37、お互いに少し足りなかったところ。
「梵天丸様少し庭を歩きませんか?」


今日の一日はこの小十郎の一言から始まった。
庭?何をいきなりそんな事を言うんだろうと不思議になった。
その事を小十郎に言うと
「たまには外に出ませんと・・・。それに今は秋、涼しくなってきましたし紅葉が綺麗ですよ」
と言う返事が返ってきた。

まぁ、たしかに全くと言っていいほど私は外に出て居ない。
出るのめんどくさいし・・・・。けど、たしかに紅葉が綺麗だし庭だけだったら良いかもしれない。
それに、小十郎と一緒なら。


「いいぞ、庭に出てやる」

「有難う御座います!」

私がそう言うと小十郎はにこりと笑って私の手をとり、「では早速」と言い庭に出た。


部屋の中では味わえない風を全身に感じて私は深呼吸をした。
上を見上げれば青空が広がっている。さらに、その青空の隣には小十郎の顔が見えた。

しばらく小十郎の顔を見ていたが小十郎が私の顔を見てきたので顔を逸らす。

右手に握られている小十郎の手がぎゅっと少し力が入った気がした。
その小十郎の手に私も自然と手を握り返していた。小十郎の体温が私の手から体全体に伝わっていく。
気持ちの良い体温、だけど小十郎に抱っこされた時ほどには負ける。

「小十郎歩くの疲れた」

なんて口実をつけて小十郎に両手を広げる。その私の行動に小十郎は「仕方が無いですね」と微笑みながら私を抱きかかえた。

ああ、やっぱり落ち着く。
小十郎に抱きかかえられた私は目を細める。小十郎の肩越しに庭を見るとなんだかさっきよりも植物が綺麗に見えるのは気のせいだろうか?

小十郎が歩くたびに落ち葉がかさり、かさりと音お立てる。


「久し振りの外はどうですか梵天丸様」

「気持ちが良い。たまに外に出るのも良いな」

これは私の素直な感想だった。本当に外は良いと思た。
それが、小十郎が居るせいかは分からないけど・・・・。とりあえず私はそう思った。


庭を少し歩くと池があってそこではどうやら鯉が泳いでいるようだ。
私は小十郎から離れて鯉の方へと駆け足で向かった。
後ろでは小十郎の「お待ちください梵天丸様!」という声がする。

・・・今は分からないけど後になって後悔する事ってあるよね。
私は小石に躓いて顔から豪快に転ぶという漫画のような転び方をした。


「梵天丸様!!」


慌てて小十郎が後ろから走って来て私を起こす。

「大丈夫ですか?お怪我は御座いませんか?」

心配と焦りの混ざった小十郎の声が聞こえるが、私は顔を両手隠して後ろを向いた。

鼻をぶつけて痛い。本当に痛い。じんわりと涙が浮かんでくるのを私は必死に止めようと頑張った。

小十郎はそんな私の反対に回って顔を見ようとする。

絶対怪我してるし、涙も出ている。こんな顔小十郎に見られたくなかった。
小十郎の手が私の両手を顔から外そうとする。

「梵天丸様、小十郎にお顔を見せてください」

私は首を横に振る。

「お怪我をしているかもしれません、すぐに消毒をせねば!」

そう言って小十郎は私の手を顔からずらした。
涙が零れる・・・。
涙のたまった瞳で小十郎を見る。下を見たら涙が流れそうな気がした。

小十郎は懐から手拭を取り出し私の顔を優しく拭く。

「梵天丸様大丈夫ですか?」

「大丈夫・・。」

大丈夫の「だ」のところで涙が零れた。小十郎の眉間の皺が深くなった。
膝を見ると膝も擦り剥けて血が出ていた。
小十郎は私を抱き上げると井戸まで来て水を汲み手拭を濡らして傷口にあてる。
少し沁みて痛かったけど、声を出さずに耐えた。

そして部屋に戻ると小十郎が消毒をして包帯を巻いた。
私が馬鹿で走ったばっかりに、小十郎に心配をかけてしまった。


「・・・・小十郎ごめんなさい」


消え入りそうな小さな声で言うと、心配そうな顔に小十郎は笑みを浮かべて
「謝らなくてもいいのですよ梵天丸様。小十郎の気配りが足りなかったのです」と自分のせいにした。

「違う!梵天丸のせいだ!!」

怒鳴るように言って私は手当てをし終えた小十郎に抱きついた。


「ごめんなさい。嫌いにならないで」

小十郎にだけは嫌われたくない。小十郎に嫌われたら私は生きて行けない。
私の全ては小十郎なんだ・・・。


小十郎は私の背に腕を回すと「大丈夫ですよ、小十郎は梵天丸様のことを嫌いになったりはしません」そう囁いてくれた。


「嫌いになっていないか?」

恐る恐る聞くと小十郎は首を横に振った

「たとえ梵天丸様が嫌いになれと仰っても小十郎は梵天丸様を嫌いにはなりませんよ」

と小十郎は嬉しい言葉を言ってくれた。

「そうか・・よかった。」

私は安心して肩を落とした。
そんな私の背中を小十郎はぽんぽんとなだめる様に優しく叩く。

「それではお互いに気配りが足りなかった事にしましょう。
梵天丸様も今度は勝手に走らないで下さいね」

「分かった」

私は笑顔で小十郎に答えた。
すると小十郎も眉間の皺が取れていつもの笑顔に戻った。





prev next

bkm

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -