4、宝物は手の中に。
(輝宗視点)


もうどのくらい梵天丸にあっていないだろうか・・・。

伊達家の当主でもある輝宗は深くため息をついた。
可愛い我が子をもう一週間も見ていない。見ようと仕事からの脱出を試みるが
義に見つかりまたこの書類だらけの部屋に戻される始末。

梵天丸に会いたい、少しだけでもいい。
それなのに義姫はそれを許さない。

仕事仕事と言ってばっかりで嫌気がさしてくる。
ったく、あいつばかり梵天丸に会いやがって・・・。
湧き出るこの気持ちは、怒りか、それとも嫉妬か・・・。
まぁ、どちらとてあまり、かわりはない。
梵天丸に会いたいという気持ちが、会えないほど強まっていく。


また、抜け出してみるか。


考えた末に思いつくのはいつも抜け出す事しかない。
いくら考えても、それしか手段がないしな。


そうと決まれば早速実行だ。

輝宗は勢い良く立ち上がって、つかつかと襖に近づくと自分が襖を開ける前に襖が独りでに開いた。

「!?」

しかし、見れば襖は独りでに開いたのではなく梵天丸の世話を任せた女中の小萩だった。

「あ、申し訳ありません輝宗様。」

そう言って頭を下げる小萩。しかし、申し訳ないというわりには
その顔には隠しきれない笑みが浮かんでいた。


「どうしたんだ小萩、そんなに急いで。」


普段はおとなしい小萩がこんなに慌てて来るなんて珍しいな・・・。


・・・まさか!!

「梵天丸に何かあったのか!?」

まさかとは思うが・・・。いや、そうであって欲しくない。
俺は、小萩の肩に掴みかかった。


「お、落ち着いてくださいまし輝宗様!!
確かに梵天丸様のことですけれども悪いことではありませぬゆえ・・・。」


悪い事ではない・・・?
それでは・・。


「梵天丸がどうしたんだ?」

そう俺が問うと、小萩はより一層顔を綻ばせて
「梵天丸様が寝返りをうたれましたんです!!」
と嬉しそうに言った。


「それは、本当か!?」
「ええ、本当のことでございます!!
もうすでに義姫様には伝えました。」


なに!?また、義に先を越されるのか。

「俺も行く!!小萩は他のものにも伝えよ!!今日は宴だ!!」
「了解仕りました。」

梵天丸が寝返りをうっただと!?
寝返りをうつのにはまだ早いと思ってたがまさかもう寝返りをうつとは・・・。
強い子に育つぞ、俺の子は。


早足で梵天丸の居る部屋に向かうと、義のほかにもうすでに何人か人が居た。
やはり、出遅れたか・・・。


梵天丸は・・・と探してみると義の腕の中にすっぽりと埋まっていた。

久しぶりに見る我が子は、また一段と可愛くなった気がする。
いや、ただの親ばかかもしれないが・・・。

俺は義の隣に立つと、腕の抱かれている梵天丸を見た。
子供の成長とは計り知れぬ。

梵天丸はたくさんの人に囲まれているのに騒ぎもせず、泣きもしない。
肝が据わっているというのか、なんというのか。

義を見ると、義は「我が子は天才だ!!」と誇らしげな顔をしている。

義は、顔は美人なんだが性格が悪い。
(こやつにとって梵天丸は天下を取らせるための道具にしか見えぬかもしれない)
義はそういう女だ。
夫である俺が一番よくわかっている。


義から、梵天丸に目を移すと、梵天丸は俺のほうを見ていた。
一瞬、心臓がどきりとなった。
まだ、悪も何も知らない瞳に見つめられたからだろうか。
それとも、梵天丸の瞳に見つめられたからだろうか・・・・。


梵天丸は俺を見つめたまま他を見ようとしなかった。
己を抱いている義に目をやるわけでもなく、周りの者に目をやるわけでもない。
俺に目をやっている。

俺は、何も言わずに義から梵天丸を取った。
義は少し怒った顔をしたがそんなこと今の俺にはどうでもいい。

俺が、梵天丸を抱きかかると梵天丸の顔はさっきよりも瞳一杯に映った。

伊達家特有のきりっとしている目。それでいても目は大きい。

穢れを知らぬ白い肌。
まだ、誰かに頼らなくては生きていけない小さな体。

俺は、今さらにこの『梵天丸』という存在を確認した。
こみ上げてくる愛しいという気持ち。

そっと、俺は梵天丸の頬に唇を寄せた。

「さすが俺の子だ。」

それしか言えなかった。
すると、まだ言葉もわからない赤子が俺の言葉を聞いて、今日初めての笑顔を俺に見せてくれた。


俺は、何があってもこいつを守っていく。
何があっても、強く、自分を曲げない子に育てていこう。

梵天丸がたとえ女子だとしても。

そう心に決めた瞬間だった。


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bkm

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