36、甘いものに甘いものが混ざる。
ぱちり。
私は目が覚めた。隣を見ると小十郎が支度をしていたので私は目線を外した。
そんな私に気付いた小十郎は、私に優しく微笑みながら「おはようございます、梵天丸様」と言ってくれた。
私も小さな声で「おはよう」と呟く。
寝起きという事もあり頭がはっきりとしない。


私は上半身を起き上がらせると小十郎に両腕を広げた。
小十郎は当然と言うように、私を抱きかかえ私を部屋まで運んでくれる。
小十郎の部屋で初めて寝たときから私は毎日小十郎の部屋で寝ている。
小十郎に迷惑だと知っていても、最初に感じた安心感と今までに無い安眠が忘れられなくて今に至る。

運ばれている途中にも私は小十郎の腕の中で眠ってしまいそうな安心感を小十郎はくれる。
小十郎の匂いに包まれるとどうしようもなく甘えたくなってしまう。
私は小十郎の腕の中で、小十郎の逞しい胸板に頭をぐりぐりと押し付けた。
すると小十郎はくすぐったそうに体をよじらせる。その反応が面白くて私は何回も何回もする。
それに、こうするとより一層小十郎の匂いが強くなる。

ああ、小十郎が好きだ、大好きだ!私は叫びたい思いを必死に押しとどめた。
部屋に着くと小十郎は腰を下ろした。私は離れたくなくて小十郎にしがみついた。
「梵天丸様お部屋に着きましたよ」
耳元で囁かれる小十郎の心地よい声。


「・・・わかった」


私はそう言ってそっけないフリをした。
小十郎から離れると小十郎の体温に慣れてしまった私の体が寂しくて寒くて悲しいと言っている。
本当はずっと小十郎に触れていたい。
けど、そうとは言えないから黙ったまま。寂しい気持ちだけが溜まる。

着替えを済ませると、私はいそいで小十郎に抱きついた。
小十郎はそんな私を笑顔で迎えてくれる。小十郎の腕に吸い込まれるように私は小十郎の腕の中にすっぽり納まった。

私を包み込む腕が、私の頭を撫でる手が、私を呼ぶ声が、私を受け入れてくれる小十郎が好き。
天邪鬼な私はそんなこと言えない。

しばらく経つと小十郎は朝餉を作るため暫く離れる。その時間が私は凄く長く感じられる。
朝餉が運ばれるとその食べてる間もはやく食べ終わり小十郎に触れたくて体がうずうずする。
やっと食べ終わり、何もする事が無くなって私はやっと再び小十郎に触れられる。

「梵天丸様は甘えん坊になってしまいましたね」

そう言う小十郎の声が優しく笑う。

「違う!寒いだけだ」

私は毎回こうして言い訳をしている。毎日毎日、あまり寒くない日でも言うから小十郎にはきっとばれてるね、けどそれでいいんだ。
小十郎の腕にすっぽりと収まって、私は本を読んだ。


読んでいるとふと私は急に、本当に急に甘いものが食べたくなった。
別にそこまで食べたい、っては思わなかったんだけど、なんだか、久しぶりに甘いものが食べたい。


「小十郎、甘いものが食べたい」

「はい?」

私のいきなりの甘いもの食べたい発言で小十郎は暫く私がなにを言ったのかわからなかったようでぴたっと固まってしまった。
固まった後、「ああ、甘味ですね、すぐに用意致します!」と慌てたように小十郎は言って私から離れた。

小十郎から離れた事は嫌だったけど、甘いものが食べられるならそれぐらい我慢しよう、と思った。


甘味を用意するといって小十郎はなかなか来なかった。
「遅いな、小十郎・・・。」
私は何度目かわからない呟きと溜息をついた。
甘味を買ってきているのだろうか?すぐに見つからなくて色々探し回っているとか・・・。そうだとしたら申し訳ないな。


小十郎が私の部屋に戻ってきたのはそれからまたしばらく経った後だった。
私は待ちくたびれ寝ているところを小十郎に起こされた。

「梵天丸様、団子を持ってきました」

そう言う小十郎の顔は満面の笑みだった。
待ちつかれて罪悪感から怒りに変わっていた私の感情は、小十郎の笑顔をみるとすーーっとひいていった。

団子。小十郎の手にはたしかにそのその甘味があった。
しかし、その甘味は見た目が・・・その、お世辞にも良いとは言えない。

もしかして。


「これ、小十郎が作ったのか?」

「はい、小十郎が心を込めて梵天丸様のために作らせていただきました」


やっぱり。私は団子のその姿と小十郎が遅かった事に一人納得した。

小十郎はやはり見た目が悪い事が気になるのか、それとも私が要らないと言ったらどうしようと思っているのか、顔が不安げに曇る。


そんな小十郎を横目に私は小十郎のつくった団子をぱくりと一口食べた。
口の中に広がるみたらしの味と団子の食感。


「・・・美味い」


ぼそり、私は呟いた。


「本当でございますか?」

「俺が嘘をつかないのはお前が一番知っていると思ったが?」

私がそう言うと小十郎は頭を下げて「有難う御座います」と声を張り上げた。
顔を上げるとさっきまでの不安げな顔はどこへいったのやら
いつもの小十郎の笑顔に変わっていた。

小十郎の団子は美味しかった。前の世界で食べた団子と今の団子、どちらが美味しいと聞かれたら大体の人は前の世界の団子というだろう
だけど私には小十郎の団子の方が前の世界で食べた団子よりも何倍も美味しかった。
小十郎が私のためだけにつくった団子。
そう思うと美味しい団子がより一層美味しく感じられる。

一口一口食べていくといつの間にか団子は無くなっていた。
お腹いっぱいになった私に嬉しそうに微笑む小十郎。

「梵天丸様口にみたらしが付いておりますよ」

くすり。と笑い小十郎が私の口元に付いたみたらしを人差し指で取り自分の口に運ぶ。

その思いがけない行動に私の顔は赤くなってしまった。

小十郎はまるで何事も無かったように私に顔を向ける。
いや、そもそもこの行動は特になんてことはない事なのかもしれない
そんな些細な事で一喜一憂している自分が恥ずかしいと思った。

「また、団子つくってくれるか?」

私がそう聞くと、小十郎は考えるよりも先にというように「勿論です」と嬉しそうに言う。

その答えに私はまた嬉しくなった。





prev next

bkm

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -