25、心機一転!!・・・って口で言うのは簡単なんだよ。
口で言うほど簡単な事は無い。
いくら私が頑張ろうとしてもこれまでの生活がすぐに抜けるわけではないんだ。


考え方は元の私に戻ったが、体はまだ頭ほどに付いていかない


人が怖いのは変わらない。今でも人が居るだけで吐きそうになる。だけど、一人になるのは怖い。


私が小十郎にあの言葉を言われ変わろうとしたのは三日前の事だった。

私も小十郎に何とか自分が変わったところを見せたいとは思ったが、なかなか上手くいかない・・・。

小十郎へ言葉をかけようとすれば何故か悪態ばかり。
何かしようとすれば小十郎を傷付けてしまう。
何故小十郎にそんな態度をとってしまうんだろう・・・。
自分の考えとは裏腹に考えもしない行動ばかりが目立つ。
まるでこの体と考えが別々にあるように・・。


今、私の部屋には私しか居ない。小十郎は父上の手伝いで少しの間離れている。



一人の部屋は静寂がこの部屋を支配していた。
まるで、この部屋に何故居るんだ?そう問いかけられているようで私は嫌になり、部屋を飛び出した。


とにかく部屋から離れたかった。
小十郎の居ない部屋は怖い。私はそう思うようになってきた。


ふと、私はある場所で足を止めた。
物置だろうか?少し隙間の開いた戸から物がチラチラ見える。

恐る恐るその部屋に入ってみると、埃っぽくって、乾いた咳が出た。


辺りをキョロキョロと見渡しながら奥へ入って行くと、目の端の視界に光るものが入った。

なんだろうと近づいてみるとそれは簪や櫛だった。


「きれい・・。」


私は思わず簪を手にとってそれを眺めていた。
簪はいろんな色があった。朱、藍色、緑、琥珀色。
どれもこれも光に反射せずともきれいに輝いている。

何故こんなきれいな簪や櫛がこんな埃だらけの部屋に置かれているんだろう・・。

私は不思議に思ったが、気にとめはしなかった。


そういえば、最近忘れかけていたけど私女なんだよね・・・・。本当はこういう簪つけても良いんだよね・・・・。


小十郎にも言っていない秘密。今は私と父上だけしか知らない秘密。


もし私が女だって小十郎に言ったら、小十郎どんな反応するかな?
そんなことを考えて簪を元に戻し、部屋を後にした。


部屋を出て埃っぽくない空気を肺に送り込む。と、またケヒョン、ケヒョンと乾いた咳が出た。


私一人人気の無い廊下を歩く。
城の中は広く、今までに何回迷子になりかけた事か・・・。


・・・一回だけだな、迷子になったのは。
「あの時」だけ。

楽しかった事を思い出し私は少し涙が出た。


そろそろ部屋に戻ろうか。

人気の無い廊下をだいぶ歩いたところでそう考えた。
戻って私が居なかったら小十郎が心配するに違いない。


私は少し足を早めて自分の部屋へと向かう。


しかし、その焦りがよくなかった。
いくら人気の無い廊下だといっても人は通る。

一番気をつけていたのに。

焦って板から気が付かなかった。目の前を通る人に。


私は人通りの少ない廊下を通るために人が良く通る廊下を使用している。
そこを通らないと私が行きたい廊下に行けないからね。


で、私はその廊下に来ていた。
いつも通っているからつい癖でそのまま通ってしまった。


私は目の前を歩いていた人にぶつかった。それが普通の人にただぶつかっただけだったら良かった

私のぶつかった人は最悪なことにあの義姫だった。

女中に囲まれている義姫の顔は、ぶつかったのが私だと判り醜く顔を歪め私を睨んだ。

私も負けじと立ち上がり睨み返す。

女中達はどうしたら良いかわからずにオロオロとしている。


私が睨み返すと義姫はより一層眉間の皺を深くした。
そして口を開き


「わらわに触るな化け物!!」


そう言って私の右頬を思いっきり打った。
その反動で私の体はどうすることも出来なく軽く中を舞い隣にあった部屋の障子にぶつかったが
障子までもが壊れ私の体は部屋の中に障子と同時に入った。



体をどうにか動かそうとするが体に力が入らない。
視界の隅に映る義姫の顔は良い気味だと言うように私を見ていた。

ふと、目の前の障子が赤く染まっていく。どうやら私は障子で怪我をしたようだ。

義姫の足音がする。私のほうに近づいてくる。

こっちにくんなバーカ。そう言いたかったが声が出ない。


その時義姫の足音のほかに別な足音が聞こえてきた。
その足音は凄い速さでこちらに向かっているようだ


誰かな?


しかし、あまり考える事が出来なくなった私の頭ではそんな事どうでも良かった。


そしてとうとう、その足音は私たちの近くまで来た。


私は目だけを動かしてその方へ目をやる。

「!?」


目の前に居たのは小十郎だった。
驚いた。まさか小十郎だとは思ってもいなかった。本当、小十郎は神出鬼没だな。そんなことを思った。

義姫と小十郎が向き合っている。
義姫は怒った顔で小十郎を見ていた、だが小十郎はそんな顔の義姫以上に恐ろしい形相をして義姫を見ていた。


そして、大きく足音を出しながら義姫に近づくと、小十郎は義姫の右頬を打った、なんて可愛いもんじゃない。殴った。


義姫は状況がわかっていなかったのか、まさかそんな事をされるとは思っていなかったのか
抵抗することなく殴られた。


唖然とする女中達。
義姫を殴っても怒りがこらえきれない小十郎。


「わらわに何をする!!貴様殺されたいのか!!!!!」


と、キンキンするような声を出して汚い言葉を言い、小十郎に殴りかかりそうな義姫。

ここで女中達は、ハッとし義姫をなだめようとするが、義姫は女中達の言葉は耳に入っていないだろう。



小十郎はそんな義姫はまるで見えていないかのように無視し、私のほうへ近づいてきた。
小十郎の顔は先ほどの義姫に向けていた恐ろしい顔ではなく
いつも私に向けている優しい顔になっていた。


「梵天丸様・・・・」


そう言って顔を歪めた。多分私が怪我をしていたからだろう。
小十郎は申し訳なさそうに私を見た。


「申し訳ございません」


目を伏せる小十郎。別に小十郎は悪くないのに・・・・。
私は罪悪感に襲われた。



遠くの方で義姫の声が聞こえた。
ちらりと見れば、父上も来ていた。最近はお風呂も私一人で入っており父上には会っていなかった。

久しぶりに見る父上の姿。懐かしくて涙が出そうになった。
父上は私のほうをちらりと見て寂しそうに微笑んでから、義姫を連れて行った。


そしてここに居るのは私と小十郎だけになった。


小十郎は懐から布を取り出し私の傷口に当てた。いきなりきた痛みに私は顔を歪めた。


すると小十郎は悲しい顔になった。


そのまま小十郎は私の足を頭を持ち抱きかかえようとした。
私は小十郎の着物が汚れるからそんなことして欲しくなかった。
左手で小十郎の胸を押した。

しかし小十郎は私の抵抗はお構いなしに私を深く抱きかかえた。


目の前には小十郎の顔が広がる。

そして小十郎は泣きそうな顔になって私を自分の胸へと押しやった。
私の傷に触れないように、傷がさらに悪化しないように注意しながら。優しく。


私は酷く嬉しかった。
小十郎が義姫にとってくれた行動。
こうして愛しいものを抱きしめるかのように抱きしめてくれている事。


ありがとう。



小十郎に聞こえるか聞こえないかの大きさの声で私は言った。



小十郎の着物には私の血と私の涙が染み込んだ。






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