(風魔視点)


佐助に息子だの言われても良く分からなかった。だから何だと言う。
だから佐助の連れ来てた息子という奴を殺そうとした。しかし、佐助の腕の抱かれているその標的には中々たどり着けない。
それほどまでに佐助が必死になっているということが分かった。何故こんな子供一人の為に必死になるのか分からない。

己はただ刀を振るった。
殺して、先に見えるのは変わらぬ日常。そう思っていた。
だが、その子供を見たとき、髪の色を見たとき己は目を見張った。
手拭いに隠されていたその子供の髪の色は己と同じ紅かった。その瞬間脳内に巡る昔の思い出。忌々しい思い出。それらが一気に己に襲い掛かった。
誰からも疎まれて生きていた己。すべての原因はこの髪と瞳だった。こんな髪と瞳ならいらない、瞳は抉り取ってしまおうかと思ったほどだ。
人からかけ離れたこの容姿をどれほど恨んだことか。


だが、この目前の子供は俺と同じ髪の色をしていた。
恐る恐る髪に手を伸ばして見ると、自分と同じ髪の感触がした。
ならば、と思って己は子供の瞳を見た。すると、その子供の瞳は、己と同じ紅い瞳をしていた。
体から湧き上がるようなこの気持ちは一体何なのだろう。感情など全て捨てたと思っていた。しかし、この胸にこみ上げる熱いものは一体何なのだろう。

もしかしたらこの子供だったら自分の気持ちを分かってくれるのではないのだろうか。
もしかしたら己を好奇な目で見ないのではないのだろうか。
もしかしたら己と視線を合わせてくれるのではないのだろうか。

子供の頃に捨てた感情が一気にぶり返してきた。己は本能のまま、兜を外し、その子供と瞳を合わせた。
人前で兜を外すのは一体いつ振りだろうか。
子供は大きな瞳で己の瞳を覗き込むとふわりと泣きそうに微笑みながら「父、様」と呟いた。

子供の声と言葉を聞いた時、心臓を抉り取られたような痛みに襲われた。
それでもこの痛みは嫌とは感じなかった。もっとそれを求めるように子供へ腕を伸ばした。
佐助から子供を受け取り両腕に重みを感じると、じわり、と何かが溶けるようなそんな気持ちになった。
己はただこの子供を離したくなくて、壊れないように出来るだけ優しく抱きしめた。



(紅太郎視点)


小太郎から攻撃された時は覚悟していたけどやっぱり悲しかった。
やっぱり私は要らない子供なのだという事を突きつけられた。
その現実に私はただ佐助の服にしがみ付いているしか出来なかった。頭上で響く金属音にびくびくしながら私はただ早くこれが終わるのを待った。
涙が流れそうになったが必死に耐えた。分かっていたことだから。だけど、悲しくて悲しくて、たった一人の肉親なのに、私を殺そうとしていて、泣きたかった。
涙を堪えるため、ぐっと強く佐助の服を握り締めた。サッ、と何かが私に掠めた。その瞬間光が私に降り注ぎその眩しさに目を細める。
頭に巻いていた手拭いを取られたのだとすぐに理解できた。

晒される私の髪。太陽の光を浴びて反射するのが分かった。
私、この髪も嫌いになるのかな?
そんな事を考えていた。その時佐助の動きが止まった。ぴたり、と。
何事か、そう思えば佐助が「ふ、風魔?」と声を出した。私の方からだと佐助の服しか見えない。だから一体何が起こっているのだろうか。
だけど、小太郎の方を見たくなかった。だから佐助の服を見ながらじっと事が終わるのを待っていた。

だが、何かが私の髪に触れた。
思っても居なかったそれにびくり、と肩を揺らすと、私の頭の辺りで何かが動いた気がした。
じっと耐えていると、その何かが再び私の髪に触れてきた。すっ、すっと髪をとかす様に撫でるその仕草に、私は何がおきているのか分からなかった。
すると、今度はその手が私の頬に触れた、ゆっくり反対の方を向かせられると、そこには至近距離まで近づいた小太郎の顔があった。
小太郎は兜を被っているから目が見えないけど、確かに視線が合った気がした。

小太郎は一旦私から手を離すと、兜に手をかけ兜を外した。
私は動けずただただ小太郎を見ているしかなかった。佐助もどうしたらしいかわからず動けない状況だ。
小太郎が兜を取るとふわりと兜に隠されていた髪が揺れた。太陽の光を浴びて輝くその髪は私の髪と同じ色。
そしてその髪と髪から見える瞳も私と同じ紅い瞳だった。
じっ、と視線を合わして私は小太郎のその瞳を見ていた。瞳からなんの感情も分からなかったが小太郎が私に視線を合わせてくれているということが凄く嬉しかった。
だから私は問いかけるように「父、様」と震える声で呟いたのだ。

すると小太郎はゆっくり私の方へ両腕を伸ばしてきた。
私はその腕にすがり付く様に自分の小さな手を伸ばすと、小太郎は私を優しく抱きかかえぎゅっ、と抱きしめた。
私は離れたくなくて、嬉しくて、小太郎の首に腕を回し、その首元に顔を埋め静かに泣いた。




*前 次#


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -