32、ぼやける視界の中で。
私は一人部屋の中で布団を頭から被り泣いていた。
私が傷つく代わりに誰かだ傷つくのはもう嫌なのに。何でこんな事になるのだろう・・・。
小十郎は大丈夫かな?大丈夫だよね。凄い血が流れてたけど大丈夫だよね。
ごめんね小十郎。小十郎が傷つく事は無かったのにね。私のせいだ。


暗い部屋の隅でそうする梵天丸の姿はまるで小十郎と出会う前のような姿だった。
部屋は梵天丸がめちゃくちゃにして物が散乱していて見るも無残な部屋になっている


ごめんなさい小十郎。


廊下からぺたりぺたりと、誰かがやってくる足音が聞こえてくる。
私はその足音の人物は解っているから身構えたりはしなかった。
障子が開く。障子から顔を出したのは父上。父上はなんだか顔色が悪い。今回の事件のせいなのか解らないが。


「梵天丸小十郎が目を覚ました」


ぴくり父上に横顔を見せていた私だが「小十郎」と言う単語を聞いて父上の方を見た


「顔色はだんだんと戻りつつある、傷口は・・・深かったから跡が残っちまうかもしれねぇが命に別状は無い」

よかったな。父上が付け足すように言った。


全然よくない。私はそう言おうとする口をぎゅっと結んだ。
よくない、よくないけど、小十郎に命の別状が無くてよかった。
私は心底安心した。


「・・・・・小十郎に会わないのか?」


ぽつり。と小さく囁くように言う父上。
私が何も言わないでいると父上が私に近づいてきた。
私は大して反応もせずただ父上の様子を見ていた。


「会わなくてもいいのか?」


少し言葉を変えてもう一度父上が私に問いかける。
父上は黙って私を見ていた。私は逃げ出したい空気の中どうすればいいのか考えていた。
会わなくてもいいのか?だって?



「・・・・・・会えるわけない」



私は喉の奥から搾り出すような声で言った。


「どうしてだ?」

父上は優しく私をなだめるように言うが、今度は私は首を左右に振っただけ。



「小十郎は梵天丸に会いたいって言ってたぜ?」


私は無言でうつむいて、着物をぎゅっと掴んだ。
「・・・・・・」

「小十郎はお前の事を待っているぞ」

「・・・・・・」

「会いたくないのか?」

私は首を小さく左右に振った。

「会いたいんだろう?」


ふわっと父上の手が私の頭を撫で、私の顔と自分の顔が正面に向かい合うように上げた



「・・・・・・・・・会いたい」


私は掠れる小さな声で言った。涙が頬を伝うのがわかる。


私がそう言うと父上は笑顔を見せた。優しい優しい笑顔を。
そうして父上は私を抱き寄せ、背中と頭に腕を回した。


「よく言ったな梵天丸」
そう言って父上は私の頭を撫で、背中を擦った。
私は父上の温かい腕の中で暫くの間泣いた。


私が落ち着くのを見計らって父上は私を小十郎の居る部屋へと案内した。
父上は案内をするだけするとその場を去ってしまった。私は一人部屋の前でどうしたらいいか考えている。


父上に中の者を追い出したから小十郎しか居ないと言われとりあえずは安心するが
どうやって中に入ればいいのかわからない。普通に中に入ればいいのか?
心臓の鼓動が速く動く。ああ解らない。


私は心を決め、小十郎の障子を開けた。
中に居た小十郎は私が外でうろうろしていたのをずっと前から気が付いていたらしい。
上半身を起こしいつ私が入ってくるのかを待っていた。


小十郎は顔に包帯を巻いていて見るだけでも痛々しい。その傷が私のせいで出来たものだと思うとこの場を逃げ出したくなる。


小十郎は私のほうに微笑んだが顔を動かすのが痛いのだろう眉間に皺を寄せて笑顔とは言えない表情だ。
顔の表情を作るだけでも辛いのだから話すのなんてもっと痛いのだろう。
小十郎の横には紙と筆が置かれていた。そこに要件を書いたりしたのだろう紙にはいくつか文字が書かれていた。


小十郎は紙と筆を取ると何かを書いて私に見せた。
紙に書かれていたのは『怪我など無いですか?』だった。

自分がそんな怪我してんのに人の心配してる場合じゃないだろ

「ない」

私は短く答えた。
そう言うと小十郎はまた笑顔を作ろうとしたのだろう。やっぱり笑顔とは言えない表情ができた。

小十郎は「はぁ」と息吐き出すとまた何か書き始めた


『笑顔が作れないというのは辛いですね』
そんなことが書かれていた。
小十郎にしては笑いを取ろうと思ったのだろうか?私にはただ辛いだけだった。



小十郎はすっと私の方に手を伸ばし私の頬に触れた。
私は素直に小十郎の手を受け入れた。小十郎の手が私の頬を撫でる。
さっきまで泣いていたから頬が少し濡れていて目が赤い。小十郎はそれを気になったのか、それとも自分の傷が痛むのか眉間に皺を寄せていた。


頬から手を離すと小十郎は私に近づき私を抱きしめた。
先ほど父上にも抱きしめられたのだが父上とはまた違う温かさが小十郎から感じる。
小十郎に包まれながら、小十郎のぬくもりを感じながら私は小十郎は生きていんだと強く思った。

もしかしたら、小十郎が私に必要以上に触れたりするのはそういうことかもしれない。
生きている事を実感するため。実感させるため。


私は小十郎の背中に腕を回した。するろ小十郎の腕の力が強まった。


「小十郎」

私は小十郎の腕の中で言った。
小十郎は腕の力を弱め、私の顔が見えるようにした。

小十郎の瞳が『なんですか梵天丸様』と言っているようだった。


私は小十郎の胸元に顔を埋め、震える声で言った。


「俺は・・・お前が傷つくのが怖いんだよ。・・・お前が俺のせいで死んじゃいそうで怖いんだよ。」
自分でもいきなりなにを言っているんだろうと思った。自然と口が動く。今言わなかったらあと言うチャンスが無いというように。


小十郎を見ると目を丸くして私を見ていた。何か言いたそうだったが傷が痛くて言えないのをもどかしそうにしている。
私はそんな小十郎を見ながら話し始めた


「お前は命に変えて俺を守ると言うが、頼むからもっと自分の命を大切にしろよ。
・・・・お前が居なくなったら・・・・・。」


また涙が出てきた。小十郎を見るとやはり眉間に皺を寄せこちらを見ていた。緊張で口の中が乾く。


「お前が居なくなったら・・・俺も死ぬぞ。
お前は俺の大事な大事な大事な、小十郎なんだから。
俺を死なせたくなかったら生きろ!!俺のために生きろ!!」


涙腺が壊れた。涙が零れる。泣きながら私は小十郎を睨みつけた。
ぼやける視界の中で小十郎の顔が歪んだ。ああ、痛いだろうそんな顔したら。

小十郎の瞳が濡れている。傷が痛いからだろうか?




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