(小十郎視点)
ぽつりぽつり。
雨の粒が葉に石に当たる音がしてきたと思ったら一気にざぁぁっと雨が降ってきた。
ああ降ってきたな。
俺はそんなことを考えながら外を見た。
俺の隣には布団ですやすやと眠る梵天丸様の姿があった。初めは俺が居るとなかなか寝てくれなかったのだが
しだいに俺が近くに居ても、平気で寝れるようになったのは俺が梵天丸様の近くに居るのが普通の事になったということなのだろうか?
それはそれで嬉しい。
梵天丸様の部屋で一人にやけ顔の男が気持ち悪い、と思ってもここに居るのは俺と梵天丸様だけ
別に誰に見られるわけでもないのでこの時間は表情を自然と表に出せる。
最初の頃と比べて体つきがしっかりしてきたと思うのは気のせいじゃないだろう。
最初は本当に骨と皮だけじゃないのか!?というほどにガリガリに痩せていたが
今では食べるものもしっかり食べ、だんだんと体に肉がついてきた。
しかし肉がついてきたといっても、梵天丸様と同じ年の子供に比べるとまだまだ痩せている。
これからも梵天丸様の食事には気を使わなければ・・・・。
俺は梵天丸様のやわらかい髪を優しく触れるか触れないかのあたりで触った。
起きてしまうのも怖かったし、何より起きていない時に触られるのは梵天丸様にとって嫌だろうと思ったからだ。
俺の命は全て梵天丸さまに捧げた。
俺の命は梵天様のもの。あの日を境に俺はそう思ってきた。梵天丸様が望むのならば何もかもしてあげようと思った。
しかし、そう思っているのは俺だけであって梵天丸様は俺の事邪魔な奴だと思っているだろう。
それでもいいと思った。梵天丸様の側に居られるのならば。
こんな小さな子供に俺は何でこんなに忠義を尽すのか、俺は乾いた声で小さく笑った。
可笑しい。本当に可笑しい。
子供には多すぎるほどの忠義を無理やり押し付けているだけではないか。
こんなのただの自己満足だ。
情けないな。
俺は自分で自分を嘲笑った。罵った。
「うっ・・・ん」
その時梵天丸様が寝返りをうった。
パタンと小さな音を立てて梵天丸様の手はたまたま近くの俺の手の上に重ねられた。
「・・・・っ」
小さな手が自分に重ねられている。
無意識だがとても嬉しかった。手から梵天丸様の体温が感じられる。
嗚呼、梵天丸様は生きている。俺はしみじみとそう感じた。
そうだ、なにもこんなに気持ちが暗くなるような事だけではないじゃないか。
この間梵天丸様から初めて「ありがとう」と言われた。
その事を思い出すだけでこんなにも心臓が熱くなる。
梵天丸様が少しでも俺の事を気にしている。見ている。
それだけで俺は心臓が締め付けられるほどまでに嬉しく感じらる。なんだ、嬉しくなる事はあるじゃないか。
だんだんと梵天丸様が自分に心を開いてきているのもわかるようになってきた。
こんなにも変化はあるじゃないか。
もうつまらない考えは無しだ。
俺は自分で自分を戒めた。
そして自分の小さな主を見つめた。
これからも宜しくお願いします。
外に目をやれば通り雨だったのか雨はもう止んで雲の隙間から明るい光が庭の植物を照らしていた。