どのくらいの時間を穴の中で過ごしたのだろうか。
下から明るい光が見えたと思ったら私の足が固い地面に触った感触がした。
眩しいくらいの日差しを受け、目を細くして辺りを見ると、私は森の中の道にぽつんと立っていた。


「・・・此処は・・」


っとここで気が付いた。今話したのは私なのだが、声が低い男の人の声になっていた。
しかし驚くことは無かった。何故か何も感じなかった。これが空の神が最後に言っていた感情が麻痺するということなのだろうか?


「私じゃないみたいだ・・・・いや、今この姿で私というのは変だろう、これからの一人称は俺にするか。」


なんとも長ったらしい一人事を洩らしながら手を見ればごつごつと骨ばった男らしい手がそこにあった。目線は今までよりはるかに高い、と思う。髪はぼさぼさで腰を余裕で越してしまうほどの長さ。いかにも適当に伸ばしてました感満載だ。前髪も伸びていて普通にしていると目の前が髪で隠れてしまう。
きっと他の人から見ると目が見えないだろう。なんて考えていたら戦国BASARAの風魔小太郎を思い出した。
服装は黒の着流し、着物から見える体は逞しく、筋肉が浮かび上がり胸板も厚かった。今ここに抱かれたい体ランキングがあったらきっと優勝していただろう。


暫くの間其処に留まっていたのだがいつまでもここに居てはあれかと思い、とりあえず目の前を歩いてみる。すると、そこでまたまた何かに気が付いた。


私の歩くところに植物が生えるのだ。足を上げ、大地にかかとから着くと、ついたかかとから植物がまるで早送りしたかのように生えてきた。その光景を見て今度は思わず、もの●け姫のシシ神を思い出した。


だが気にすることなくそのまま歩いた。歩き歩き続けてただひたすらに歩いた。しかし疲れは感じない。
空を見上げれば空にあの神の存在を感じた。風を感じれば今まの風と違う風を感じられた。手を伸ばせば空を飛んでいた鷹が俺の腕に止まった。
自らの肉に食い込まれる鷹の爪の間からは血が出ていたがそれもすぐに治った。痛みも感じないと言ったら嘘になるし、感じると言ったら嘘になりそうなもの。良く分からなかった。


鷹を空に返して俺は濃い人の気配を近くに感じた。
ここに着てからの初めての人の気配に俺は迷わずその方へと向かった。気配は森の中からしており、ずいずいと森を歩けば、そこには血だらけになって横になっている人がそこに居た。


苦しそうに息をするその人を見れば全身から血を流しており呼吸音も荒かった。
そっと近づくと、何故かその人物が分かった。別に大地の神の記憶が私の中にあったからではない。その人物がさきほど俺の話に出てきた風魔小太郎だったからである。
これがいつもの俺だったら大変なことになっていただろう。きっといつも通りだったら「え??え??もしかしてこれBASARAトリップ!?!?マジで??やったね!!神様ありがとう!!!」ぐらい言いそうだ。
だが、今の俺はただ「嗚呼、風魔だ」としか感じられなかった。


しかし、伝説の忍びと呼ばれる人物がどうしてこんなところで死に掛けているのだろうとも考えた。
きっと風魔は俺の存在に気が付いている。だが動けない状態だ。少し殺気を感じたがこんなもの屁でもない。
俺は口を開いて風魔に話しかけていた。


「生きたいか」


ただ一言そう言った。しかし、風魔から返事は無かった。辺りには風魔の呼吸音だけが聞こえる。俺は前髪越しにじっと風魔を見た。
何となく風魔の感情は読み取れた。死んでも構わないけれど、死にたくは無いという複雑な絡み合った欲望の感情を。


「勿体無いと思わないか?」
話せる状態ではないことは知っている。だが、俺は風魔に話しかけた。勿論返事は返ってこない。
俺は痛がる風魔を仰向けにさせて風魔の目を兜越しに見た。抵抗は無かった。もう殺気もなかった。心臓の音がだんだん小さくなっていくのが分かる。
だから俺は風魔の唇に自分の唇を押し当てた。


別に最後の接吻なんて考えていない。
これは俺の頭に入ってきた情報。多分もしなくて確実に大地の神の情報だ。
山を救うほどの生気を持っている俺が一人の人間に生気を分けたからとって別に苦でもなんともないということ。
つまりは、俺の生気を小太郎に分けていると言うこと。俺の生気を与えることによって死に掛けている小太郎に生きる力を与える。あとは小太郎の体が頑張って傷等を癒すだけだ。俺はただそれの手助けをしただけ。だから決してやましい考えでキスしたわけではない。
その証拠にキスしてから小太郎の体の傷は癒え、血も止まり、心臓もまた大きく生きていることを主張し始めた。
ゆっくり唇を離せば小太郎は兜越しにも分かる驚いた表情で俺を見ていた。


姫抱きにしていた小太郎をそっと地面に下ろせば小太郎はしっかりとその両足で大地を踏みしめた。今こうしてみると分かるのだが、どうやら小太郎より俺の方が身長は高いようだ。


じっと俺を見ている小太郎の視線に答えるように小太郎を見て「生かしたのは俺の気まぐれだ。どこでも好きな所に行くといい」と言うが、小太郎はその場に留まり、片膝立ちをし俺を見始めた。
一体何事だと思い見ると、小太郎は兜を外し、真っ直ぐと俺を見た。
そして苦しそうに口を動かすと微かに掠れる声の中「主に忠誠を」と聞こえた。
どうやら今ので俺は小太郎に主だと認識され、忠誠を誓われたらしい。が、まぁ


「忠誠を誓おうが誓わないがお前の勝手だ」
そう言って俺は森の中どうするわけでもなく歩き出した。
小太郎はやはりどこに行くわけでもなく、すぐ上の木の上に飛び乗り俺が行く先へと同じく足を向けた。



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