42、秘密は秘密のままがいいのかもしれない。
(小十郎視点)


話があるから部屋に来いと輝宗様に言われ部屋に来たのだが、どうして部屋に義姉上がいるのだ!?
俺は「?」を頭の上に浮かべながらも普段通りに輝宗様の挨拶をした。
その挨拶をすぐに終わらした。

「輝宗様、話というのは」

と言うと輝宗様はハハハッと笑った。

「さすが義姉弟、喜多も同じことを言ったぜ?」

「そうでございましたか」と言って俺は義姉上と向き合った。

「挨拶遅くなりましたが、お久し振りです義姉上」

「ええ、お久し振りですね」そう言って義姉上が微笑んだ。

「さて、話を始めるか」
そう言うなり輝宗様は手に持っていた煙管を膝でポンポンと叩きながら話した。

「喜多を梵天丸の教育係にしようと思う」

「は?」と思わず言ってしまうところだった言葉をぐっと飲み込んだ。
梵天丸様の教育係に義姉上が???

「私では役不足なんですか!?」

「そう、怖い顔をするな小十郎。そう言うことじゃない」

「それではどういうことなのですか??」

「文学、礼儀作法は喜多に任せ、武術をお前に任せようとする」

「・・・・。」

「・・・それに、梵天丸は女が嫌いだったよな?喜多で女を慣らしていこうと思ってな」

確かに俺は女じゃないから梵天丸様の女嫌いを直す事は出来ない。
だが、だからと言って教育係を義姉上に任せるなど・・・・。

俺は悔しいような悲しいような気持ちで一杯になった。
なんだか、急に来た他人に横取りされたような気分だ。
しかし輝宗様が決めたこと、替える事は出来ない。

「分かりました、これから梵天丸様の文学は義姉上に任せます」


嫌々ながら俺は承知した。本当は嫌だったが。
もし、梵天丸様と喜多仲良くなって俺の事を邪魔だと思うようになってしまったら。
もし、梵天丸様に要らないといわれてしまったら・・・。
考えるだけで怖かった。考えたくないのに次から次へとそんな考えが出てくる。

「小十郎」

「は、はい」

考えすぎていたため、輝宗様が俺を呼んでいた事にもすぐに気付く事が出来なかった。

「あまり考えすぎるな。ただ、喜多が一人増えたそう言うことだ。」

「・・はい」

頭では分かっているんだ。あまり考えすぎるなというのは。
しかし、どうしても考えてしまう。思考がだんだんと最悪な方向へと進んでいくんだ。

俺は気付いた。輝宗様もこんな気持ちだったのかと。
俺が梵天丸様の教育係になる時輝宗様は大事な梵天丸様を俺に任せた。
大事な、大切な梵天丸様を俺にとられてしまうのではないのかと不安になったに違いない。
それなのに、輝宗様は自分の気持ちよりも梵天丸様のことを思われた。自分から俺に教育係になるように言った。
輝宗様の心は強い。俺は改めて輝宗様を尊敬した。

しかし、俺はどうやらまだ輝宗様のような心は持てない様だ。
醜い気持ちが絶え間なく押し寄せる。ああ、こんな感情よけいだ。
俺も輝宗様のように梵天丸様の事を思って、そうすればきっと義姉上のことも受け入れられる・・・。

そう、梵天丸様の為なのだ。梵天丸様の為。
俺は武術を教え、強く育てていこう。そして、義姉上には教育を・・・・。
俺は握り締めていた拳にぐっと力を入れた。

「明日さっそく喜多を梵天丸に紹介する。話はそれだけだ。戻っていいぜ。」

「失礼します」

俺は輝宗様と義姉上の顔を見ずに立ち上がり部屋を出て行った。


小十郎が居なくなった部屋で、輝宗と喜多は顔を見合わせた。

「小十郎は分かりやすいな」

「昔はそんなでもなかったんですよ?ただ、小十郎にとって梵天丸様がそれだけ大切な存在になってしまったということですね」

「そうか・・・」

「はい。あんな複雑な小十郎の顔初めて見ました」

「そうだな。あいつはいつでもしっかり構えて堂々としていた」

「主を想ってくれるのはいいことですけど・・・今回は心配ですわね。」

「そうだな。」

「・・・輝宗様、小十郎に嫉妬しているでしょう」

「分かったか?」


輝宗は苦笑いをした。
そんな輝宗を喜多は眉間に皺を寄せて笑った。まるで輝宗の気持ちが自分の事のように。

「梵天丸様は本当に不思議な方です。こうして皆が惹かれてしまう。」

そう言うと喜多は小さな溜息をついた

「それと、輝宗様。どうして小十郎に梵天丸様は女だという事を言わなかったのですか?」


小十郎が来る前、二人はその事について話し合っていた。
その結果小十郎に梵天丸は女だということも話すつもりだったのだが・・・。


「・・・急に怖くなってな。」

「知ったときの小十郎の態度がですか?」

「そうだ。今話したらきっと小十郎も頭の中が一杯になっちまうだろ?さっきの話でさえあれだ。話していたら小十郎の梵天丸への態度は一変する。
そう考えると梵天丸にも影響する。あいつらは二人で一つなんだよ。きっと小十郎が居なくなったら梵天丸は昔以上に、梵天丸が居なくなれば小十郎は狂う。そういう考えしか出てこねぇ。」

「たしかに、あの二人はそこら辺の主従関係とは全然違いますものね」

「喜多、難しいだろうが頑張ってくれ」

「はい、それでは小十郎に梵天丸様は女だとばれないようにし、女としての教育、男としての教育、どちらも身に付けさせます。」

「任せた」



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