うそかもしれない [ 2/5 ]

「小十郎ー!」

「小十郎ーーーー!」

本来ならば朝になると真っ先に私の部屋に来る小十郎だが、今日はおかしく小十郎が部屋に来なかった。
まぁ何か用事でもあるのかと思いそのままでにしていたが、今回はいくらなんでも小十郎が来ない。
今までは何かあると事前に私に言っていたはずだったんだけどどういうことなのだろうか?
もしかしたら小十郎はどこかへ行ってしまったのだろうか?そんな事ないと思っていても小さな不安は私の胸の中で疼いていた。

気付いた時には立ち上がって小十郎の姿を探していた。
しかし探しても探しても小十郎の姿が見つからない。
私は瞳に涙を溜めながら小十郎を探した。


「小十郎ーーーー!!」

ばん、と大きな音を立てて私は小十郎の部屋の障子を開けた。
しかしそこにも小十郎の姿は無い。もう探し出してどのくらいの時間が経ったのだろうか?私は胸の中で小さな不安から大きな不安に変わるのが分かった。


「うっ、こじゅ、ろー……」

瞳から流れ頬を伝い零れる涙。そんな涙を無視して私は小十郎の部屋の前で姿の見えない小十郎をどこか探していた。
涙で視界がぼやける。


どこに行ってしまった。私の大切な大切な小十郎はどこへ行ってしまった。
大きな寂しさと悲しさと小さな怒りと虚しさとで止まらない涙。
ぺたん、とその場で座り込み俯きながら小さく小十郎の名前を呼びながら泣いていると、視界の端で何かが動いた。


小十郎!?

そう思い顔を上げるとそこには厳つい小十郎とは正反対のなんとも可愛らしいウサギがそこにちょこんと私を見上げるように居た。


「ウサギ?」


何でウサギがここに居るんだろうか?
そんな事を考えていると、ウサギはどこからか持ってきた手拭いを口に銜えずるずると私の方へ持ってきている。
そして、私の膝の上に乗っかるとその口に銜えた手拭いで涙を拭こうとか、分からないが一生懸命口に手拭いを銜え顔を上げていた。


暫くの間ぽかーーんとその状況を見ていたが、ハッとなりウサギから手拭いを受け取るとごしごしとそれで涙を拭いた。
ぼやけていた視界から一点はっきりと見える世界。
私はウサギを見ると恐る恐る手を出し、「……ありがとう」と呟いた。


ウサギはぴくり、と耳を動かし身構えたが私の手を受け入れた。
顔を俯かせてキョロキョロと視線を彷徨わせるその姿にどこか人間らしさを感じた。
そういえばこのウサギ小十郎と同じところに傷があるな。


その時ふ、と私の頭に何か考えが浮かんできた。
いや、有り得ないのだが、いや、しかし。
そう思い、私は恐る恐るウサギに

「小十郎……?」

と話しかけてみた。
するとウサギはまた耳をぴくりと動かし私を見ると、また下を向いた。
傍から見たらウサギに話しかけている子供という構図なのだが私の頭の中は「もしかして」という言葉で埋め尽くされていた。


だって、だってこのウサギ


私はウサギを両手で持ち上げた。
ウサギはじたばたと暴れていたが私はウサギの目を見た。
私がじっ、と見れば見返してくるウサギ。


何か直感的なものがその日は働いていたのだろう。
私はウサギにもう一度「小十郎」と言った。

するとウサギはうろたえたような動作をすると小さく溜め息にならない溜め息をつくとその愛らしい口を開いた。


「政宗様」


ウサギの口から発せられた言葉に私はそのまま後ろに倒れた。




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