陽が真上にあるから今は昼時だろう。俺と小太郎は小屋に戻り俺は暫くこれからの事について考えた。
とりあえず山の事情も知りたいから色々なところに回りたいのだが、まだ体が完全ではない。同化されてないような違和感に体に伝わる鈍い痛み。関節を曲げるとぎぎぎと音が出そうな軋み。


正直からだを動かすのもままならない状態だった。
小屋に戻った時は操り人形の糸が切れたようにその場に倒れこんだ。
驚いた小太郎だが目にも見えない速さで俺を綺麗なところへ寝かし脈や呼吸音を聞き始めた。
そうではないということを小太郎に伝えると、小太郎は少し落ち着きながらも看病を止め様とはしなかった。


俺は無駄だと割っている小太郎の看病をされながらも大地を音を聞きこの大地になれようとした。神になってから生きているものの気配が絶えない。それら全てに意識を向けるのは難しい事だ。
やはり自らの足で山を知っていくか。山を知ると後はこちらのもの。掌の中にあるようなものだ。


そういえば話題は変わるが小太郎は北条家に仕えているんじゃなかっただろうか。
「小太郎は忍びだったよな。主は放って置いていいのか?」
そう聞けば小太郎は紙に何か書きそれを渡してきた。内容は「分身を置いている問題は無い」とのこと。


どうやらまだ北条家には仕えている様だ。しかし、最初の主を差し置いて本体を俺の方に置いていてよいものだろうか。


しかしそんなことはどうでもいい。体が今ほとんど動かせなくなってしまった。首と目、口だけを動かせるのが幸いだ。
その旨を伝えると小太郎は嬉々として俺に任せろと言った表情をした。まぁ、今何も出来ないから小太郎に任せる仕方ないのだが、あまり小太郎の好きにさせてはいけないような気がした。


これは一回空の神に聞いた方がいいかもしれない。
そう考え、あまり呼びたくはなかった空の神を呼んだ。呼び方は簡単だ、ただ頭のなかで念じるだけ。
小太郎にはこれから俺の友人がくるとでも伝えた。


するとすぐに気配と外の風が変わった。
そして大地に今この世界に生きる者ではない者の気配を感じ取った。
「来たか」そう呟けば小屋の戸の近くに二日前俺がまだ人間だった頃に会った姿のままの奴がそこに居た。
小太郎はいきなり現れたその人物に警戒はしたものの俺の一声により警戒を解く。


「さっきぶりだな大地の神」


優しく微笑んだ空の神は友人に対するような話し方で俺に話しかけた。


「一日ぶりだ空の神」
さっきというのを訂正すると、空の神は「どっちでも変わらないじゃないか」と苦笑した。


そんな一瞬で終わる会話も終わり空の神は「おお神化頑張ってるな」と話しかけた。
「神化・・・」その単語を聞くとなんとなく分かるような気がした。


「この体はどのくらい経てば神に馴染むんだ?」


今回空の神を呼んだ一番の理由を出せば空の神は「んーーーと」っともったいぶったような言い方をした。くだらないことを考えるなという視線を送れば「ごめんごめん」謝られ「そうだな10年だ」と言われた。


10年。それを聞いてまだ長いと感じるのは俺がまだ神になって日が浅いからだろうか。きっと空の神にとって10年は少し長いかな、といった感じたろうが今の俺は眉をひそめるほどだった。
10年もこんな風に苦しまなければならないのか。まぁ、それだけ分かればいい。


「分かった空の神。帰ってもいいぞ」
「えっ!?それだけかよ!!」
折角着たのに!と文句を言う空の神になんとか動けるようになった右手でひらひらと手を振ると空の神は涙目で帰っていった。なんとも騒がしい奴だった。


俺は今まで隣で大人しくしていた小太郎へと首を向けると「大人しくしててえらかったな」と言って右手で届く範囲内の小太郎の脚を撫でた。
脚を撫でられると同時に小太郎は俺の頭を抱えるように抱きしめた。


「小太郎。面倒になったら俺から離れて言ってもいいからな」
そう言うも、小太郎は首を横に振った。
10年もこんなことが起こるなんて小太郎も疲れてどこかへ行くだろう。
どうせ今は命を助けてもらったということで俺を崇拝しているだけだ。どうせその気持ちも冷めるさ。


「小太郎に暫く迷惑掛けるな」
ぼそり、呟けば小太郎は耳元で「俺に任せて」と呟いた。
期待はしないが今だけは小太郎のその言葉に頷いていた。


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