49、村の足軽三人の話。
村の足軽視点)


米沢城の中では義姫様の前では決して出しては名前があった。
其れが「梵天丸」だ。途中から米沢城に仕える事になった女中達は知らないだろうが少し前大変な事件があったんだ。

そう言って皆が皆話すからその話を知らないものはもはやこの城には居ない。
義姫様が、梵天丸様を誰よりも愛していたあの御方が、梵天丸様の右目が無くなった途端一変して梵天丸様に斬りかかったんだ。
その時梵天丸様を庇った二人は亡くなってしまったがその二人のお陰で梵天丸様は今も健在だ。
だが、右目が無くなってからか、二人が亡くなってからか、梵天丸様は変わってしまった。
変わる前までは大層可愛らしい御方だった。
笑顔がよく似合っていて、聡明で、満開上人の生まれ変わりという話も納得できたほどだ。

其れが今では、城の奥の部屋に閉じこもりひっそりと生活しているそうだ。
話によると、梵天丸様はまるで狐に取り付かれたように変わってしまったと。
恐ろしい形相で暴れ、叫んだ。あんな小さい子が何故あんなにも変わってしまったのか・・・。

可哀想に可哀想に。

今は、梵天丸様の側を任されたものは二人。その二人と数人以外ははかれこれ一年以上は梵天丸様を見ていない。
梵天丸様は今どうしておらっしゃるのだろうか。気が触れておかしくなってしまったのだろうか。

と言うのが、この城の中の話、噂であった。

義姫様は小次郎様を溺愛し、一方の梵天丸様は一体どうなってしまわれたのか。皆の考えはこれだった。
梵天丸様なんかどうでもいいと思っている者、梵天丸様なんか居なくなればいいと思っている者、又、梵天丸様がまた目の前に現れるのを望んでいる者。
この城には色々な考えを持った者が居る。正直堂でもいいと思っている者も中に入るだろう。
だが、中には昔の梵天丸様に戻って欲しいと願うものも居るのだ。


ここに居る三人は正直どうでもいいと思っている方だった。
この三人は伊達の足軽だ。普段は農業をしているが、戦となれば立派な足軽の一人として働く。
この三人は別に城に居るという訳でもない、ただ、偶々城でそう言う話を聞いたのだ。
それと、回りの皆も話している事。

三人は「梵天丸」という人の存在を良く知らない。だから、そんな事が言えるのだろう。

冬に備えての薪割りと食料調達を終えた三人は三人のうちの一人の家の中で休んでいた。
休んでいると自然とそう言う話が出てきたのだ。

なぁに、何も悪口を言っているわけではない、ただ、どんな人かというのが気になったのだ。
しかし、三人ともどういう人なのかも知らなかった。
噂を並べていくと、右目が無く酷く恐ろしく醜い顔をしているとか、
子供とは思えない姿で生き物を生で食ろうているとか、人を殺してしまうため城の奥で監禁しているとか。
そう言う話しか出てこない。

「やっぱり、梵天丸様は恐ろしい顔なのかな」

三人のうちの一人が恐る恐る言った。

「そうに違いない、残っている左目は血のような赤い色に染まっていると聞いたぞ」

「いや、俺は自ら左目も取ったと聞いたぞ」

話は不思議と尽きない。だから三人は話し続けた。


話しの大半は作り話と知っていても話をするのが楽しくて止まらないのだ。
一人が言えば、二人目がいや違う、三人目がこういうのは聞いたか。とまるで無限のように続いた。

「鬼になられた」

「異形のものにとり付かれた」

「亡くなった」

いつの間にかさっきまで真上に合った太陽が傾いているではないか。やれやれ、こんなに休むつもりは無かったのにな。
と言って三人は立ち上がった。

「そう言えば」

と、また一人が話し始めた。

「小十郎様を覚えているか?」

小十郎様と言うのは、暫く前に畑に興味があると言った伊達の小姓の一人だ。
三人は畑仕事の熱意と心意気にほれ込んで自分の知っている畑の知識を全て小十郎様に教えた。
小十郎様はそれはもう真剣になって勉強した。三人は年下のその小十郎様を気に入っていた。
だからこうして本人がいなくとも様を付けて敬意をはらっているのだ。

「ああ、覚えている」
「勿論ではないか」

二人も口々に言った。

「小十郎様がここに来れなくなったのは梵天丸様の守役になったからからだそうだ」

「なんと」
「そうだったのか」

二人は知らなかったらしく驚いた。
それでは小十郎様は・・・。

「小十郎様。」

一人がそう呟いた時、

「俺がどうかしましたか?」

と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
三人はまるで幽霊を見るように目の前の人物。片倉小十郎を見た。

「こ、小十郎様!?」

「最近はすまんな、城の方が忙しくてここに来れなかった。」

さっきまで小十郎様の生存を諦めていた所に本人が来るとは。
噂をすれば何とやらとはよく言ったものだ。

「あの、小十郎様。その、大丈夫なんですか?」

三人のうち勇気ある一人が言った。

「何がだ?」

「その・・・梵天丸様の守役になったと聞いたもので・・。」

と、なんとも言いずらそうに言った。
小十郎様の反応は一体どのようなものか。怖かったが三人は小十郎様の顔を見た。
すると、なんと、小十郎様はなんとも優しい笑顔で微笑んでいるではないか。

三人は分からなかった。今の会話に何処にそんな笑顔になる要素があったのだろうかと。
対しする本人、小十郎は。

「ええ、勿論大丈夫ですよ。」

と平気な顔をして言うのだ。
そこで、またまた勇気ある男が言った。

「梵天丸様は、どんな御方なんですか」

残り二人はもう気が気ではない。何故そんな事を言うのか。
まぁ、男の好奇心がそうさせていたに違いないのだが。

「梵天丸様は、可愛らしくとても素晴らしい御方ですよ」

その返事と共に返された笑顔は眩しくて思わず目を背けてしまいそうな程。

ああ、一体どんな御方なんだろう・・・。


三人の梵天丸様に対する謎はより深いものになったと言う。





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