(佐助視点)


勝敗を決めたのは婆娑羅技を出した紅太郎だった。
こんな小さい子が婆娑羅技を出したのに驚いたがそれでもどこかこの子だから、と納得してしまった。
小さいながらも技を使った体は今までの事を含め一気に体に来たのだろう。紅太郎は一日丸々と寝ていた。
紅太郎が目を覚ました時にはもう、小田原には着いていて、今俺様たちが休んでいるのは宿で、起きた時の紅太郎の反応は面白かった。
そして、起きて早々、俺様の体の心配をしたのには驚いた。この子はどこまで出来た子なんだろうと感心した。

そうえば、実はこの子が寝ている間、風魔に会って来た。
そして子供のことを伝えた。しかし風魔の反応は良く分からないものだった。
まぁ、それはしょうがないと思った。あいつは忍びの俺様から見ても何か人として欠けている。恐らく息子と言われてもよく分からないのだろう。
ただ、俺様はその子に会って欲しいとだけ告げた。話だけでも聞いて欲しいと。それでもやっぱり風魔の反応は分からなかった。


「紅太郎、本当に父親に会いたい?」

最後の質問を紅太郎にして、紅太郎が迷うことなき頷いたのを確認してから俺様は「じゃあ昼になったら会いに行きますか」と紅太郎に聞いた。
そうすると、紅太郎は心臓の辺りを手でぎゅっと握り締めながらこくん、と頷いた。


昼までは紅太郎に風魔はどういう人かを話した。勿論忍びで人を殺したりしているというのもだ。
父親に会って悲しまれたら俺様嫌だし、この子の為にも色々事前に知っておいて欲しかったから。
紅太郎は真剣に父親のことを聞いた。その姿を見てああ、子供って良いなと思った。
俺様は紅太郎が真剣に話しに耳を傾けるとより真剣に父親のことを話した。


そして父親、風魔に会わせた後、殺されそうになるのは確かだと思え、と教えた。紅太郎は俺様を見据え頷いた。


昼になり、俺様と紅太郎は小田原に向かった。
勿論堂々と門から行くのではなく忍びらしく塀を飛び越え、城内に進入する。
風魔は侵入者には逸早く反応するはずだからその時に俺様が攻撃を仕掛けるであろう風魔の動きを止める。


大きく深呼吸をしながら俺様は紅太郎を抱えながら頭に巻いた手拭いが落ちぬよう、塀を乗り越えた。
地面に脚が着地すると同時に振ってくる苦無を紅太郎に当たらないように避けながら俺様は「風魔!!」と叫んだ。

それでも風魔の攻撃は止まなかった。
やはり風魔にとってはどうでもいいことだったか。俺様は構わないがこの子が悲しむのは酷く辛かった。
俺様の腕の中で静かに耐え、ぎゅっと服を掴むその姿に心臓が痛んだ。
何が嬉しくて実の父に殺されなくてはいけない。

俺様は風魔をキッ、と睨み、影分身を作りながら風魔への攻撃態勢をとった。
「話しだけでも聞いてくれっているだろ!」そう言えば風魔は唇だけで「−話だけなら何度も聞いたー」と良い攻撃を止めない。
ああ、何故今日に限って話を聞いてくれないんだ!!半ば逆ギレしながら俺様は風魔とやりあった。
響く金属音。城の者も気付き始め、俺様は場所を屋根へと移した。風魔は背中に攻撃するのを避けると手裏剣を投げ、懐に入り俺様は風魔にありったけの力で腹に拳を入れた。しかしそれも腕で止められるとすぐに後ろに下がり紅太郎の様子を見る。

紅太郎は怯えていた。当たり前だこんな状況で普通で居られるわけが無い。
その時俺様は油断していた。風魔が俺様の懐に入り紅太郎めがけて刀を振り下ろした。それを辛うじて避けたが、紅太郎の頭に被せていた手拭いは風魔の刀に盗られてしまった。手拭いと紅太郎の少量の髪が舞う。
しかしそんな手拭い気にしていられるわけも無く風魔から来る次の攻撃へ体制を整えた。が、風魔の動きがぴたり、と止まった。


今まであれほど殺そうとしていた風魔が動きを止めた。
何事かと思い風魔を見ていると、風魔の視線は俺様ではなく、腕の中で丸まっている紅太郎へ向けられているのが分かった。

「ふ、風魔?」

恐る恐る風魔に話しかけても風魔は先ほどと同じ格好でまるで固まったように動かなかった。
動いたのは、腕の中で紅太郎がもぞり、と動いた時だった。風魔は刀を仕舞い、俺様達の方へとゆっくり近づいてきた。
俺様はどうしたらいいのか分からずただ、風魔の行動を見ていた。

風魔は目の前まで来ると、紅太郎を穴が開くほど見つめた。もしかしたら自分の容姿と似ている紅太郎に興味を持ったのかも知れない。
だが、このまま紅太郎が殺されるのかもしれない。冷や汗を流しながら俺様は風魔を見た。
ゆっくりと紅太郎に伸ばされる風魔の手、その手が紅太郎の髪に触れると、紅太郎はびくっと肩を揺らした。
それと同時に風魔もぴくりと手を少し後ろへと引いたが、すぐにまた紅太郎の髪へと手を伸ばした。
そして髪の感触を確かめるようにスッ、スッと撫でると紅太郎の顔を自分の方へ向けようと頬に触れた。
腕の中の紅太郎と風魔の視線がかちり、と合うのが分かった。目に見えて風魔は驚いていた。こんな風魔を見るのははじめてだった。

暫く固まった後、風魔は俺様の前だと言うのに兜を外した。
はじめて見る兜を外した風魔の姿に今度は俺様が驚かされた。
兜を取り、頭を少し振ると兜を下に置き、また紅太郎を見た。その時髪と髪の間から覗く風魔の紅い瞳を見た。
紅太郎と同じ瞳の色だった。はじめて見た風魔の瞳と風魔の行動に俺様は石造に様に固まった。

すると俺様の腕の中から小さく「父、様」という声が聞こえてきた。
風魔はその声に答える様に両手を伸ばして俺様から紅太郎を受け取り、酷くゆっくりとした動作で腕の中に紅太郎を抱き寄せた。


その姿はどこにでも居そうな普通の親子の姿だった。





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