22、許してもらえないごめんなさい。
小十郎が私に仕えるようになってから三ヶ月が過ぎた。三ヶ月もの間小十郎は私の側をなかなか離れなかった。
小十郎はやっぱり芯が通っていた。一度自分で決めた事は変えない。
しつこく私に笑顔で話しかけて話しかけて話しかけた。
その度に私は無表情で無視して無視して無視した。


それでも話しかけてくる小十郎。

だが、今日小十郎は珍しくも私の側を離れた。


小十郎の居なくなった部屋で私は何をするわけでもなく空を見ていた。
鳥が飛んでいる。

ただ、なんとなく見ていただけ。得になんてことは無い。
私はため息を一つついた。
そうする事によって肩の力が抜けるのがわかった。


ふと手を見ると手が震えていた。

たぶん自分でも気が付かないうちに怖がってたんだと思う。自分が。

私はあまり力の入らない体で廊下に出た。
人に見つからないように、場所を選びながら。



私は人気の無い道だったら誰よりも知っているつもりだ。
この一年、できるだけ人に会わないようにしてきたから人気の無い場所という場所を探し回った



そして見つけた人気の少ない廊下。部屋。私だけという空間。


私は一人でそこに向かう。


壁を支えにして歩く姿はなんと滑稽な。そうとは思ってもこうしなければ思うように歩けない



ヒタヒタと自分の足音が聞こえる。



薄暗い空間。
静寂。



ピタリ。
私は歩く足を止めた。



人の気配がする。


私の居るところは廊下がちょうど曲がっているところ。
だから、私やむこうは姿が見えない。
向こうは私に気が付いていないようだが私は気付いてしまった。


人の気配なんてめったにないこと。一体誰がこんなところに来るというのだろう。


疑問に思ったが私は気にしないようにした。気にしたらまた何か起こりそうな気がしたから。


私は歩く足を反対に向けようとしたその時



「また死んだか・・・・。」



と、男の人の独特の低い声でそう言った。



また、死んだ・・・・?


一体誰が?



私はそこに居てはいけないというのはわかっているのだが、体が動かなかった。


誰が?いつ?何で?誰のせいで?

死んだの?



疑問が浮かんでくる。


また、誰かがぼそぼそっと話す。





「義姫様もよくも飽きずにやるよな」
「・・本当に」
「一体これで何人が亡くなったと思うんだ!!」
「俺もう毒見なんてやりたくねぇよ!」
「あいつ、良い奴だったのに・・・」




話す人たちは色々な声のトーンで話している。悲しい人は低いトーン。怒っている人は声が力強い。
その他にも、弱弱しい声、ヒステリック気味になっている声。涙声。



聞きたくないのに耳に入ってしまう。




「義姫様が毒を入れなければこんな事にはならなかったのにな」
「ああ、しかし義姫様も変わったよな」
「あれだろ?梵天丸様が原因なんだろ?」
「そうみたいだな」



頭の中で警報がなっている。今すぐここから立ち去らなければ。
聞きたくない言葉を聞いてしまう。


私は聞かないように部屋に戻ろうとした。が、聞こえてしまったものは仕方が無いんだろうか?聞いてしまった。









「梵天丸様なんて居なければ良かった」









雷に打たれたような感覚に襲われた。


涙が溢れ出た。






私はその人たちに気付かれないようにできるだけ早足でその場を離れ、すぐさま部屋に戻った。襖も開けっ放しで。




「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」



布団を被って私は思いっきり叫んだ。




なんで、なんで、なんで?私ちゃんとみんなの事傷つかないように避けてるよ?
私にかかわると嫌な事しかないから私避けてたよ!?それなのになんで死んじゃうの?
なんで、みんなが死ななきゃいけないの?
みんなには罪は無いんだから、傷付けば良いのは私だけなんだから私だけにしてよ!


ごめんなさい、ごめんなさい。


それだけじゃない。一番聞きたくない言葉を聞いてしまった。
私死んじゃった方が良いのかな?誰にも必要とされないなんて・・・。
もういっそのこと義姫の毒でも食べて死のうかな。



だけど、死にたくない。まだやる事がある。どうせ私は人間だ。

ごめんなさい、ごめんなさい。許してくれないのはわかってます、だけど私の気休めです。言わせてくださいごめんなさい。





「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



布団の中で私はずっと呟き続けた。

私のせいで死んでしまってごめんなさい。

まだ生きたいとか言ってごめんなさい。

偉そうな事言ってごめんなさい。

実は何一つわかっていなくてごめんなさい。






けど、どうして誰も私の気持ちをわかってくれないのかな?





ガタン。
何か物音がした。なんだろう。



「梵天丸様!?」


ガタン、また音がした。こっちの音は小十郎が戸に手をかけた音だろう。


私は小十郎の声が聞こえても言うのをやめなかった。


どたどたと足音がして布団がはがされ光が全身に当たる。眩しい。


横になって自分を抱えるように寝ていた私を小十郎が抱きかかえた。

肩に触れている小十郎の手は布越しにでもわかるくらい熱く、そして少し痛いくらいに力が入っていた。



「梵天丸様何があったんですか?何故謝っているんです?小十郎に話して下さい!」



うつろになっている私の耳に入ってくる小十郎の声、目に入ってくる必死な小十郎の姿。


小十郎は私を心配している。心配して私を抱きかかえている。



嬉しい。



・・・・・私は最低な奴だ。こんな時までになって嬉しいとか思ってるんだから。馬鹿じゃん馬鹿じゃん馬鹿じゃん。


本当にごめんなさい。



「ごめんなさい」



私なんかが居て



「ごめんなさい」



私は小十郎の言葉を無視した。そして良い続けた。小十郎はどうしたら良いかわからなく私を見つめていた。


もう私の声は耳を澄まして聞こえるかどうかというほどになっていた
それでも聞こえるのはこの部屋が静か過ぎるからだろう



「梵天丸様、梵天丸様は何も謝る必要なんて無いのですよ、だから・・・もうおやめになってください!お願いです」




私の視界いっぱいに小十郎が映る。

小十郎の顔だ。
小十郎の眉間の皺。かっこいいな。
小十郎の瞳。きれいだな。
小十郎の肌。羨ましい。
小十郎、小十郎、小十郎、小十郎、小十郎、小十郎、小十郎、小十郎、小十郎、小十郎。





「生まれてきてごめんなさい」





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