何十年か前に、ある村で鬼子が生まれた。
その子は髪が紅、瞳も紅と他とは異なった姿をしていた。
母親はその子を産んですぐに亡くなったそうだ。父親は自分達と姿の異なり、愛する妻の命を奪ったわが子を不気味に思い、村の皆からの話で山へ生まれて間もないわが子を捨てた。しかし、運良くか近くに村を成していた忍びに拾われ命を助けられる。
しかしその子はやはり忍びの中でも好奇な目で見られた。
家族などと呼べるものはおらず、友も居なかった。誰も奇妙がって目を合わせてくれなかった。泣いても誰も助けてくれなかった。訴えても誰も聞いてくれなかった。差し出した手は宙を掻いた。
皆が口々に言う。お前は忌み子なのだと。血の繋がった肉親からも捨てられた子なのだと。
否定出来なかった。それがまた悲しかった。
だからある時その子は考えた。目を合わせてくれないのなら目を隠せばいいじゃないか。泣いても助けてくれないのなら泣かなければいいのだと。誰も自分の話を聞いてくれないのなら話さなければいいのだと。誰も助けてくれないのなら自分だけを信じればいいのだと。
憎しみにも似た誓いを心に刻み、その子は強く生きた。
目を閉ざし、感情を出さず、話さずに。関節を外す痛みに耐え、毒を飲み、骨を太くする為に骨折を耐え、表情を捨てた。
その子は忍びの中でも目を引くほどの上達ぶりを見せた。
しかし、その姿はもう人間とは言えぬ鬼気としたものがあった。人の姿を成して人では無い、人から欠けた何かになってしまった。
だが忍びの世界ではその子はまさに鑑。
暫くしてからその子は長、風魔小太郎と呼ばれるようになった。
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