2.ツナシ・タクトの生態



「……タクト」
「何、スガタ?真剣な顔して」

昼休みにいつものように三人で集まっていた。
スガタもワコもそれぞれ弁当を広げているが、タクトはと言うと


「何で、またメロンパンなんだ」
「え?」

疑問に思われること自体が不思議だと言わんばかりにタクトは首を傾げている。そんな彼女の手にあるのはメロンパンだ。普通のメロンパンだ。

「だっておいしいよ、南原のメロンパン!」
「美味しいとか美味しくないとかの問題じゃない」

真剣な表情で真っ直ぐ見つめて話しかけるとタクトは少し赤くなって目を逸らした。スガタは何が恥ずかしいのかと一瞬不思議に思うが、その栄養の偏りっぷりが恥ずかしいのかと納得して話し始める。

(スガタくんって頭良いのに、ちょっとずれてるなぁ)

二人の考えていることが手に取るように分かってしまったワコだけがその異様な緊張感と二人のすれ違いぶりにそっとため息を吐いた。

「大体寮からわざわざ買いに行ってるのか?」

基本的に寮生はパンを買うにしても購買や近所のコンビニや商店程度であることが多い。寮からは離れているパン屋まで行って買う生徒は珍しいと言えるだろう。

「いや、ワコが買ってきてくれるからさ」
「……ワコ?」
「あ、あははー」

スガタの呆れたと言わんばかりの白い目にワコは誤魔化すように苦笑いした。

「だって、タクトくんおいしそうに食べてくれるから……つい」
「ついって……」

ワコの言い分にスガタは大きなため息を吐いた。
まるで、動物につい餌を与えてしまう人の言い訳のようだ。或いは貢ぎ癖でもありそうで少しスガタは目の前で必死に目を逸らしている幼なじみの少女の将来に不安を感じた。

「だって、ほらメロンパン食べるタクトくん見てよ!」
「は?」

呆れられているのを感じたのかワコは弁解するべく語り始めるが、残された二人は呆然と聞いていることしか出来なかった。

「いつもは格好いいの、確かに」
「あはは……」

そこらの男子とは比べものにならない位と大袈裟な程に褒め称えるワコにタクトは困ったように笑った。

「そんなタクトくんがふと見せるこの可愛さが良いのに!みんな分かってくれないの」
「別に可愛くないから……」

ワコの熱弁にタクトは相変わらず苦笑いしているが、ワコは本気らしく同意を求めるようにずっとメロンパンを持ったタクトに向けられていた視線がぼんやりと傍らで話を聞いていたスガタに向いた。

「スガタくんだってあんなこと言うけど可愛いって思うでしょ?」
「ワ、ワコ?」

突然の質問に質問された当の本人よりもタクトが慌てていた。

「確かに可愛いとは思うけど」
「う、えぇっ!!」
「そこまで驚かなくても」

スガタのストレートな言葉が思った以上に衝撃だったらしく動揺しているタクトと正反対に横で見ているワコは望み通りの答えを訊けて嬉しいのか目を輝かせていた。
一方、可愛いと言われたタクトは今までスガタが見たことない位に赤くなっていた。
普段からアイドルのように奉られているからこういった誉め言葉には慣れていると勝手に思っていたのだが、そうでもないらしいとスガタは考えながら、恥じらいを誤魔化すようにメロンパンを食べることに集中しているタクトを見つめていた。


「まぁ可愛いけど、栄養の偏りは成長にも良くないからちゃんとご飯食べなよ」

「……何かそんなお母さんみたいなことをスガタに言われるとは思わなかった」

スガタの最も過ぎる指摘に照れていたタクトは本当に驚いたのか大きな瞳をぱちくりしていた。

「じゃあ、お弁当作ってこようか?」
「え、いや……そこまでワコに迷惑かけられないよ」
「えぇ……」

タクトは申し訳なさそうに手を振るが、逆にワコは本当に不本意というか残念そうに不満の声を上げた。

「じゃあ、自分で作るっていうのは?」
「料理……苦手なんだけど」
「そんなんじゃお嫁に行けないよ?どうせだし練習するのもいいんじゃないか」

そんなスガタの茶化すような言葉とアドバイスにタクトは心揺さぶられた。
メロンパンは魅力的だ。毎日メロンパンでもタクト的には全く問題ないのだ――しかし、

(お、お嫁に……?)

スガタの冗談混じりの何気ない言葉に存外ショックを受けているらしいタクトに気付いたワコは再び見つけた彼女の意外な女の子らしさの片鱗を垣間見れたようで嬉しくなりにこにこと見つめていた。

「それなら、スガタくんが協力してあげれば?」

「へ?」

味見係!とワコはビシッとスガタを指差してまるで任命でもするように力強くそう言った。

「言い出しっぺなんだから、協力しないと!ね?」
「別にいいけど……」
「え、え?」

スガタが軽く了承する一方で、お弁当を作らなければならない当の本人であるタクトだけが付いていけずに二人を何度も確認するようにきょろきょろと目を泳がせていた。

「流石に毒味係になる程酷いのは無理だけど」
「そっ、そこまで酷くない…と思う」

若干怪しい口振りのタクトに二人は顔を見合わせた。

(スガタくん、毒を食らわば皿まで!だよ)

(……まぁ、頑張るよ)





ツナシ・タクトの主食:メロンパン、メロンパン時々シンドウ邸の食事




彼女は高嶺の、花……?











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