私の目の前、と言っても離れたところだが・・・・。そこには会いたかったけど会いたくなかった小十郎がいた。
小十郎はすくっと立ち上がるとゆっくりと私に近づいてきた。
私の後ろは壁。後ろに行く事はできない。
小十郎が一歩一歩私に近づくごとに足音が大きくなっていく。
「・・っ、やめろ!!こっちに来るな!!!」
私は声を絞り出すように言った。最近あまり言葉を発していなかったせいで声がかすれる。
小十郎はそんな私の言葉をまるで聞いていないかのように近づいてくる。
「来るなって言ってんだろうが!!」
私は汚い言葉で小十郎を挑発しようとしたが駄目だった。
とうとう小十郎が私のすぐ近くに来た。私は動きたくても体に力が入らなくて思うように動けない。
そんな体でも私は小十郎から離れるために立ち上がり力の入らない体で逃げ出そうとする。
しかし小十郎は私の左手をがしっと掴み逃げられないようにした。
「どうか逃げないでください」
ここで始めて小十郎は言葉を発した。だが私は小十郎の言葉よりも私を掴んでいる小十郎の手の方に意識を取られていた。
「放せっ!!」
そう言って腕を振り回すが小十郎は放してくれない。
「梵天丸様お願いです。この小十郎の言葉を聞いてほしいのです」
と小十郎は言った。
小十郎の言葉?・・昔の私だったら馬鹿みたいに素直におとなしく聞いていたが今は違う。
小十郎の言葉なんて聞きたくない。それ以前に小十郎にも会いたくない。
何故そんなことを思うのか。それは、小十郎の声を聞くと、小十郎を見ると私はとても幸せな気持ちになれる。
だけど、そうなると死んでしまった二人に申し訳ない。そう思うまでに私の頭の中は二人でいっぱいだった。
それに、小十郎を見るとまだこっちに来てない頃の自分を思い出すから嫌なんだ。
前は良かったな。前の知り合い、友達、家族そのほかたくさんの思い出が小十郎によって思い出される。
この世界で今一番気持ちが沈んでいる時にそんな思い出を思い出したら私はこの世界を恨むし、耐えられない。
「お前の言葉など聞きたくない!!」
私はこっちに来て始めて小十郎のことを『お前』と呼んだ。
もうこうなったらとことん小十郎に嫌われて嫌われて嫌われて、みんなに嫌われてから義姫を殺しこの世界を絶とう。そう思った。
「私は梵天丸様の父上、輝宗様の命によって梵天丸様に今日からお仕えする事になりました。」
「お前などいらん!!俺の前から消えうせろ!!」
「それはできません。私は梵天丸様にお仕えする身、梵天丸様の目の前から消えてしまってはお仕えする事ができません」
と、もっともだと思う意見を小十郎は言った。
「煩い!!さっきから言ってるだろうがお前などいらん!!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!」
そう言いながら私は私を掴んでいる小十郎の手を殴ったり顔を殴ったり爪で引っかいたりした。
小十郎は何も言わず私の攻撃に耐えた。私はそんな小十郎を見て泣きそうになった。
大好きなんだよ?私小十郎大好きなんだよ?だけどね、小十郎が私に近づいてくるたびに小十郎のその存在が消えてしまいそうなのが怖いんだ。
義姫に小十郎の命をとられそうで怖いんだよ。
私の事なんてどうでも良い、小十郎とみんなが平気ならそれで良いから・・・・。
だから誰も私にかまわないでよ・・・。
そんな思いで私はいたのに、何故私は小十郎を傷つけているの?
早く私を嫌いになってよ!!
私は殴っても私の手を放そうとしない小十郎の腕をおもいっきり噛んだ。
小十郎の眉間の皺がより一層深く刻まれる
さすがの小十郎も腕を放すだろう・・・・。私はそう思っていた。
しかし小十郎は腕を掴んでいないほうの腕で私を包み込むように腕を回し優しく頭を撫でた
「っ!?」
私は予想外の出来事で思わず噛んでいた口を放してしまった。
見上げた小十郎の顔はとても穏やかな顔だった。
ありえない、ありえない。なんで、なんで?何でそんな顔ができるの??
なんで?そう聞こうとした瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
あまり動いていない上に、食事もあまりとらなかった私の体に、今回の行動は体に負担があったようだ。
自分でも気が付かないうちに体力を全て使い果たしてしまい気絶?失神?貧血?どれだろう・・・・まぁ、そのいずれか、または別な何かによって私は倒れてしまったようだ。
暗い世界で遠くの方で小十郎の声がした。・・・・・・気がした。