朝小十郎に起こされてぱちりと目が覚めた。
「おはようございます梵天丸様」
「おはよう。」
眠い目を擦りながら私は小十郎に挨拶をした。そして両腕を広げて小十郎に抱かれ寝具から出る。
着替え、朝餉を終えた私は今日の予定を聞いた。
すると小十郎から「今日は私が梵天丸様に教えます」という返事が返ってきた。
「本当か!?」
私は思わず聞き返した。
「はい。」
と小十郎は短い返事をした。
小十郎だから、剣術と体術だな。そう心の中で思い、小十郎は一体どういう風に教えてくれるんだろうと期待に胸を躍らせた。
早速私と小十郎は庭に出た。
小十郎は手に木刀を持っている。
冬に近づいている、というかもう冬に片足を突っ込んでいるこの季節。やはり、体にあたる風が冷たかった。
ふいっ、と空を見上げると青空が広がっていた。
清々しい青空。こんなに視界一杯に青空を見たのは久し振りかもしれない。
暫く空を見ていると私はすぐに小十郎に視線をやった。小十郎はそんな私を見計らって話をし始めた。
「まず始める前に梵天丸様に質問させていただきます」
驚いた。喜多と同じだ!!教育を始める前に質問をする。
もしかしたら、小十郎のこうしたところは喜多が小十郎に教えたのかもしれない。
「なんだ」
「まず、梵天丸様は強くなりたいですか?」
単純な質問だ。私は「勿論だ」と答えた。
「では、何故強くなりたいのですか?」
まぁ、最初の質問からすると次にこの質問が来るのは分かっていた。
「皆を守りたいからだ」
私は答えた。
「その答えに嘘偽りは」
「俺が嘘をつくと思うか?」
「いえ、すみません」
そう言って小十郎は頭を下げた。
「梵天丸様がそう言ってくださって小十郎は嬉しいです」
笑顔を見せて、小十郎は心から、とでも言うように言った。
「そうか」
私も笑顔で言った。
「俺をそう思わせてくれたのはお前や皆のお陰礼を言うぞ」
「・・・・有難き幸せ」
小十郎は声を震わせて言った。
勿論私が言ったのは本心だ。こう思わせてくれたのは皆が優しく私に接してくれたお陰。私が憎しみ、怒りの方向に走らないようにしてくれたのも皆の優しさのお陰だ。
心から感謝している。
「それでは、始めましょうか。まず最初は刀の持ち方です。」
そう言って小十郎は私に木刀を持たせ教えてくれた。
持ち方がなったら次に刀を振る。振り方も様々あるがまずは縦に振る簡単な方法だ。
私は上手く振れなくて半ばやけくそでやっていた。
うまく力が入らなくて苛々もした。だが、小十郎がどういう風に力を入れたらいいのかなどという事を私に根気強く教えてくれたお陰で何とかましな形にはなった。
「違います梵天丸様体が曲がっております。戦場であれば簡単に体を崩されますぞ。」
指導の時の小十郎は少し怖かったけどそれはそれだけ真剣にしているという事だから私は小十郎に苛付いたりはしなかった。
小十郎の方は綺麗だった。真っ直ぐで、太刀筋がしっかりしていて。
向けられた視線が鋭くてどきりとした。
手に持っている木刀が刀に見えてしまうほどだ。
小十郎の指導は最初という事もあり陽が沈まないうちに早々とやめた。
しかし、小十郎は私が汗を手拭で拭って居る間も、水を飲んでいる間も暫く木刀を降り続けた。
私は部屋には入らず近くで小十郎を見ていた。
「梵天丸様お体が冷えます。先に部屋にお戻り下さい」
そう言うが私は「お前を見ていたい」と言って動かなかった。
根負けした小十郎は木刀を振るのを止め私を抱えて一緒に部屋に入った。
部屋に戻ると喜多がお茶を用意してくれていた。
私達はそのお茶を飲みながら今日のこと今後の事や、明日の教育は誰がするのかを話した。
久し振りに運動した私は気持ちが爽やかで喜多と小十郎に笑顔を向けた。
その度に優しく微笑んでくれる二人。ああ、笑顔を向けてもらえるのっていいなぁ。
そんな事を考えて私の今日は終わった。