広くなった視界。驚く佐助は俺が動いたのにすぐに反応できなかった。
佐助が反応できたのは俺は大地を踏みしめた時だった。


大地を踏みしめた俺の足元からぶわっ、と一斉に植物が育つ。
そんな光景に俺の手を握っていた佐助の手は震えた。そんな佐助に顔を向けると、佐助は俺の足元を見ながら「本当にあんた何者?」と震える声で言った。


「だから言っているだろ、大地の神だと」


俺のその言葉を聞いて佐助は小さく「嘘だろ」と呟いた。そういえば佐助はこれを見ていなかったな。
俺の手を掴む佐助の手が緩み、それを気に俺は一歩、また一歩と大地を踏み歩く。
ざわざわという山の空気を感じ俺は珍しく眉をしかめた。
そんなただならぬ気配に何かを感じ取った佐助は辺りを見渡した。そんな佐助に俺は「山がお前に怒っているんだ。」と言った。


意味が分からないと言うような佐助に俺はゆっくり説明する。
「訳合って俺は大地の神をやっているんだが、どうも神と言うのは感情があまり無いものらしいんだがな、大地は俺に対し感情を露にするんだ。今回は俺を傷つけたお前に怒っているんだよ。」


話しに着いていけない佐助に俺は「お前このままだと死ぬぞ?」と一言付け加えた。
すると佐助は目を見開き、忙しなく辺りを見た。
いや、大地だけではない。全てが怒っている。
風で木々が揺れ、空は星空と月を隠し辺りは暗闇に包まれる。近くから獣の瞳だけが爛々と光、佐助を見ていた。


得体の知れない何かを全身に感じた佐助はその場で倒れこんだ。
俺はそんな佐助に近づくと佐助の隣にしゃがみ込み、その俺から見ると小さな体を両手で抱きかかえた。
佐助の背中をまるで子供をあやす様に撫で、耳元で「俺がなんとかしてやるから」と囁くと佐助は小さく頷き俺の着物の裾を握り締めた。
佐助は見た目は大人だが中身は全くの子供だというのは見たときから気が付いていた。


そんな佐助からゆっくり離れると俺は大地に手を着きゆっくり撫でてやる。


「気にするな、ただのじゃれ合いだ」
そう言って落ち着かせるように。だが、怒りが収まらない。遠くの山が噴火し、嵐が来ている。地震が起き、土砂崩れも連動して起こる。
佐助の方を見れば佐助の居る辺りの地面に亀裂が入っている。普段の佐助なら動けるだろうがその佐助の四肢には木々の蔦が絡み付いている。
地震で視界が揺れる中俺は一つ溜め息を吐きながら、「落ち着け」と一言言うと大地に唇を落とした。すると、地震がぴたり、と止んだ。ゆっくり唇を離すと、もうあの独特の嫌な雰囲気が和らぎ、空気が軽くなった。
過保護とも言える大地の行動に少々面倒を覚えたがまぁ、今回は被害があまり少ないほうだったので良しとした。


くるり、後ろを振り返ると、枯れた蔦を体に巻きつけている佐助の姿が。俺はその蔦を佐助から外してやると俺に縋り付く様に抱きついてきた佐助の背中を擦った。得たいの知れないモノの恐怖に震える体を優しくゆっくりと。


「ねぇ、怒らないの?」
不意に佐助が口を開いた。言葉は未だに震えを持っている。


「何に対してだ」
「あんたを斬ったこと」
「ああ、気にして無い」
「そうだよね、感情が乏しいんだよね」
「ああ」
「でも怒って欲しかった」
「そうか、今度からそうしよう」


なんとも淡々とした会話、佐助は顔を上げ俺を見た。その表情は虚ろで、その表情から分かる佐助の心は簡単に壊れてしまいそうなものだった。
俺は佐助を慰めるように出来るだけ優しく佐助と話た。


「俺様はあんな事がしたかったわけじゃなかったんだ」
「じゃあ何がしたかったんだ?」
「俺様は、ただ、」
「ただ?」

「俺様はただあんたに見てもらいたかったんだ」
声を震えさせながらいう佐助に俺は「見てるじゃないか」と言うと「違う!」と即答された。

「目では俺様を見てるけど、ちゃんと俺様を見ていないんだ。いつも小太郎小太郎、って、小太郎ばっかりで、俺様の事見てくれないんだ。」

「それは悪いことをした」

「風魔が羨ましかったんだ。だから、あんたを俺様のものだけにしたかったんだ。」


そう言う佐助に俺は「待て、佐助」と言って話す佐助を止めた。
「勘違いしているようだが俺は小太郎を特別扱いしているつもりは無い。それと、俺は誰のものにもならん。俺は俺のもの。この日ノ国のものだ。」


そう言った私に佐助が少し訳が分からない、と言った。
それに対し「俺自身が日ノ国なんだ、そういう事なんだ」と大雑把に説明すると、つまり、と付け足した
「この地上に生きている限り佐助は勿論の事、生きているものは全て俺の一部なんだ。だから俺を独占することは出来やしない。誰も空を独占することは出来ないだろう?俺は大地なんだ。」


一つ一つ佐助が理解出来るように話すと、佐助は分かったのかわからないのかどちらか知らないが頷いた。
そして小さく「そっか」と呟いた後、「じゃあさ、今しか言えないだろうから言っていい?」と言ってきたので、俺は佐助の話を聞く体制になった。
佐助は俺の瞳を真っ直ぐ見ながら小さく口を開いた。


「好きなんだよ。」


ぽつりと、佐助が言った。

「あんたが好きなんだ、好きなんだよ。」

ぽろりぽろりと佐助の口から出てくる「好き」という言葉。
それと同時に佐助の瞳からもキラキラと涙が流れた。

「あんたが好きで好きで仕方がなかったんだ。だから風魔が憎くて憎くて、だけどあんたは風魔のことばっかりでっ」
俺の肩に額を当て、佐助は壊れたように自分の感情をぶちまけた。今まで溜まっていたものを全て吐き出すように。


俺はそんな佐助の背中を擦りながら「そうか、」と相槌を打ちながら話を聞いていた。
佐助はまるで乙女のような純情な恋心を俺に向けている。そうか、そうなのか。一人納得するように。
しかし一方で、佐助の純粋な恋心を打ち明けられ、涙ながらに語る佐助になんとも思わないこの体に俺は一人虚しさを感じた。

恋とは一体どういうものだっただろうか。どのような気持ちになるのだろうか。どうして佐助は泣いているんだろうか。
つい最近のことでさえ感情が朧気で、自分がどういう気持ちで過ごしていたのかももう遠い昔の記憶のようだ。
恋などもう、一握りのことも覚えていない。だから佐助に好きだと言われても、何も感じない。どう反応していいかわから無い。ただ、壊れそうな佐助の体を抱きしめることだけ。それしか出来なかった。


「ごめんな佐助。」


そして、そう不意に口から出た言葉をきっと本心だと思って。俺は佐助の感情を何も感じない心の中に仕舞い込んだ。

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