3.ツナシ・タクトの交友関係





この項目について語る際の注意

・冷静に観察すること、あくまで観察なので感情的になってはならない


「感情的に、か」

「どうかした、スガタくん」

近くでそんな独り言を聞かれていたらしくワコが心配そうにこちらを見ていた。
何でもないと笑い返すと、流石に幼なじみである彼女は納得しきってはいない様子ではあったが視線を外した。

(タクトの交友関係というと異性より同性との方が関わりは多いんじゃないか)

席に着いたままぼんやりとタクトの一際目立つ赤い髪を目で追いながら普段の彼女の様子を思い出す。
基本的には女子には憧れの存在、というかまるでアイドルのような扱いを受けている彼女ばかり見るスガタには異性と仲良く話しているタクトというのは想像出来なかった。

アイドル扱いではあるが、中には本気でタクトに恋している女子もいるのも確かだった。そんな彼女が

「タクトー」

そんな思考を遮るように聞こえてきた快活な少年の声に顔を上げた。聞き覚えのある声ですぐに誰かはわかった。

「ヒロシ、相変わらず元気だなー」
「元気が取り柄だからな!」

にこやかに話しているタクトとヒロシというスガタの中では珍しい組み合わせに目を見開いた。
だが、その光景は自然で何の違和感もなかった。

「それでさ、今日の……」
「ん?」

先程までの元気が嘘のように目を泳がせまともにタクトの目も見れないヒロシの様子に向き合って話していたタクトが不思議そうに首を傾げて覗き込んだ。

「う、うわっ」
「失礼だな、人を化け物か何かみたいに」

ころころと変わる表情は見ていて楽しくなるようだった。

「今日の放課後っ!ちょっと付き合ってくれないか?」
「今日?」

真っ赤になってそう言ったヒロシはまさに一世一代の告白のような雰囲気だったが、タクトは心底不思議そうに急だなぁと呟いている辺り何も気付いていないらしい。

当のタクトが気付いていないが、周りで聞き耳をたてていた生徒達は勿論ヒロシのその言葉から色々察していた。

「別にいいけど……どっか行くのか?」
「えーっと、それは行くまでのお楽しみってことで」

誤魔化すように笑ってそう言うヒロシを疑わしげにタクトは見ていたが、すぐにまぁいいけど、と呟いた。

「へえぇ……ヒロシくんって、もしかして──」
「なっ!よ、余計なこと言うなよ」

聞き耳をたてていた生徒達の心を代弁するかのようにルリがにやにやとしながらヒロシに囁いた。
そうルリに言われた途端、ヒロシはすぐに真っ赤になったと思ったら今度は青くなったりと忙しなく顔色を変えて弁明しようと必死だった。

「ちょっ、ちょっといいか?タクト」
「え、教室じゃ話し難いことなのか?」

急に周りを見渡して焦ったようにそう言うヒロシにタクトは大きな目をぱちくりさせながら不思議そうに首を傾げた。

「そ、そうなんだ!だから──」
「分かったよ」

何か理由があるのだろうと判断したタクトは椅子から立ち上がり、ヒロシに付いていくことにした。

そんな一連の行動を見ていたスガタは教室から出て行こうと歩く彼女の細い手首をとっさに掴んでいた。

「──スガタ?」
「タクト、今日は弁当作ってきたのか?」

そんなことを訊きたかった訳ではなかった。ただ、スガタは何とかタクトを引き止めたくて必死だった。
しかし、スガタの質問にタクトは困ったように一瞬目を泳がせてすぐに申し訳なさそうな顔をした。

「その、スガタ……そのことなんだけど、あのさ──」

悩んだ末に漸く言おうかと顔を上げたタクトにスガタはもうそれより先は聞きたくないと思ってしまった。

「今日は弁当作れなくて、その……ごめん」
「いや、急に悪かった」

何でもないことのように笑いながらもスガタは自分が自然に笑えているだろうかと心配になった。

彼女の背中はもう見えなかった。


何故、タクトがヒロシと一緒にいるのを見るだけでこんなにも気になっているのだろうか。
──こんなにも、胸が痛むのだろうか。

スガタはざわつく教室で独りきりになってしまったかのようなそんな気持ちで佇んでいた。







自分の気持ちも分からないのに、彼女の気持ちなんて分かる訳がなかった










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