44、そんな事昔から知っていた。
私と小十郎、暫く二人部屋に居てから私は喜多を部屋に呼んだ。
喜多の前では私と小十郎触れ合うということはしない。それはたとえ主従関係でもそんなに触れ合うというのはおかしいと言うのを知っているからだ。

喜多は私たちを見るとフフッと口元を緩めて笑った。

「どうした?」

私が訪ねると喜多は、「いえ、どうやら二人の間あった靄は消えましたな、と思いまして」そう言ってより一層深い笑みをつくる。

喜多には何もかも見透かされているようだった。私もフフッと喜多と同じように笑った。

「そちのお陰だ礼を言うぞ」

「いえいえ、私は何もしておりません。全てはお二人で解決なさった事です。」

と、言い切る喜多。謙虚な態度をとる喜多に私はなんだかもう嫌いとは言えなくなっていた。
なんというのだろう。さっきのことがあったからかもしれないが喜多は悪い奴じゃないと思うし。

「小十郎。もう少し大人になりなさい」

「・・はい。」

喜多には頭の上がらない小十郎に私はまた笑った。すると小十郎もつられて笑った。

「ところで」

喜多はさっきとは一変して厳しい表情になった。喜多の周りの空気が変わる。
私と小十郎も思わず厳しい表情になり、喜多を見つめた。

「小十郎、少し席を外していただけませんか」

拒否する事を許さないというように言った声に小十郎は逆らわなかった。そして何故か、という事も聞かなかった。
小十郎が部屋を出ると喜多は少し厳しい表情を崩したのだその顔からは別に不安な表情が読み取れた。
眉間に皺を寄せ、思いつめたような表情。
暫く何の物音もしない。そこまで静かになった。喜多は口を開こうとしないし、私は喜多が話すまで待っている。
そして、喜多が口を開いた。

「梵天丸様はこれからどういうお人になりたいですか?」

いきなり何を言い出すのかと、私は首をかしげた。だが、暫く考えてから

「強い人になりたい。人を、国を守れるような強い人に。」

「その為には何が必要だと思いますか?」

「強さ」

「強さ・・・ですか?」

「ああ、ただ強いだけじゃない。心の強さも必要だと思っている。」

「・・・それでは反対に要らないものは」

「無い」

「無いとは?」

「そのままの意味、要らないものなど無いという事だ」

「そうですかそれでは、臆病な気持ちもですか?」

「臆病な心も必要だ、持っていなければ簡単に命を投げ出してしまうからな。
命を簡単に投げ捨てるのは強いからではない、ただの馬鹿だ。」

「・・・・分かりました。それでは、女は必要だと思いますか?」」

真っ直ぐと喜多が私の瞳を見た。綺麗な瞳だ。
この喜多の質問には私は思わず止まってしまった。

「必要だと思う・・・。だが、場合によってだ」

「それでは、女とはどういうものだと思っていますか?」

「女とは・・・・この世に無くてはならない存在」

「・・・そうですか」

私はなんとなく先の展開が読めた。
この質問の内容からだ。そして喜多の動きは止まった。
質問の時は簡単に口が開いた喜多だが次の言う言葉がなかなか出てこない。
私はそんな喜多を静に見ていた。

「梵天丸様、貴方様に言わなければならない事があります」

「なんだそれは」

「それは・・・」

そう言って喜多は視線を私からふいっと逸らした。
そして、膝の上に乗せた拳にぎゅっと力を入れるのが分かった。

「実は、貴方様は・・・」

「・・・・。」

喜多は決心したように私に顔を向けた。
なんとも言えない不安な顔が私の視界に映る。

「実は、女子だったのです・・・。」

苦しそうな喜多。この言葉を言うのはさぞかし辛い事だっただろう。
だけど、さ。

「知っていた」

飄々と私は苦しい表情の喜多に言った。
喜多は一瞬私が何を言ったのか分からないみたいだった思わず口が半開きで眼を丸くして私を見ている。

「い、今なんと!?」

「だから、そんな事等の昔に知っておった」

「知って、いた、ですと??一体誰に教えてもらったのですか!?」

「いや、誰にも教えてはもらっていない。ただ、俺が男でない事ぐらい知っていた」

「そ・・・・そうでしたか・・・」

喜多は脱力したみたいで肩を下ろし、なんとも気の抜けた顔になった。

「話はそれだけか?」

「え、あ、はい」

「じゃあ、小十郎を呼んできてもらっていいか」

「はい、ただ今・・・」

よろよろと立ち上がり小十郎を呼びに言った喜多の後姿を見送り私ははぁと溜息をついた。
そっか、女だと知らされたんだ。
喜多も私が女だと分かってたんだ。
小十郎には言ったのかな?
この事が一変に頭の中に出てきた。

そして部屋天井のの隅の辺りを何も考えずに見た。
その時、廊下から足音が聞こえてきた。
ああ、小十郎が来た。私はその足音が部屋に入ってくるのを待った。








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