ジョータク@ED後妄想
小悪魔タクト




「おい」
「へ?」
素っ気ない呼び声に何かと思いタクトが振り向くとそこにはホンダ・ジョージがいた。

「何ですか?」
「お前……」
何か彼の機嫌を損ねるようなことでもしただろうかとジョージからすれば見当違いなことをタクトは考えていた。
しかし、タクトがそう思ってしまうのも仕方のないことだろう。ジョージのその険しい表情を見れば機嫌が悪いと思う者が大半だろう――幼馴染みのベニオやテツヤが見れば、機嫌が悪いとかそんな単純なもんじゃないと言い切っていただろうが。

「せんぱ…「その荷物!」
遮るつもりはなかったようだが、不覚にもそのような形になってしまいジョージは益々眉間にシワを寄せた。
だが、タクトはそのこと自体は大して気にしていないようでこれですか?と呑気に首を傾げている。そして、そんな何気ないタクトの仕草にすらドキドキさせられていることを本人に悟られないようジョージは一人自分自身と闘っていた。

「……その荷物どうすんだ」
「スガタが寮を出てうちに来いって言うんで」
完全に荷物を移動させようと思ってと何でもないことのように言い放つタクトにジョージは目を見開き固まった。

シンドウと仲が良いのはよく知っていたが、寮を出て住まわせるなんて所業をこうも簡単に決められるとは
密かにタクトが寮に戻ってくるということに喜びを感じ、精々先輩として思う存分可愛がってやろうと思っていた――というのにそんな囁かな青少年の妄想も許さないとは、あの澄ました顔してなかなかに王様気質な後輩を思い出しジョージは静かに拳を握った。

「どうかしました?」
「いや、何でもねえよ」
とても言えない、シンドウに嫉妬したなんてと純粋な瞳で見つめてくるタクトに誤魔化しの言葉を返す。

「寮を出る、んだよな」
「ええ」
眩しい位に明るい笑顔でそう言われて何だかとどめを刺されたような気持ちになった。
元から別にそういう仲になりたいなんて無茶で高望みだってこと位分かってたさ、もしかしたらと思ったことがなかったと言ったら嘘になるが。
学校でもそれ以外でも自分よりずっとタクトと時を共にしているシンドウ・スガタと寮の先輩、元敵の自分とでは勝ち目なんてあってないようなものだ。分かっていた筈なのに喪失感で重苦しい気持ちになる。

「まあ、その…何だ」
先輩らしく快く見送ってやらねばと思い、言葉を探すが上手い言葉が見つからず時間だけが過ぎていってしまう。
そんなジョージをただ黙って見ていたタクトはソッと腕に抱えていた荷物を地面に置いた。
「タクト?」
それに気付いて一体どうしたのかと思い、口を開いた瞬間だった――柔らかい感触にこれは何だとはっきりしない頭を巡らせて、タクトの唇だと気付いた。
そして、訳が分からないままタクトはソッと顔を離してジョージに最上級の笑顔を見せた。

「お、おっ…お前、今」
動揺を隠しきれないジョージを余所にタクトは上機嫌で、益々ジョージは訳が分からない。
何故とかどうしてとか同じような言葉ばかりが頭の中で浮かんでは消えての繰り返しだった。

「好きだからですよ」
「へ?」
真摯に訴えかけてくる赤い瞳に呆気にとられてジョージは間の抜けた表情になってしまう。
好き、好き――タクトが俺のことを?そんな馬鹿な、と悶々と頭を抱えてしまっているジョージにタクトは軽くため息を吐いた。

「スガタの家に住むの僕は全然構わないし、寧ろ結構いい話だと思ってるんですよね」
ご飯もおいしいし、お風呂広いしとシンドウ邸の良いところ指折り数える。
シンドウ邸の外装を思い出し、確かに寮よりはあそこの方がいいと思うのも当然だとジョージは思った。
「――でも、先輩が行くなって言ってくれるなら話は別ですけど」
「なっ……!」

タクトはにっこりと笑ってそう囁いた。つまりそれはそれってえのはえーっとなどと意味のない声しか出て来ず、最早ジョージの頭はショート寸前だった。

目の前で天使のように微笑むタクトが自分が思っていたよりずっと強かな性格だったのだと思い知り何だこの赤い目をした小悪魔はと言いたくなる――だが、そんなところも愛おしいとすら思える自分も相当重症だったのだと思い知ってジョージは足下に置かれた荷物を手に取り、精々今だけでも格好付けさせろという思いで一杯だった。

「帰ってこいよ、タクト」




「これからまたよろしくお願いしますね」
「おお」

ぶっきらぼうな返事にも楽しそうに笑っているタクトを見て思いの外青春ってのも悪くないかもしれないなと思い、ジョージはタクトに釣られるように小さく笑みを浮かべた。






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