▼ジョー→(タク)+テツヤ
▽18話派生話





「おーい、ジョージ?」
「馬鹿ジョージ!」

失礼過ぎる呼び声は嫌という程に聞き覚えのある声だった。

「……んだよ」
「いつまで引きこもってるわけ?いい加減出てきなさいよ」

不機嫌丸出しの低いジョージの声にも幼なじみであるベニオは全く怯むことなく、腰に手を当てまるで母親のようにジョージを叱りつける。

「今日、毎年恒例のバーベキューだから!」
「俺は出ないから勝手にやってろよ」

素っ気ないジョージの返事にベニオは眉間に皺をよせた。
そんな二人のやりとりを少し離れた所で見守っていたテツヤが唐突に口を開いた。

「あのツナシ・タクトも参加するらしいけど──」

いいのか、と挑発するかのようなテツヤのその言い回しにジョージは険しい顔になる。

「──そいつが来るなら益々行く理由がねぇな」
「へぇ」

ベニオが楽しそうに目を細めて笑っている。
この目は明らかに面白いものを見つけた時のいつものベニオの目だということはジョージにもすぐ分かったが、これ以上何を言っても仕方ないと判断した。

「とりあえずお前ら練習の邪魔だからさっさと帰れ」
「はいはい、帰りますよーだ」
「精々頑張れよ、筋肉馬鹿」

余計なお世話だと思いながらもジョージはまたトレーニングに意識を向けた。







「で、お前本当に良かったのか?」
「あ?何の話だ」

新学期が始まり、会って早々にテツヤはそう訊ねてきた。

「バーベキューのことだよ!」

ジョージは参加しなかったバーベキューだが、話だけは周りが散々騒いでいた為多少聞いてはいた。色々大変だったようだが、よくは知らない。噂話ほどくだらないものはない。

「どうでもいいな」
「あいつもお前のこと心配してたぞ」

興味ないとそっぽを向いていたジョージがその言葉にすごい勢いで振り向いた。
そのジョージの異様な迫力にテツヤは思わず体を引いた。若干心もどん引きだったが。

「誰の話だ」
「は?」
「誰が心配してたのか訊いてんだよ!」

普段からお世辞にも柄が良いとは言えない男ではあるもののここまで凶悪なオーラを出しているジョージは久しぶりに見た気がするとテツヤは現実逃避しつつある意識の片隅で思っていた。

「あの、新入生のツナシ・タクトだよ!あいつも来るって言っただろ?」
「……ツナシ・タクトが」

俺を、と何やらボソボソと呟いているジョージに不安を感じつつテツヤは更にそう言えばと思い出したように切り出した。

「あいつの寮の部屋が燃えちまってさ」
「は?」

何言ってるんだこいつと言わんばかりのジョージの視線にテツヤはあの日の話を説明した。

「で、その……あいつはどうしてんだよ」

やや照れながらのジョージの質問にテツヤは少し恐ろしく感じながらも素直に答えてやる。

「あのシンドウの家に居候してるらしいけど」

それがどうしたと少しこの話をジョージに振ったことを後悔しつつ訊いた。
だが、テツヤは少しどころかかなり本気で話さなけりゃ良かったと思ってしまう羽目になった。
テツヤの言葉を聞いたその時のジョージの表情は鬼か化け物かというほどに恐ろしいものだったのだ。

「お、おい……ジョージ?」
「──そうか、居候、居候か」

ぶつぶつと呆然としながら呟くジョージの姿は、もしかしたらあのバイトの時以上にショックを受けているのかもしれないとテツヤが思ってしまうほどだった。

「お、お前……」
「別にバーベキュー参加すれば良かったとか思ってないからなっ!」

本当だからな、と念を押すように吐き捨てジョージはテツヤから逃げるように走り去ってしまった。テツヤは一人小さくなっていくジョージの背中を見つめてそんなこと言ってねえよと思いつつ嫌な予感に身を震わせた。

「まさか、あいつに限って……有り得ないよな」

あははという乾いた笑いは逆にテツヤの不安を煽るばかりだった。
あんなジョージの姿は初めて見たと言っても過言ではないだろう、あんな──

「恋する乙女みたいな……」

自分で言っといてなんだが、気持ち悪いなとぼやきながらテツヤは重い足取りで教室へと歩き出した。


(ベニオも相談位なら乗ってくれるだろうか)




恋は人を変える──筋肉馬鹿を恋する乙女(もどき)にしてしまう位には







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