(佐助視点)

次の日、俺様はまたあの森へと来ていた。勿論あの紅太郎という子供を探しにだ。
木の上で小屋を眺めていると、そこから紅太郎と爺さんが出てきた。爺さんが居てもらうと俺様凄い紅太郎に会いづらい……。

これからどうやって紅太郎に会おうか、と考えた時、紅太郎は爺さんと分かれて一人川の方へと歩いていった。
しめた、と俺様は後を付いていき川で一人川を覗き込む紅太郎の後ろに降り立った。

音もなく着地したはずだが俺様が地面に脚を着いたと同時に紅太郎は俺様の方を見た。
吃驚しながら「あ、あはーー、また会いに着ちゃったぁ」なんて言うと
紅太郎は嬉しそうに微笑みながら「こんにちわ」と俺様に挨拶してきた。
正直驚かそうと思っていた俺様が逆に驚かされてなんだか恥ずかしい反面、この子は将来凄い忍びになることを確信した。
俺様でさえ人の気配を察知するなんてこの年で出来なかった。死にそうになりながらやっと習得したのだ。だがこの子はこんなにも簡単に会得している。
ますます風魔の子供だという考えが強くなった。

太陽に反射した紅い髪がきらきらと独特の色で輝き、川の光を反射した瞳は、炎とも水ともつかない美しさが俺様の目を奪う。
そしてその顔は今こうして見ると一つ一つの部位が整っている。大きな瞳。薄紅色の頬。形の良い唇。白い肌。全てが完璧だった。
そしてその姿に昔見た環姫の姿を思い出した。

確信した。この子は二人の子供だと。

何故だかこの子を風魔にあわせたいと思った。だって風魔はこの子の父なのだから。
しかしあの風魔だ、この子が本当の子だと知ったら存在を消すため殺すかもしれない。だとしたら風魔には会わせられない。

どうして俺様がこんな人の子供の為に頑張って考えているのは、もしかしたら幼い頃の旦那、弁丸様をその姿に映して見たからかもしれない。だから放って置けなかった。
こんな事考えているから余計武田のお母さんなんて言われているのかな。

嬉しくない名誉を貰い、その事を考え俺様はふっ、と苦笑を洩らした。


「そう言えば名前言ってなかったね、俺様猿飛佐助!軽ーい感じで佐助って呼んじゃって?」
と、無駄にテンションを上げながら言うと紅太郎は大きな瞳をよりいっそう大きくし、きらきらと瞳を輝かせながら「さすけ!」と言った。

ほんと、幼い頃の旦那にそっくり。


それにしてもこの子は俺様が怖くないのだろうか、昨日あんなことをしたのだからもっと警戒してもらってもいいと思う……。
気になったので、素直に聞いてみると紅太郎は「なんとなく、わるいひとじゃないとおもったから」と笑顔で話した。

一体どこをどう取ったら俺様がいい人だと思える行動だったのかは分からない。全くよく分からないけど、その子の目には俺様が悪い人には見えなかったらしい。
ちょっとこの子の将来が不安になったのは内緒だ。

「そうなんだぁーー、俺様良い人っぽい?」
へらーと笑いながら聞くと紅太郎は首を縦にこくん、と振った。そんな何気ない仕草が風魔っぽい。

「じゃあさ、紅太郎のお母さんは居るかな?」
と、俺様は今日の本題に入った。今日はこの子の母親が環姫なのかを確認しにきたのだ。勝手にこの子は二人の子供だと言っておきながら違ってたら俺様恥ずかしい。
俺様は紅太郎の返事を待つために顔の表情を見ていたから分かった。その子の表情が笑顔から段々悲しいものへ、そして無表情になる瞬間を。そして瞳からも光が途絶える瞬間を。

こんな幼い子が、ましてやさっきまで普通に会話していた子がこんな表情になるとは、一体誰が想像しただろうか。
俺様でさえ想像していなかった。こんな人形のような表情に。思わず背筋がぞくり、と震えた。

そして静かに紅太郎が口を開いた。
「母様は死んだよ?」
人形のような表情、声に抑揚が無く、なんの感情も分からなかった。

「そ、そうなんだ、ごめんねそんなこと聞いて」
慌てて返事をすると紅太郎は「ううん」と言って首を横に振った。
その姿を見ながらきっとこの子は過去に何かあったのだと悟った。暗く悲しい過去が。
だから俺様は母親の名前を聞くか聞かないか迷った。
そして迷った挙句、俺様はいつになく真剣な表情で聞いた。

「紅太郎、母親の名前を教えてくれないか」と。

紅太郎はふっ、と視線を空に向けてから、「母様のなまえは……たまき」と小さく呟いた。
その瞬間に俺様は鳥肌が止まらなかった。
いつの間にか、嘘だろうと思っていた考えが確信に変わり、脳が二人の子供だと認識した。
そして、その子が今俺様の目の前にいて、俺様を見て、話している。


他人の子供が他人だと思えなかったのは初めてだ。





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