ふっと目が覚めた。小十郎がいなかった。さっきまでいたのに。
私は小十郎が居なくて寂しくて小十郎を呼んだ。
するとすぐに小十郎の足音が聞こえてきて小十郎が来てくれた。
私は小十郎に手を伸ばした。小十郎はしゃがみこんで私の背中に腕を伸ばす。
私は小十郎の顔に触れないように首に腕を回した。
ああよかった。小十郎だ小十郎が居る。私は安心して小十郎に体を預けた。
私の気持ちを伝えたからかずいぶんと体が楽になったものだ。
小十郎。小十郎の匂いに包まれるとくらくらする。
私は小十郎から体を離して小十郎を見たけど、なんだか照れくさいから顔を逸らした。
小十郎は私の頬に手をあてて私の顔を覗き込むようにしてみる。
私は近くで顔を見られるのが恥ずかしかったからさらに横を見たけど
小十郎が両手で私の顔を覆うようにしたから私と小十郎は近い距離で正面から見詰め合った。
小十郎の顔が目が髪が近くにある。
あと、小十郎の声が聞きたい。はやく小十郎の傷治んないかな。
私はそんな事を考えながら小十郎の顔の包帯を見た。
包帯があったら小十郎の顔が半分しか見えない。
小十郎は私の額に唇を落とすと頬から手を離した。
頬と額には小十郎の体温が残っていて温かかった。
なんだかむず痒くってもぞもぞする。
小十郎はそのまま私の髪を手櫛で整え始め私はそのまま大人しくしていた。
静かな部屋に髪を弄る音だけが響く。小十郎の手が私に触れているだけで嬉しい。
私は小十郎に寄りかかった。小十郎は私の髪を整え終え私の頭をゆっくりと撫でた。
そして私は大好きな小十郎の匂いに包まれながら夢の中へと意識を落とした。
小十郎の傷が直ったのはそれからしばらく経った後だった。
私と小十郎と医者の三人しか居ない小十郎の部屋で医者が小十郎の包帯を解いていく。
やっと声を出せるのかと私は嬉しくなった。
私は小十郎から少し離れたところに座っていた。
包帯が外された小十郎の頬には傷が残ってしまった。その傷は私は前の世界でたくさん見た小十郎の顔にあった傷そのものだった。
残ってしまったのは悲しいが、小十郎はこの傷が付く運命だったのかもしれない。
私の右目がなくなるのと一緒で。
「もう痛くないですね」
医者が笑顔で小十郎に聞いた。
小十郎は無表情で頷いた。
「話しても大丈夫ですよ」
医者が不思議そうな顔をしながらも笑顔で小十郎に言った。
それにまたもや小十郎は無言無表情で頷いた。
小十郎は少し離れていた私に近づいてきた。
座っている私と目線があうように小十郎も座った。
「梵天丸様」
私の名前を言った時小十郎の顔が笑顔になった。
「小十郎」
私も同じく小十郎の名前を呼んだ
久しぶりに聞いた小十郎の声は私の名前で久しぶりに見た小十郎の笑顔は私だけの笑顔だった。
小十郎はくるりと医者に振り向いて笑顔で「有難う御座いました」と頭を下げた。
医者は「いやいや」等と言って笑顔で部屋を出て行った。
「梵天丸様」
「なんだ?」
「・・・いえ、すみません。こんなにも話すことが嬉しいとは思ってもいませんでしたから・・・・。
なんだか梵天丸様の名前を言いたくてしょうがないのです」
と笑顔で話す小十郎に私は恥ずかしそうに笑った。
今までずっと笑顔を作れなかった小十郎はその分を取り戻すかのような笑顔だ。
眩しくて優しい小十郎の笑顔。その笑顔で私の額に唇を落とした。
私はお返しと言うように小十郎の傷に唇を落とした。
唇を離すと目を丸くして驚く小十郎の顔がそこにあった。
「あ・・・あれだ!俺を守って出来た傷だから・・その・・・お礼だ!!」
と、私は急に恥ずかしくなってきてしどろもどろになって小十郎に話す。
かぁーーっと顔が熱くなってきた。
時間が経てば経つほど恥ずかしくなってくる。なんだか急に体が動いたんだよ!!と自分に言い訳するように言い聞かせた。
小十郎を見ると、くしゃと顔を歪ませた。
「有難う御座います。小十郎は幸せ者ですな・・」
そう言う小十郎の顔はこっちまで笑顔になりそうな笑顔だった。