15、わかってたけどわからなかった。
熱い、痛い、苦しい、気持ち悪い。


いろんな感情が、いろんなものが、私の頭と体を蝕んでいった。


疱瘡にかかり食べ物も喉を通らず、練れない毎日が続く。

「痛い、痛い」と私は何度も叫んでったような気がする。

「苦しい、苦しい」と私は何度も訴えていたような気がする。


全ては無意識。


熱が下がったと思ったら、また熱。

頭は痛いし、腰も痛いし、体のどこもかしこも痛いところだらけだった。


医者を呼んで一生懸命治そうとしているみんな。

しかし、そう簡単に治るものではない。

朝昼晩と城の中の人々は私の心配をした。


病気の時父上には会えなかったけど心配して眠れずに毎日を過ごしているとの事・・・。


義姫も父上と同様・・・・。
しかし、私はこれからの事がわかるから義姫なんてどうでもいい。

小十郎も私の心配をしてくれてるみたいだ。

なんだか嬉しいな。


死亡する確率は決して少なくない疱瘡。
ましてや、医療の知識も乏しいこの世界、死ぬかもしれないと言う気持ちが誰の頭にも横切っただろう。


五歳の年に疱瘡はきつい。

私は小さい体で必死に苦しみに耐える。



病気になって、嬉しかったのは
小萩と千代が感染するかもしれないのにという状況でも自分の心配よりも私の心配をしてくれた事。


私の手を握り汗を拭き一生懸命に話しかけてくれる二人。

涙で滲む世界の中で二人の顔だけははっきりと見えた。


「頑張ってください梵天丸様」「私たちがついています!」と言ってくれた二人の言葉がどれほど嬉しか
った事か。


私は二人に頑張って笑顔を向けた。


そしたら、二人は泣きそうな顔になった。

そんな顔してほしくないのに・・・・・。


「そんなかおしないで?」

私は声を絞り出して二人に話しかけた。

二人は、私の言葉を聞いて笑顔をつくろうとしたけど無理みたい。
笑顔になろうとすると、二人の目からは涙があふれ目はとても悲しそう・・・・。


「ごめんね」


私は小さくそう呟いた。



長い疱瘡との戦い。

その期間はどの時よりも長く感じられた。


私の体は日に日に衰え、目の下には隈ができ、目は虚ろ。

とても、小十郎には見せられない姿。


それでも、痛み、苦しみに耐え、ようやく疱瘡は治る兆しを見せた。

痛みはだんだんと引き、前よりは楽になった。

寝られるようになったし、少しではあるが食べられるようにもなってきた。


何も考えることができなかった私の脳にも、考えるということができるようになった。


城の人たちは安堵の息をこぼした。


日に日に消える痛みに私は嬉しくなった、と同時に右目を思い出した。

まだ私には試練が残っていた。

それは右目を切り離すという事。



それさえ終わればあとは、戦国武将たち(主に小十郎と)素敵な生活が始まる。
全てが薔薇色・・・・・。





・・・・・一体、疱瘡にかかってどれだけの時間が過ぎたのだろうか

とても長かったような気がする・・・。

長すぎた。



私は治りかけの顔を触った。
右目は無い・・・・・・・。


右目が無い・・・・・どうやら、これだけは歴史と違ったようだ。

私の右目は政宗とは違い腐って私の瞼から落ちたようだ・・・・・。


よかった。本当に良かった!
なんだか、ずっとあった胸のつっかえが取れたようだ。


今日はあの有名なシーン。

義姫に会って嫌われるシーンだ。


政宗はすごく悲しんだと思うよ。
だって、大好きなお母さんにそんなこと言われたんだから。


だけど私は大丈夫。
義姫嫌いだし。嫌いな奴に嫌いだと言われてなんとも無い。


私は布団の中でそんなことを考えていた。

私の周りにはたくさんの人がいる。
千代、小萩、そのほかの女中さん、父上の家臣・・・・など。

よくわかんないけどいっぱい!


義姫に会う前に父上に会えた。


私はそれこそ心の準備ができてなくて驚いた。
思わず布団から上半身を起き上がらせた。

父上は前に見たときよりも痩せた。
それは多分、私のことを心配したためだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


父上は厳しい顔のまま私に近づいてきた。

私は何をするまでもなく父上を見ていた。


すっ、と父上の手が伸びてくる。

そして、私の体に腕を絡めると自分の胸に私を包み込むような形に抱きかかえた。

父上の心臓の音が聞こえる。



「梵天丸・・・・生きてて良かった・・・・」



泣きそうな声で父上はそう言った。
思わず泣きそうになった。


「・・・ちちうえ・・・・・」


私も父上の体に痩せた小さな腕を絡ませた。
泣かないようにしてたのに涙が頬を流れた。
・・・・もちろん左目だけだけど。


父上が私から離れると、私の涙を小十郎が拭いてくれた。

父上に抱きついていたから小十郎が来たのに気が付かなかった。


小十郎は、私に笑顔を向けてくれた。

右目の無い私に。


さて、父上も、小十郎も座り、後は義姫に会うだけになりました。


これさえ終わればあとはもう人生薔薇色(二回目)



姿勢を正して、義姫を待った。




暫くすると、足音場聞こえてきて、私の前に義姫が現れた。



「おお、梵天丸!!母は心配しておりました!!」


そう言って私に抱きつく。


私は露骨に嫌な顔をした。
いつも嫌な顔をしてるんだけど義姫は気付いているのかわからない。



「さぁ、その可愛らしいお顔を母に見せ・・・・・・・。」


ここで、私の顔を見た義姫の動きが止まった。


義姫の視線が私の右目に注がれる。


そして



「化け物」


そう義姫は悲鳴を上げるような声で言った。


私の周りにいた人たちはまさか義姫がそんなことを言うとは思ってもいなかったらしく動揺を隠し切れない。


父上も小十郎も、千代も小萩も、口を開けて義姫を見た。


誰もが予想外の出来事に驚いていた。


だが、私はわかっていたから、だから何??とでも言うような顔で義姫を見ていた。


「・・!!義!!お前・・・梵天丸になんてことを!!」


はっとしたように、父上が義姫に話しかける


義姫は私を見つめながら、「違う」「違う」と呟いていた。


まるで、父上の言葉を聞いていないかのようだ。



父上が再び義姫に話しかけようとした時義姫は発狂した。



部屋に響くほどの声。
思わず耳をふさぎたくなるような声。


そして、発狂をやめ方で息をし、落ち着いたかと思われたが、義姫は予想外な事をまたやらかした。


近くにいた家臣の刀を奪い、その刀で私に切りかかろうとした。



この行動にはさすがの私も驚いた。


避けようにも体が動かない・・・。



まさかのここで終了??


振り下ろされる刀。



あぁ・・・もうダメだ。



その時、私の前に人が立ちはだかった。

私が気付いた時にはその人は斬られていた。

床に倒れる人・・・・・・。


その人は、笑顔が良く似合っていて可愛いくって私の大好きな千代だった。


え・・・?


考える間もなく義姫がまた刀を振り下ろした。


今度は小萩さんが目の前で斬られた。


突然の事で頭がついていかない・・・・。



え・・・・??????????


私の目の前では大好きな二人が血だらけになって倒れていた。


義姫は周りの人たちに押さえられた。
義は抑えられながらずっと、「違う」と呟いていた。



その義姫の行動はまるで千代と小萩がいない存在のように・・・・・・。




私はもう一度二人を見た。

が、変わる事の無い現実・・・。


え・・・??ねぇ何これ・・・・。

どうして千代と小萩は倒れてるの?

起きてよ・・・。

私は二人に触れた。

動かない二人。

ねぇ、なんで????

何でこんな事になったの???



・・・・・・・・ああ、





私のせいだ。










誰か、嘘だと言ってよ。




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