(小十郎視点)
まだ小さい梵天丸様から発せられた言葉
「生まれてきてごめんなさい」
梵天丸様に一体何があったのだというのだろうか?
俺は何もできずに梵天丸様を抱いていた。
この小さな体で一体何を伝えようとしているのだろうか?
この小さな体の中にどのような感情が眠っているのだろうか?
わからない。
ただ、その言葉はとても重かった。
何故この梵天丸という子供はこんなにも重みのある言葉を言えるのだろうか。
九歳児がこんな言葉をいえるのだろうか?
きちんと言葉としても意味を知っている。一番自分の気持ちを伝えようと選んだ言葉のように聞こえた。
俺は急に怖くなった。
この人(梵天丸)は何を知っているんだろうか?
生きたのなんて、生を受けてからまだ九年しかたっていない。だが、何かを知っている。
俺は梵天丸様よりも十年も長く生きている。
俺が九歳の時はこんな感じではなかった。そもそも九歳児というのはもう少し子供っぽいところがあって我がままでいて
無邪気に遊び、自分中心の考え方をするのではなかったのだろうか?
俺は深く考えすぎて頭が痛くなった。ズキズキと痛む頭を無視して梵天丸の頭を抱え自分の胸に押し付けた。
「お願いです、何故貴方様はそんなにも自分を傷つけているのですか?何を恐れているのですか?
小十郎は貴方様の味方です。貴方様をこの命に変えても守ってみせます。貴方様を傷つけません!!それでは駄目なんですか?何が足りないんですか!?」
俺は感情に任せて梵天丸様に言った。
梵天丸様はどんな反応をするのだろうか・・・。
梵天丸様の顔を肩越しに見る。
梵天丸様は、首に力を入れ、ぐぐっと動かして俺を見た。
俺を見るその瞳は涙で濡れていてた。驚きとなんともいえない感情が俺を襲う。
目を丸くして梵天丸様を見た。と言うよりも、俺は梵天丸様の瞳から目が放せなかった。
そして、乾燥してカサカサになった唇で梵天丸様は言った。
「お前とは考えが逆みたいだ」
梵天丸様が言った言葉はまたしても俺を悩ませた。
わからない。何が逆だと言うのだ?考え・・・・・。一体どういった考えが逆だと言うのだ!?
「それは、どういった考えが逆なのですか?」
この機を逃したらこの答え一生で無い気がした。俺は早口で梵天丸様に言った。
梵天丸様は眉間に皺を寄せ喉をひゅうひゅうならしながら声を絞り出す。
すみません梵天丸様。お辛いでしょう、しかし子の小十郎の我がまま今日だけお許しください。
「お前が俺を傷つけないようにと頑張る。だが、俺は・・・・・」
「俺は・・・・」のところで梵天丸様は言うのを止めてしまった。
口をパクパクと動かしまるで言おうか言わないか迷っているようだ。
そして、唇を固く結ぶと俯いてしまった。
俺は・・・・・。そこで止まってしまった言葉。梵天丸様は何が言いたかったのだろうか。
その言葉がきっと梵天丸様の答えなのだろうがなかなか答えと言うのは出しづらいものだ。
梵天丸様は答えを出して良いのか迷っておらっしゃる。
なんとしてもその答えを梵天丸様の口から聞きたいと思った。しかし、今日は聞けないだろう。そう悟った。
だが、答えを聞くのはそう遠くは無いだろう。
「・・・・・・・・」
無言の梵天丸様。
「今日は言わなくても良いです。しかし、心の準備ができ次第教えてください。
いつでも待っております、梵天丸様が自ら自分の答えを言うのを・・・。」
俺はそれだけ言うと梵天丸様を布団の上に優しく横にして、さっき持ってきた昼餉を梵天丸様の近くに置いた。
「この昼餉はすべて小十郎が作らせていただきました。お口に合うかどうかわかりませんが食べていただきたく思います」
横になって俺を見る梵天丸様に頭を下げ。
戸に向かって歩いた。
「すみません梵天丸様、少しお側を離れます。昼餉を食べてどうか体に少しでも栄養を送って元気になって下さい」
それと。
俺は言葉を付け足した。
「梵天丸様は苦しんでおりますが小十郎も苦しいのです。
梵天丸様の苦しみはこの小十郎の苦しみなのです。
梵天丸様の幸せは小十郎の幸せなのです。
それがこの国の幸せだと思っております。
どうか幸せそうな笑顔を小十郎に、皆に見せてください」
そう言って俺は梵天丸様の部屋を離れた。
さて、これからどうやって梵天丸様の心を開いていこう・・・。