9、はじめまして・・でいいはず。
前から思っていた。前の世界のこと。
決して忘れた時は無かった。ひと時も。
お母さん、お父さん、弟、友達・・・・・・・・。

どうしてるかなぁ?

向こうでは私は死んじゃったから、泣いてくれたかなぁ?
もう二年も経つんだもん、心の片隅にでも私は居るのかな?

たとえこっちに綺麗なお母さん、かっこいいお父さんが居ても私の中の両親は二人だけだよ。
弟も、憎らしくって殺したい時もあったけど今は正直心配。

向こうに戻りたいなぁって思った。けど向こうでは私は死んでる。存在してはいけない。
大丈夫解ってる。

今は新しい人生を生きていこう。そう決めたじゃん。

けど、もし次ぎに生まれ変わるんだったら今度は記憶を全部なくしてくれないかなぁ。
やっぱり悲しいものは悲しいから。


さぁっと部屋に風が流れた。
髪が巻き上げられた。顔に髪がかかる。
木がざわざわと騒ぐ。部屋に葉が入ってきた。まだ緑色で綺麗なのに枝から落ちてしまったの?

ダメだよちゃんとしがみ付いていないと。
簡単に落ちてしまうのだから。私みたいに。


つーーーっと私の頬に一粒の涙が流れた。今は千代も小萩もいないから大丈夫。
私は安心して涙を流した。


今は二歳だからあと・・・・三年後位かな?右目がなくなるのは。


そっと右目の瞼に触れた。今の間はこの右目でいろんなものを見よう。たくさんのものを見よう。

右目がなくなったら小十郎が来てくれるんだよね?
右目を斬ってくれるんだっけ?痛いよね?痛いのやだなぁ・・・痛いの嫌いだよ・・。
歯医者だって嫌なんだから・・・・・。


辛い事だけではなく、楽しい事を考えよう。
そう、楽しい事。小十郎のことを考えよう。それにまだ会っていないキャラにも会わなくちゃ。

辛い事ばかり考えちゃダメだ。本当に辛い時、右目の時は・・・・その時の自分に任せよう。
今の自分は頑張って成長しなきゃ!


「梵天丸様」


部屋が開いて笑顔で小萩と千代が入ってきた。

この二人のためにも笑顔でいなければならない。


「一人で何をしてらっしゃったのですか?」

小萩が私を抱きかかえながら言った。
小萩は綺麗な顔してるなぁ・・・・・。もちろん千代も。


「うんとね・・・はっぱをみていたの」

部屋に入ってきた葉と庭の葉を指差す。

「葉・・・ですか?緑色の綺麗な色ですね」

「うん」

千代が葉を拾って私に渡してくれた。

「もうすぐ夏ですからね、葉が綺麗な色に染まっています」

夏・・・・やだな。暑いじゃん・・・・・。

「夏になったら水遊びをしましょう。」

「そうですね、夏になったら夏にしか出来ない事をたくさんしましょう。
季節というのはあっという間に過ぎていきます。
夏だと思ったらすぐに秋になり冬がきますよ。」

私はまた「うん」と答えた。正直、夏が嫌で返事は適当。

本当にあっという間に季節は巡るんだよ。
私は秋がいいな・・・。早く秋にならないかなぁ。
別に秋のこういうところがいいってわけじゃないんだけどね。秋って気温的に楽だから。
春は、花粉が飛ぶからやだなぁ。

こっちティッシュないし、ズビズビ啜ってるだけなんだよ。
鼻水と目がきつい。


また、さぁっと風が吹いた。今度の風は心なしか生暖かかった。
小萩の腕から自分の体が離れまた畳みの上に座った。

「こはぎぃ、ちよぉ・・・にわ、いこぉ?」

私がそう言うと二人はいいですよと微笑んでくれた。
その笑顔がものすごく好き。二人は私の事嫌いじゃないよね?

私は二人と手をつないで庭に出た。
やっぱり部屋の中よりも風が強い。私は風を全身に浴びた。

庭の木を眺め、庭の花を眺め、庭の鯉を眺め・・・・・。

たくさんのものを眺めた。みんなそれぞれの色を持っている。可愛いよね。


私は不意に庭から見える廊下に目を向けた。


「・・・・・っ!?」


びっくりした。気付いたら小萩も千代も無視して一人で走っていた
廊下には父上ともう一人の男の人がいた・・・・いや男の子かな?

父上は私に気が付き、遠くで私を追いかけ走っている小萩と千代を見て苦笑した。

「どうした梵天丸?何か用事でもあるのか?」

父上はそう言った。けど私は返事をしなかった。
父上は不思議に思ったけど、私はそれよりも目の前の人物に釘付けだった。


私の目に映っている少年は多分十二歳位だろう。いや、そうだ。
大人の姿は良く知っている・・・・けど、子供の姿は見たときは無かった。

幼くても解る。
この少年は小十郎だ。

小十郎は私の視線に気が付き目線を合わせた。
すると、少し軽く微笑んだ。

「!?」

父上は私の目が小十郎にいっていることに気が付き私に小十郎を紹介した。よく聞こえないけど・・・・。
小十郎は礼儀正しく挨拶をした。ピシッとした挨拶。

まだ頬に傷が無い小十郎。きりっとして賢そう・・・。顔もまだ幼い。


やっと追いついた小萩と千代は父上と小十郎に軽く挨拶をしてそぐにその場を離れた。


二人がなんか言っているけどわからない。
だって私の頭の中は小十郎でいっぱいだったから。


かっこよかったな。小十郎は小さいころからかっこよかったんだね。


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bkm

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