十郎と離れたくないって言うのは分かるよね?
なのにどうしてそんな事を言うの??
「四国は同盟を結ぼうと思っていたからな。次期お前はこの伊達を継ぐ。だから、お前も四国に行って四国の事を学べたらと思ったんだ。」
ああ、そういう事。確かになんで四国かな?って気になっていたけど、私はどうして小十郎が一緒じゃないのかって言うのところが気になっていたの。
「なぜ、小十郎は来ないのですか?」
そう言うと父上は少し顔を俯かせ言った。
「梵天丸、お前は女だろ?だから、四国に行く途中は女の格好を少しでも出来たら思ってな・・・・。」
・・・・そうだ。私は女だったんだ。
けど、別に女の格好をして四国に行く事はしなくてもいいんじゃないの?
なんで四国に行くことが私の女の格好をすることと繋がるの??
「父上。それだけですか?」
と言うと、父上は暫く黙っていたが口を開いた。
「お前と小十郎。少し間を空けないと、と思ってな・・・・・。」
なんとも言い辛そうに父上は言った。
私と小十郎の間を空ける??なんの為に??私と小十郎を離したいの??
私は自問自答してなんだか泣きそうになってきた。
だが、涙を簡単に見せるわけにはいかない。私は唇をぐっ、と噛んで涙を堪えた。
「それは・・どうして、ですか?」
父上と喜多がちらりと顔を見合わせアイコンタクトをとっている。
暫く二人は難しい顔をしていたが。顔をこくん、と縦に振った。
どうやら話す決心がついたようだ。父上は喜多から再び私に顔を向けた。
「お前達は互いに消えてしまうのを恐れている。
お前達は俺が思うよりずっと深く絆が結ばれてしまった・・・・。
だから、これは離すことにより互いに離れると言うことを慣れさせるためでもあるのだ」
「絆が深くなるのは駄目なことなんですか?」
「深すぎるのは危険だ。」
私の質問に父上が即答した。
「今のお前達は危険すぎる。お前は小十郎が居なくなるのは堪えられるか?」
「・・・堪えられません」
「だろ?きっと互いに互いを優先してしまう。一国の主となるには皆を平等に扱わなければならない。一人を優先する事は出来ない。
この意味、梵天丸には分かるよな?」
つまり、いつか小十郎を見捨てるような覚悟を付けておけ。と言う事・・・。
私は忘れていた。少し平和ボケしすぎてしまった。
今は、ここは、戦国乱世。明日、今この瞬間命をとられてもおかしくない場所。
たった一人の為に大勢をなくすことは出来ない。常にどちらが国の為に得になるかならないかを考え生きていかなければならない。
「・・・はい」
父上は私の両手をとって握り締めた。
「小さいお前にはたくさんの辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ないと思う。
恨むのならお前の人生ではなくこの俺を、情けない父を恨め。」
顔を歪ませ父上はそう言うと私を強く抱きしめた。
それは違うよ父上。辛い思いをしているのは父上もだよ。
きっと私よりもたくさんの辛いことがあったはず。たくさん傷着いて来たはず。それなのにそんな父上を恨むなんて私には出来ません。
父上は私から離れ私の顔を覗き込むように見た。そして、私の額に唇を優しく落とした。
私は胸が熱くなった。
「父上。」
「なんだ」
不安げな父上の顔が私の視界に広がった。
父上は頭を抱えていた右手を離すと私の頭をふわりと撫でた。
父上に頭を撫でられながら私は言った。
「四国へ参ります。喜多と共に。」
強く、決心したようにと、はっきりと言葉を発した。
父上は泣きそうな顔で言った。
「ありがとう」