▼スガタク
神話前夜中途半端パロ



「君に出会えて本当に良かった」

そう言って微笑むタクトはとても綺麗で、儚く見えてスガタは抱きしめてあげたい衝動に駆られる。だが、スガタには彼が見えても触れることは出来なかった。触れたくても触れることすら出来ない彼の細い体に幾度となく触れようと試みた。そして、その都度彼に触れることも出来ないという事実を突きつけられた。

「でも、こんな触れることすら出来ない恋人なんて不毛だよ」

このままスガタと暮らすことが出来たらどんなに幸せだろうとタクトは思うが、それと同時に周囲に気味悪がられるスガタを見る度タクトの胸は締め付けられた。そして、そんなタクトの表情に気付くとスガタはいつも大丈夫だから、タクトの所為じゃないからと言って笑っていた。
タクトは知っていた、スガタは居もしない恋人に魅入られ狂ってしまったのだと周囲に言われていることを。
そんな風に言われてもスガタはタクトにただ毎日のように愛を囁いた。触れることすら出来ない恋人──純愛だと言えば聞こえはいいが、タクトはスガタが抱えている欲を知っていた。

「だから、スガタ……僕のことは忘れて欲しい」

ずっと言おうとして言えなかったその別れの言葉はいざ口に出すと思った以上に苦しかった。この言葉でスガタを傷付けてしまうかもしれない、ただそれだけが怖かった。

「タクト、僕は君を愛してる……君が僕を嫌いになってしまったのなら辛いけれど、その言葉を受け入れるよ」

一度言葉を切ってスガタは座っているタクトに視線を合わせるように膝を付いて話し始めた。

「だけど、タクトはまだ僕のことを好きでいてくれている」
「何で、そんなに自信満々なの」

図星をつかれて一瞬戸惑うが、タクトは眉間にしわを寄せてスガタに問いかけた。
スガタはそんなタクトを見て何がおかしいのかクスクスと笑った。笑うスガタにタクトは訳も分からず目を白黒させた。

「別れ話でそんな辛そうな顔するのはまだ好きでいてくれているからかと思ったんだけど」

違った?と全て分かっている癖に意地悪く訊いてくるスガタにタクトは顔を赤くしてそっぽを向いた。スガタはいつもそうだった、人の真意を聞き出してしまう。

「……違わない、けど」
「そうか、良かった」

ホッと安堵している様子に何だか更に恥ずかしくなり、タクトは赤くなった顔を隠すように俯いた。

「でも、スガタは本当にいいのか」

ずっと訊きたかったことだった。
スガタのように見目も良く性格も良い人間ならきっと自分なんかじゃなくても相手は見つかるだろう。タクトは男で更に触れることも出来ない。そんな自分が彼の恋人であって良いのだろうかという不安がずっとタクトを苛んできた。

「触れられなくてもいい、僕はタクトが好きなんだ」
「そんなの綺麗事だよ」

タクトはスガタに欲があるのを当然知っていた。触れたいと思ってくれていることも知っていた──知っているからこそ辛かった。

「まだ分からないのか?」

「タクトじゃないと駄目なんだ、タクトだから好きなんだって何で分からないんだ」

触れることが出来なくても愛していることには変わりはない、と少し照れながらも必死に語りかけてくるスガタは少し新鮮でタクトは嬉しくて思わず笑っていた。

「タクト?」

突然笑い出したタクトに驚いて声をかけると

「ごめん、スガタ」

一瞬、スガタはやはり彼は自分の傍から去っていってしまうのかと思い、唇を噛み締めた。

「──それと、ありがとう」
「え?」

顔を上げると、初めて出会った時と同じ温かな笑顔がそこにあった。

「スガタと出会ってすごく幸せで、これ以上の幸せなんてきっとないって思ってたんだけど」

タクトはスガタの金色の綺麗な瞳が好きだった。ずっとその瞳に見つめられていられたらどれだけ幸せだろうか──タクトはスガタと過ごす内にいつの間にか、例え触れることが出来なくても共に過ごすだけで幸せだと思えるようになっていた。

「僕もスガタが好きだよ」

だから、一緒にいてくれる?と小首を傾げて訊ねてくるタクトが愛おしくてスガタは大きく頷いて当たり前だと強く言い放った。

その時二人は触れあうことが出来なくても確かに幸せだった。







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