ある日母は病にかかった。
咳、高熱、吐き気。母は苦しんだ。しかしそれでも必死に明るく振舞って私を悲しませないようにしてくれた。
きっと今までの疲れ等で体が弱っていたところにこの間の大雨のせいで体が急激に冷えたせいだと思われる。
心配して私が「かあさま」と言って母に近づこうとしたら、病が移るからと母に触れることは許されなかった。
私はただ遠くから母を見守ることしか出来なかった。毎日私は泣いた。

村の人達に母を助ける為医者を呼んで欲しいと言っても村の人達は私をまるで化け物でも見るような目つきで見てから酷い罵声を私に浴びせ誰も私の話を聞こうとしてくれなかった。
このままでは母は死んでしまうと思った。いや、きっと死んでしまうと。
けれどこの小さな体では何も出来ないと分かっていた。それでも何かしなくてはと手当たりしだい何かを探した。しかし何も無かった。


そして、その数日後母は静かに息を引き取った。
綺麗な母の最期はとても綺麗で美しかった。病で体が痩せ細っていたというのに力強さを感じた。
そして綺麗なその人は子供のように泣きじゃくりながら「愛していました」「ただ愛していました」「ごめんなさい」と言う。そして流れる涙を止めようとせず、「紅太郎」と名前を読んで一言「ごめんね」とだけ言って瞳を閉じた。
それは一体何に対してのごめんなのかを聞けないまま。
最後の最後に見せた子供のような母。しかし最後はやはり母だった。

綺麗な母、私の二番目になる母。大好きでした。この三年間育ててくれてありがとうございました。
涙を流す私の周りに風がふわりと吹いた。

次の日葬儀は村の皆でやってくれたが皆が皆私を見ない。ただ淡々と葬儀がされた。誰かが言っていた「母親が死んだのはあの鬼子のせいかねぇ」という言葉を聴かないようにして。
その日の夜、母の形見のお守りとを持ってその村を出て行った。大嫌いな何番目かの故郷になったこの村を。


私は小さな足で歩いて歩いて歩き続けた。
けれども周りは山と森しかない。段々おなかもすいてきた。ここで死んでしまうのか?そんな考えも頭を過ぎった。
そのたびに、ここに生まれ変わったと言うことはきっと私に何かをさせるためなのではないのかと言うことを考えた。
死ぬなんて簡単に言わない。私は何が何でも生きてやる。強い決心を胸に抱きながら私は歩いたが、幼子の姿では限界がある。
私は体が動かなくなってぱたりと倒れた。
ここに居たら動物達に食われてしまう。体を起き上がらせようと思ったが無理だった。

もしも私にお父さんが居たら、居たのなら一緒にお母さんが死んだ時悲しんでくれるのかな?一緒に私と居てくれるのかな?
しかし、母が言うには私と母を殺そうとしたらしい。それでもやっぱり一度は父の顔を見てみたい。

「母様、父様……」

会いたいよ。

小さなふにふにした手を握り締め私は涙を流しながら瞼を閉じた。


――――――――

私はいい匂いで目が覚めた。
体を起き上がらせると地面だったはずの床は木の床になっていた。
そして囲炉裏にはなべがあってそこからいい匂いがしている。
これは夢なのだろうか?そう思い頬を抓るが、痛い。

「あらぁ、起きたのね」

声がした方に首を向けるとそこにはずいぶんと年がいったお婆さんが居た。
そしてそのお婆さんは外に向かって「お爺さん、あの子が起きましたよ!」と言って手招きしている。
そして足音が聞こえたと思ったら戸の外にはお婆さんと同じ年くらいのお爺さんが立っていた。

お爺さんは優しく笑うと「大丈夫かい?森の中で倒れていたのをわしが連れてきたんだよ」と言って私に近づき、安心させるように頭を撫でた。
いきなりの事で良く分からなかったが、どうやらお爺さんに助けられたというのは分かった。となればまず御礼だ。
私はその場で正座になって「あいがとーごじゃいました」とあまり回らない舌で一生懸命言った。

「あらあらなんて礼儀正しい子なのかしらねぇお爺さん」
「本当だなたいしたもんだ!」

そう言って二人は私に微笑んだ。
それから私は二人にどうしてあそこで倒れていたのかを説明した。勿論三歳児のように。
二人は真剣な顔つきで私の話を聞いてくれた。とても嬉しかった。誰かに話を聞いてもらえるなんて無かったからだ。

そして全てを話し終えた頃私の目からは涙が流れた。
そんな私にお婆さんは優しく抱きしめて「頑張ったんだね」と震える声で言った。温かい他の人の体温に私は凄く安心した。
そしてお爺さんの口からは「ここに住むかい?」という言葉が出た。


私が「気味悪くないの?」と言えば二人して「何が気味悪いもんか!」といって笑って私の不安を吹き飛ばしてくれた。
母が亡くなって寂しかった私に二人の言葉は温かく心に染み渡った。
そして返事は勿論ここに住むという答えを出した。





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