53、その言葉と共に思い出が追加される。
空を見れば鈍色の雲が広がっていた。その雲からはらりはらり舞い落ちる雪が頬を掠め体温を奪っていった。
吐く息は秋とは違いさらに白くなって口から吐き出される。
寒くて鼻が冷たくなり感覚が無くなっているのが分かった。

目を細めてそらを見上げ続けていると雪が空から落ちてくる様子がよく分かった。
舞い落ちた雪は雪の上にその身を乗せ積もりに積もってきている。
この分だったら夜になる事には一間は積もっているだろう。いや、二間?。

奥州の冬は雪が多い。その為毎年毎年その雪をどうするかで皆困っている。
だが、まぁ、自然のことだ仕方が無い。と皆諦めている。確かに雪は大変なのだが、雪を見ると、あぁ、冬なんだな。という気分にさせてくれる。
正直嫌いではない。それに意外と雪の中は暖かいものだ。

「梵天丸様そろそろお部屋に戻られてください。風を召してしまいますよ。」

いつの間に来たのか小十郎が私のすぐ後ろに来ていて私の肩にその大きな手をぽんっと置き、私の顔を上から見た。
空の代わりに小十郎の顔が視界一杯に広がった。
今まで雪と自然だけだった白黒の世界に色が入った。
小十郎の肌の色、髪の色、瞳の色。寂しい世界に色が付いた。

私は暫し無心で小十郎の顔を見ていた。が、直にはっとなって私は小十郎に微笑んだ。

「そうだな、そろそろ部屋に戻るか」

そう言ってくるりと後ろを振り向いた。目の前に小十郎が見える。
小十郎は私の右側に避け部屋までそのまま共に歩いた。

「すっかり冬景色だな」

すっかり白くなった庭を見ていった。

「そうで御座いますね」

小十郎は口元の笑みを残してそう答えた。風が強く吹き荒れ雪が風に乗って流れた。
耳が痛い。それから一気に風が強くなった。耳元でびゅうびゅう吹き荒れる風が耳に当たり風の音しか聞こえなくなった。
暫く経つとさっきまでの穏やかな雪とは打って変わって激しい吹雪のような雪へと変貌した。

部屋に戻ると小十郎が用意していた火桶が部屋を暖めていた。
だいぶ体温を奪われた体にはちょうど良い温度になっていた。
そして、小十郎はすぐさま私に温かいお茶を用意した。お茶を飲み火桶で体を暖めた。
暫くしてから喜多が私に茶菓子を持って部屋に来た。
茶菓子の饅頭を一つとって口に含めば甘い餡子の味が口の中に広がった。
小十郎と喜多にも饅頭を勧め三人でお茶と茶菓子を楽しんだ。

「もうすぐ年が明けてしまわれますね」

これまでを振り返るようにしみじみと喜多が言った。

「そうだな」と喜多に言った。
この一年は色んな事があった。小十郎が私の守役になって、喜多が私の教育係になって。
色んな事がありすぎて一年とはいわずもう十年経ったような気持ちだった。
さすがに十年は無いだろうが気持ちの問題だ。

「色んな事がありましたな・・。」

小十郎も同じなのか遠くを見つめている。その瞳が潤んでいると見えるのは気のせいか。
喜多も昔を振り返るように手に持っているお茶を見つめている。

「今年が終わったらまた来年がある。死ぬまでそれは続くだろう。」

「そうですね。」と気の抜けた返事を二人が言う。

「一年年が変わる事に一つ年取る。」

それは変わらないことでもあるし、一年年をとると言うことは新しい思い出が増えていると言うことでもある。と、私は言った。
思い出は良い事もあり、悪いことも沢山合った。どうか、来年は今年よりもいい思い出が沢山出来ますように。

外から聞こえる風はさっきよりも勢いを増し城に吹き当たる。
風の音を聞いていると想像するだけで寒さが分かったのか体がぶるりと震えた。
私の近くに手桶を近づけたのは小十郎、喜多共々ほぼ同時だった。
そんな二人に私は可笑しくてつい息のような笑い声を漏らした。
今日だけは楽しく過ごそう。部屋から出ずに、大好きな二人に囲まれて、暖かい部屋で。
もうすぐ父上も来るだろう。父上は忙しくて長くは居れないがそれでも、忙しい合間を縫って足を運んでもらえていると言うのは感謝してもしきれない。
父上が来てくれたらこの暖かい部屋で笑顔で迎えてあげよう。
そんなことを考えているとその父上が来た。父上は私に「来年も俺の子でいてくれよ」と言って微笑んだ。
それに対して私も「はい」と微笑んで返事をした。
私は大好きな父上の腕に抱かれた。大好きな父上の香り、大好きな父上の腕に抱かれて。
あぁ、幸せだ。なんて思ったのは仕方が無いだろう。
父上は私の頬に自分の頬を摺り寄せ愛おしそうに私の名前を呟いた。
まるで、私の存在を確認すように。

「父上、梵天丸はここに居ます。」

そう言うと父上はくしゃりと目元に皺を作って笑いになった。
小十郎とも、喜多とも違うまた別の笑顔。あぁ、なんて綺麗なんだろう。私もこんな風に笑顔を作りたいものだ。

程なくして父上は私の部屋を離れた。とても名残惜しそうに。
父上と過ごせた時間はほんの少し。だが、とても私は満足した。父上に会えただけで良い。それだけで十分だ。

時間は刻々と過ぎていった。あっという間に辺りは暗くなってきた。雪は未だに降り続けている。外に出ては居ないがきっと雪が己の姿を主張するように降り積もっているであろう。


「梵天丸様」

小十郎が言った。

「明けましておめでとう御座います。」

深々と頭を下げていった。喜多も小十郎に続き頭を下げた。
二人の顔は柔らかく優しい物だ。私は姿勢を正し二人を見た。
そして、頬を緩める。





明けましておめでとう。





.

一足早く年越しました!!
元旦にやりたがったが時間が時間なんで今書きました!


prev next

bkm

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -